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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
6章 卒業編

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67 王子様と誕生日パーティー

「「反省しなさい!!」」

 

「……ごめんなさい」

 

 せっかくの誕生日パーティーだというのに、俺は床に正座していた。

 

 机の上に置かれたスマホの画面越しに、鳩ヶ谷さんと鶴見さんからとんでもない怒号を浴びせられている。

 2人の耳にも事の顛末は入っていたようで、容赦のない説教がしこたま飛んできた。

 

「遠藤、あんたも! 自分が別れたからって、他のカップルを巻き込むんじゃないわよ。大地も大地よ、不安なのはわかるけど、そんな簡単に別れるなんて言葉を口にしない。私に言ったじゃない、『幸せにする』って!」

 

「「本当に……すみませんでした」」

 

 ついでに画面の端にいた和香にもこっぴどく怒られた。俺と遠藤、2人まとめての公開処刑である。

 

「ほら、せっかくの誕生日なんだから! 説教はこれくらいにして、ちゃんと祝うよ。鏡花、茜、米原さんも、わざわざ繋いでくれてありがとうね」

 

 鳥羽さんの差配で、俺の説教タイムはようやく幕を閉じた。……助かった、命の恩人だ。

 

 気を取り直して、ケーキを囲みながら次々とプレゼントをいただく。

 

 バスケの観戦チケットや、俺が気になっていた料理の本。さらには特に交流がなかった生徒からまで「普段から尊いものを見せてもらっているお礼です」と、よくわからない理由で品物を貰ってしまった。

 

 そして、真打ちである華の番がくる。

 

「私からは、2つあるわ。右の袋と左の袋、どちらから見たい?」

 

 差し出された2つの袋。

 俺は迷った末、少し大きな箱が入っていそうな左の袋を選んだ。

 中にはシックな黒い箱が入っており、開けると洗練されたデザインの小瓶が現れた。

 

「1つ目は、香水よ。私が普段使いしているブランドのメンズ用。これをつけていれば、いつでも私のことを思い出せるでしょう?」

 

「あ……うん、ありがとう。お揃い、嬉しいよ。……次のこれは?」

 

 次に手に取った茶封筒の中から出てきたのは、一見すると普通の手帳だった。

 

「それは5年分の予定が書き込める手帳。……中、見てみて?」

 

 来年の4月から、5年後の春まで書き込める長期スケジュール帳。

 パラパラとページをめくった俺の手が、あるページで止まった。

 

『初めて大地の家に行った記念日』

『1年記念日』

『プロポーズ予定日』

 ……。

 

 俺の横で中身を覗き込んでいた鳥羽さんも、南さんも、そのあまりに具体的な予定の数々に、温度のない冷ややかな目で華を見つめている。

 その場にいた一同の総意が、声となって漏れた。

 

「「「重い……」」」

 

「失礼ね、重くないわよ!! これくらい、他のカップルだって当然しているはずだわ!」

 

「……ちなみに、他の皆さんもこういうの、してますか?」

 

 俺が震える声で3年生の先輩たちに尋ねると、全員が力強く、横に首を振った。

 あ……やっぱり俺たちの付き合い方って、平均からかなり外れているんだな。

 そう改めて実感せざるを得なかった。

 

「というか華さん。あんなに派手に喧嘩していたのに、よくここまで準備していましたね。もし本当に別れることになっていたら、どうするつもりだったんですか?」

 

 菊池さんが素朴な疑問をぶつけると、華は一点の曇りもない真面目な顔でこう言い切った。

 

「そうね……。仮に別れるって言われても、しがみついてでも頷くつもりなんて1ミリもなかったし。……万が一、本当に別れていたら、普通に死んでたわ」

 

「あはは……」

 

 菊池さんは乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。

 冗談でもなんでもなく、彼女は本気で言っている。

 それが『白鷺華』という女の、美しくも恐ろしいところだった。


「よくもこれでまぁ、他に好きな人ができるかもとか言ったね大地くん……君はこうした責任を取んないといけないよ流石に。返品もクーリングオフも無理だよ」


南さんにそう言われて俺は返す言葉もなかった。

 この王子様をこうした責任を取れるのは俺しかいないのだろうなと改めて痛感させられた。


 ◇ ◇ ◇


 パーティーも終わり、俺と華は2人でいつもの道を並んで歩いていた。

 こうして一緒に帰るのも久しぶりで、なぜか付き合いたてのような緊張が込み上げてくる。

 お互いに言葉が見つからず、夜の静寂だけが2人の間に流れていた。

 

