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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
6章 卒業編

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63 王子様と旅行計画

「俺、来年も生徒会をやることになったよ」


家に帰り、母さんと千夜に報告すると、2人は自分のことのように喜んでくれた。文化祭での様子や、華から俺の頑張りを聞いていたという母さんは、「よかったわね」と優しく微笑んでくれた。


「おめでとー! ……お祝いになるかわからないけど、これをあげるわ」


母さんはそう言って、隅に置かれていた段ボールの小包を俺に手渡してきた。先日、母さん宛てに届いていたものだが、中身がわからないまま放置されていたものだ。俺がカッターで封を切ると、中からは一冊の厚い本が出てきた。


「なにこれ、旅行のカタログギフト?」


ビニール袋から取り出しページをめくっていくと、全国各地の有名な温泉旅館の写真がずらりと載っていた。

 

「これ、忘年会のビンゴ大会で1位になった景品なのよ。宿泊チケット付きだから、3月にでも華ちゃんと行ってくれば?」


「……いや、流石に母さんが当てたんだから、母さんが使いなよ」


豪華な内容に気後れしてそう返すが、母さんは首を振った。


「千夜の小学校の入学準備があるから、私はなかなか時間が取れないの。それに、華ちゃんとは来年から離れ離れになっちゃうんでしょ?」


確かに嬉しい提案だが、これほど高価なものを素直に受け取っていいのだろうか。

 俺のそんな葛藤をよそに、母さんは「有効期限もあるんだからね」と言い添えて、カタログギフトを俺の手に押し付けてきた。


 ◇ ◇ ◇

 

 今日は華が登校していると聞いたので、放課後、俺は母さんに半ば押し付けられたカタログギフトを持って3年生の教室へと向かった。

 

 自由登校の時期なので登校している生徒は少ないが、その中でも明らかに目立つ、複数の女子に囲まれている座席があった。

 

「白鷺に用事?」

 

「あ、そんな感じです。すみません」

 

 通りがかった3年生の男子の先輩に声をかけられ、俺は華の机まで案内してもらった。

 最近は俺が顔を出すと、自然と「華への用事」だと察して道を開けてくれるようになっている。

 華を囲んでいた先輩たちも俺に気づくと、「いらっしゃい」と椅子を準備してくれた。

 

「大地、どうしたの? わざわざ教室まで来て」

 

「華に用事があって……。もしかして、何か取り込み中だった?」

 

 机の上には大量のお菓子が広げられており、皆で談笑していたようだ。

 

「今日、この子の誕生日だったから。みんなでお菓子を食べて駄弁っていたのよ」

 

 華が指を指したおさげの先輩が、照れくさそうに手を挙げてお辞儀をしてきた。

 

「おめでとうございます……」

 

「それで、ここで言えないような大事な用事? だったら一度席を外すけれど」

 

「あー……いや、そこまで大したことじゃないよ。実はこれを見てほしくて――」

 

 俺は昨日、母さんに強制的に持たされたギフトブックを机に出した。華がページをめくり始めると、周囲の先輩たちも興味津々で覗き込んできた。

 

「旅行のギフトブック? ……もしかして、お義母様にプレゼントしたくて一緒に選んでほしいってこと?」

 

「そうじゃなくて、ええと……。母さんが、ここから選んで華と卒業旅行に行ってきなさいって。だから、もしよかったら……2人で旅行に行かない?」


 1週間同じ家に泊まってたとはいえ、旅行に行こうというのはまた気持ちが違う。

 俺は顔を真っ赤にしながら華にそんなことを言った。

 その瞬間、周りの先輩たちも頬を染め、教室の時間が止まったかのような静寂が訪れた。

 恐る恐る華の顔を見ると、彼女はこれまで見たことがないほど顔を真っ赤にしていた。

 

「大地と旅行……2人きりで……温泉……!? 行く! 絶対に行くわ!!!」

 

 華が身を乗り出し、満面の笑みで即答した。

 ハイテンションな彼女の様子に俺が驚いていると、周囲からも「きゃあああ!」と黄色い歓声が上がり、一気に盛り上がり始めた。

 

「華ちゃん華ちゃん、これ……」

 

 誕生日だったおさげの先輩が華に耳打ちすると、彼女たちは「女だけの秘密会議があるから」と言って、俺はあっちへ行けとばかりに追い払われた。

 ……女子の団結力、恐るべしである。

 

 手持ち無沙汰になった俺に、近くにいた男子の先輩たちが同情の眼差しで話しかけてくれた。

 

「上原くんだよね。話はよく聞いてるよ」

 

「え、どんな話ですか?」

 

「まあ……惚気かな。『上原くんならそれくらいしてくれるのに』って俺の彼女に比較されるから、たまったもんじゃないけどね」

 

 俺の知らないところで、思わぬ被害を受けている先輩たちがいるらしい……。

 申し訳ないが、俺としては大したことをしている自覚はないのだが。

 

「大地!! こっちに来て、決まったわよ!」

 

 思考を遮るように華が俺の手を取り、自分の席まで強引に引っ張っていった。

 男の先輩たちに会釈をすると、「いってらっしゃい」と温かい目で見送られた。

 

「日程だけど、卒業式の前日がベストね。この2日間なら大地も学校は休みでしょ? ここで行きましょう。……場所は、移動を考えて関東にするわ。それで、候補なんだけど――」

 

 2人の共有カレンダーに『旅行予定日』として3月の予定が書き込まれた。

 華は周囲の先輩たちと相談しながら、旅行先のURLを10個ほど送ってきた。

 

 スマホの画面には、『冬に行くべき関東の絶景スポット10選』や『高校生でも楽しめる温泉宿5選』といった魅力的な記事が並んでいる。

 

「ちょっと、大地。聞いてる?」

 

 華が不思議そうな顔で、こちらを覗き込んできた。確かに、彼女と旅行に行けることが決まって嬉しい反面、なぜかどこか落ち着いている自分がいる。

 

「ごめん。はしゃいでる華が、あまりに可愛くてさ」

 

 俺が本音を漏らすと、華は照れたように顔を隠し、小さな声で続けた。

 

「……そりゃあ、大好きな彼氏と旅行に行けるってなったら、誰だって嬉しいに決まってるでしょ……」


 こんな顔されたら俺も照れることしかできない。

 高校生での彼女との最後で大きなデート。


 それはとても楽しく幸せなものになりそうだった。


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