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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
6章 卒業編

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68 王子様とバレンタイン

俺と華が仲直りしてから1週間。

 季節は2月14日、バレンタイン当日を迎えていた。

 

「ハッピーバレンタイン、白鷺さん!」

 

 校門前には、朝から大量の女子生徒が待機していた。

 お目当てはもちろん、女子から絶大な支持を受けている『王子様』に。

 

 そこには綺麗な列ができており、さながらアイドルの握手会のような形式で華が袋を受け取っていくという、異例の光景が広がっていた。

 

 うちの学校は生徒会室で誕生日パーティーをしてもお咎めがないほど校則が緩い。

 それゆえ、この謎のイベントも黙認されているようだった。俺はといえば、彼女の付き人のように、受け取った袋を次々と預かっていく。

 

「あの、白鷺さん! これ、バレンタインです。よかったら受け取ってください!」

 

「わざわざありがとう。私もいくつか作ってきたのだけれど……もう他の人に渡してしまって。ごめんなさいね」

 

「大丈夫です! その代わりラブラブな話を今度聞かせてください!」

 

「え……まあ、それでいいのなら」

 

「もちろんです! それと、中に上原さんの分も含まれているので、一緒に食べてください! じゃあ、私はこれで!」

 

 去り際、その女子生徒は俺にも会釈してくれた。俺の分まで用意してくれたのは素直にありがたい。

 だが、隣に立つ華は、顔には出さないものの、どこか不貞腐れているような、複雑な表情を浮かべていた。

 

◇ ◇ ◇

 

 放課後。

 あいも変わらず、俺たちは生徒会室にいた。

 実を言うと引き継ぎ業務はすでに終わっているので、今の俺たちに急ぎの仕事はない。

 

 だが今日はバレンタインということもあり、華がもらった大量の贈り物を整理しなければならなかった。

 既製品は後回しにして、まずは手作りのものから少しずつ胃袋に収めていく。

 

 ちなみに、華がもらったのは全部で50人分以上。

 俺もその「おこぼれ」という形で20人ほどからいただいてしまった。

 不本意な形ではあるが、俺の人生におけるバレンタイン最高記録の更新である。

 

「大地くんは、華ちゃんに何をもらったの?」

 

 お茶を飲みながら、鳥羽さんが何気なく尋ねてきた。

 

「あー、俺は来週もらうことになっています。こうなることは事前に予想できていたので、あえて別日にするって本人に言われました」

 

 華としては不満そうだったが、それ以上に「自分のプレゼントは一番コンディションの良い状態で味わってほしい」というこだわりがあるらしく、戦略的に日程をずらしたのだ。

 

「さすが、計算済みね。……んで、華ちゃんは何をあげるつもりなの?」

 

 鳥羽さんの問いに、華はチョコを口に運びながら、意味深にニヤニヤとし始めた。

 

「私が大地にあげるもの……何だと思う?」

 

 その表情を見た鳥羽さんと菊池さんは、顔を見合わせて考え始めた。

 

「まあ、重い女があげるものと言えば……自分にリボンをつけて『私を食べて』とか?」

 

「華さんなら、チョコに自分の血とか混ぜるんじゃないですか?」

 

「私のことをなんだと思っているのよ! 流石に、そこまではしないわよ!」

 

 クスクスと笑う2人に対し、華は「ガルル」と唸るような勢いで怒り始めた。


 俺としても血だけは勘弁してほしいが、周囲からそこまで「やりかねない」と思われていることが、彼女にとっては不本意らしい。


「私たちに、『大地にあげないで』なんて釘を刺すんだから、そう思われても仕方ないでしょ?……結局何あげるのよ?」


「ふふ……正解は、ポッキーでした!」


 華が勝ち誇ったように宣言した。

 正直、華のことだから、寝る間も惜しんで作った超大作のチョコを食べさせたいと言うのだと思っていた。

 華にもらうものはなんでも嬉しいが、でもお馴染みの「ポッキー」だというのだから、意外すぎて拍子抜けしてしまう。

 

「えー、ポッキー? 恋人からそんな安上がりなものをもらっても、あんまり嬉しく……あ、そういうこと?」


 非難の声を上げようとした鳥羽さんの動きが、ピタリと止まった。

 何かに気づいた彼女が、自分の口元に指を当てるようなジェスチャーを華に向ける。

 すると華は、顔をこれ以上ないほど真っ赤に染めながらも、嬉しそうに両手で「マル!」と答えた。


「あー……ポッキーゲームってこと?」

 

「そう!さすが私の彼氏」

 

 ストレートすぎる要求に、俺は思わず天井を仰いだ。

 

 あの誕生日、俺たちは初めてのキスをした。

 そこから彼女はどうやらその味を占めてしまったようで、最近のスキンシップの取り方はかなり積極的だ。

 

 しかも、自分からは決して仕掛けてこない。

 こちらから応じると顔を真っ赤にして照れまくる癖に、要求だけは一丁前なのだ。

 

「えぇ……。ちなみに華さん、何箱準備しているんですか?」

 

 菊池さんが引き気味に尋ねると、華は至って真面目な顔で指を立てた。

 

「ええっとね、10箱」

 

 その言葉を聞いた瞬間、菊池さんは神速の指さばきでスマホを操作し、俺たちにその画面を突きつけてきた。

 検索窓には『ポッキー 1箱 本数』の文字。

そして表示された結果には、『2袋入りで合計34本程度』と記されている。

 

 つまり、10箱なら340本。

 340回……ということだ。

 華はといえば、その膨大な回数を想像しているのか、ずっと嬉しそうにこちらを熱っぽく見つめている。

 

「最近ようやくキスしたって嬉しそうに言っていたのに、もうこれなのね……」

 

「あー、もう知っているんですね、色々と。まあ、そうなんですよ」

 

 鳥羽さんの呆れ声に、俺は力なく応じるしかなかった。

 

「あまり知り合いの生々しい話は聞きたくないのだけれど……。華ちゃん変なところで奥手よね」


「ゲームを口実にできるんだったらするしかないじゃない」


 準備の周到さといい、逃げ道を塞ぐ手際の良さといい、愛の重さが規格外すぎる。

 

「……ねえ、もう私たち帰っていいかしら。もらったチョコより甘いものを見せられて、なんだか胸焼けしそうなんだけど」


 鳥羽さんが心底疲れたような顔で立ち上がる。

 

「あはは……す、すみません」

 

 かくして、バレンタイン当日の放課後は、彼女の愛の重さを周囲に再認識させる形で平和(?)に過ぎていった。



 

 そして、約束の1週間後。

 俺の部屋のテーブルには、彼女の宣言通り10箱のポッキーがタワーのように積まれることになる。

 

「それじゃあ大地……1本目、いくわよ?」

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

 そして俺は、彼女の『重すぎる愛』と、340回という甘いプレッシャーを、文字通り全身で受け止めることになるのだった。

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