第15話 雨上がりの贈り物
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雨が上がり、王都の空には澄み渡る青空が広がっていた。
アドラー侯爵邸の執務室。リリアーナは机の上に積み上げられたいくつもの木箱を、満足そうに検品していた。
「お嬢様、第三文官室へお届けする差し入れの準備が整いましたよ」
専属メイドのマリーが、焼き菓子の詰まったバスケットを抱えて笑顔を見せる。
「ありがとう、マリー。ふふ、今日はお菓子だけではありませんのよ」
リリアーナは第三文官室の状況を思い出していた。
以前、シードには特注の万年筆を贈った。おかげで彼個人の処理速度は格段に上がったはずだ。だが——。
前行程を担当する同僚たちが古い羽ペンとインクで手作業の滞りに苦しんでいるため、午前中の書類がずっと途中で止まっていたのだ。そして夕刻、ようやく回ってきた山のような書類を、シードが一人で必死に処理していた。
(シード様お一人に良いペンをお渡ししても、部署全体の流れが滞っていたら意味がありませんわ。問題はシード様ではありませんの。止まっているのは、お部屋全体の流れですもの!)
前行程の滞りを解消しなければ、結局シードへのしわ寄せは消えない。そう考えたリリアーナは、王都最高の文具工房から買いそろえた『最高品質の羽ペンと速乾インクのセット』を、第三文官室の全員分用意したのだった。
「さあ行きましょう。皆様が快適にお仕事できますように!」
♢
王宮の地下『第三文官室』
ドアを開けると、相変わらず大量の書類の山と、羽ペンをカリカリと走らせる不満げな音が満ちていた。
「リリアーナ様! 本日もご訪問いただき恐縮です!」
室長が立ち上がり頭を下げる。
リリアーナは穏やかに微笑み、マリーとともに抱えてきた大きな木箱をテーブルの上に置かせた。
「皆様、連日の業務でお忙しいでしょう。本日はアドラー家から皆様へのお見舞いをお持ちしましたわ」
箱が開かれ、中にぎっしりと並べられた美しい羽ペンと速乾インクが現れる。
「なんと!リリアーナ様、このような高級品を全員に!?」
室長をはじめ、文官たちが驚愕の声をあげる。
リリアーナは上品にすまし顔を作った。
「ええ。いつも王国の為に尽力してくださる皆様に、少しでも快適にお仕事をしていただきたくて。
どうぞ皆様でお使いくださいね」
(シード様の負担が減れば少しはお休みできるはずですわ……!)
奥のデスクで、リリアーナから贈られた万年筆を握っていたシードが、目を見開いて立ち上がった。
「リリアーナ様……全員分だなんて、あまりにもご負担が……」
「いいえ、シード様。皆様がお仕事しやすくならないと……私が困りますの」
真顔で言い切るリリアーナに、シードは言葉を詰まらせた。
(部署全体の作業が滞れば、あなたの残業が増えてしまうもの!)
「皆様のお役に立てば幸いですわ」
リリアーナは優しく微笑むのだった。
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