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破滅ルート回避?そんなことより推しの「モブ文官」に全力で推し活ですわ!そしたら世界最強の黒幕になっちゃいましたの!!  作者: 逢華 (最後の挑戦)


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第12話 侍女の手と、日頃の感謝

マリーが退室した後の静寂の中で、リリアーナは自室のドレッサーの前に立っていた。


鏡に映る自分の手を見る。白く、柔らかく、毎晩手入れされた傷一つない侯爵令嬢の手だ。


(……私は、シード様のお指のことばかり心配していましたわ。けれど、毎日私のすぐ傍で世話をしてくれているマリーの手は、あんなにも硬くなっていたなんて……)


冷たい水での水仕事や毎日の掃除。「侍女の手など、みんなこのようなものですから」と寂しげに笑ったマリーの顔が、胸に小さく引っかかっていた。


(推しを慈しむ気持ちと同じくらい、私を支えてくれる人たちの苦労にも目を向けなくっちゃですわ……)



翌朝、リリアーナは朝食を終えると、屋敷に出入りしているお抱えの薬師のもとへ向かった。


「……肌の保護、でございますか?」


老薬師は不思議そうに首をかしげた。


「ええ。……昔読んだ本で、油脂と蜜蝋を混ぜて肌の水分を閉じ込め、カモミールの油で炎症を抑える練り薬の記述を見た記憶がありますの。うちの水仕事をする侍女たちに使わせてあげたいのですが、作れませんかしら?」


リリアーナの発想に薬師は感心したように頷き、専門家としての助言を添えた。


「なるほど、それは理にかなった配合です。では、ベタつきを抑えるために練り込む割合を調整してみましょう」


リリアーナの知識と薬師の確かな技術が合わさり、数日後、ハーブのやさしい香りが漂う肌なじみの良い『練り膏薬』が完成した。


リリアーナはそれを小さな磁器の容器に分け、まずマリーへと手渡した。



「マリー!毎日屋敷を綺麗にしてくれてありがとう。お仕事の後に、その指先に塗ってみてほしいの!」


手渡された小箱に、マリーは驚いて目を見開いた。


「お、お嬢様……! 私のような侍女に、このようなものを……!」


「マリーだけではありませんのよ。水仕事をする皆さんにもお渡ししてあります。貴女たちの手が守られてこそ、この屋敷の美しさが保たれるのですから」


マリーの目がじわじわと涙で潤んでいく。彼女は小箱を胸に抱きしめ、深々と頭を下げた。


「……感謝いたします、リリアーナ様。大切に使わせていただきます!」


数日後、その膏薬によって侍女たちの手荒れは次第に和らいでいった。何より「自分たちの労働を気遣ってくれた」という喜びが、屋敷の雰囲気をどこか温かいものに変えていた。



そして、いつものように王宮へと向かう馬車の中。


隣に座るマリーが、手元をいとおしそうに撫でながら微笑んでいた。


「お嬢様、見てくださいませ。おかげさまで、手がずいぶんと楽になりました」


「ふふ、本当ね。綺麗になってよかったわ」


「はい! これなら、リリアーナ様にお出しするお茶のトレイも、より一層気持ちよくお持ちできます!」


嬉しそうに話すマリーを見て、リリアーナは静かに胸を撫でおろした。


(身近な人たちが健やかに過ごせていること。それができてこそ、推しへのサポートも胸を張ってできるというものね)


マリーの手をもう一度見て、リリアーナは満足そうに頷いた。


そこで、ふと思い出す。


毎日、何百枚もの紙をめくっている細く長い指。


(……あら?)


リリアーナはぱちりと瞬いた。


(これ、シード様にも必要なのではなくて!?)


マリーの晴れやかな笑顔に送られながら、リリアーナはこれから向かう第三文官室へ思いを馳せるのだった。

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