「ねぇ、大地……」

 

 俺の服の袖をギュッと握り、下を向いたまま華が足を止めた。

 

「私も不安だったの。来年離れ離れになった時、私という存在に縛られない方が、大地にとってはいいんじゃないかなって……」

 

「それは俺も……だからあんなこと言って」

 

「うん……今ならわかるわ。大地よりいい人なんていないし、私、あなたしか見ていないもの。……お互いの想いをちゃんと伝え合っていなかったから、こんなに拗れちゃったのよね、私たち」

 

「……ごめん俺は自分のことばかりだった。1人で抱え込んで、君に相談もせずにあんなことを華に――」

 

 すると今度は、華が俺の両手を握り、真剣な表情で射抜くように見つめてきた。

 

「好き同士なんだから、いいことも、辛いことも嫌なことも、全部共有しましょう。 またぶつかることもあると思うし、もしかしたら嫌なところも見えてくるかもしれない。 でも……でもね」


「 ――私はこれからも、未来も、ずっとあなたの隣を歩きたいの。ずっとずーっと、一緒にいたいの」


 その彼女の顔は月夜に照らされとても綺麗で美しかった。


「うん……俺も、もっと色々と話し合っていきたい。これからのこと、俺たちの未来のこと。俺たちの時間は、まだまだこれから先も長いんだから」

 

 俺の言葉に、華は花が綻ぶような笑顔を見せ、俺の半歩先を嬉しそうに歩き始めた。

 その横顔は、俺でもわかるほど幸せに満ちていて――心の底から愛おしいと思った。

 

 不安や後悔、将来への悩み。

 それらが今日この瞬間にすべて消えたわけじゃない。

 でも、お互いが打ち明けない限り、それは己の内側だけで腐っていってしまう。


 俺はそういう意味で、華に甘えきれていなかったのかもしれない。

 

「まぁ、それはそれとして……私、悲しかったなー。寂しかった。……ねえ、何かお礼してほしいんだけど?」


 すると彼女は、ニヤニヤと悪戯っぽくこちらを向いて「何か」を求めてきた。

 今までなら適当にはぐらかしていたかもしれない。

 ずっと、自分の不安から逃げるために俺からのスキンシップを避けてきた部分があったから。

 

 でも、今なら。


「華、目瞑って」

 

「え? あ……うん」

 

 改めて向き合うと、『王子様』と呼ばれるほど綺麗で美しい顔。

 でも、今の俺にとっては、守るべき眠り姫だ。

 俺は、彼女の唇に、自分の唇を軽く重ねた。

 

「……これで、よかった?」

 

「……ちがっ! 私は、手を繋いでって言おうと……でも、よ、よかった……」


華の声は消え入りそうなほど小さくなり、顔はみるみるリンゴのように真っ赤に染まっていく。

 彼女はそのまま、両手で頬を押さえてその場に座り込んでしまった。

 

「自分からはグイグイ来るのに、こういうのはウブなんだな」

 

「だ、だって、初めてなの! 少女漫画とかアニメでしか見たことなくて、妄想は何度もしてたけど……本物は、全然違うんだもん……っ」


「ねぇ華」

 

「な、なに? 今、恥ずかしくて顔が見られないの……」

 

 今日くらいは、俺から攻めてもいいだろう。

 いつもリードされっぱなしだし、今日は俺の誕生日で、おまけに仲直りをした直後なんだから。

 俺は自分にそんな言い訳をして、彼女の顎に手を添えて顔を上げさせると、もう1度、今度は少し長めに唇を重ねた。

 

「っ……!?」

 

 華は完全にフリーズし、目をぱちぱちとさせたまま耳まで真っ赤に染まって止まってしまった。

 

「俺、これからはもっと華のことを甘やかすからさ。今度は華も、俺のことたくさん甘やかしてね」

 

「うぅぅ……バカ! 当たり前よ! ……でも! でも、2回もキスするのはずるいわよ!!」

 

 付き合って3か月目にして、ようやくわかった。

 『王子様』と称される彼女は、愛が重くて自分からはグイグイ来るくせに、こちらからの不意打ちにはとことん弱くて――そして、たまらなく愛おしい。

 

 まさに「喧嘩の功名」といったところだろうか。

 

 俺たちは赤くなった顔を夜風に冷やし、今度こそしっかりと手を繋ぎ歩き出した。

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