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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
6章 卒業編

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62 王子様と生徒会選挙

白鷺姉弟と過ごしたこの1週間は、正直に言って過酷だった。

 心も体も、一瞬たりとも休まる気がしなかったのだ。


寝る時になれば、なぜか2人が当然のような顔をして俺の布団に潜り込んでくるし、出かけるにしても基本は常に一緒。そのせいで、3人で公園で遊んでいれば、見ず知らずの人から「お若いご夫婦ですね」なんて間違えられる始末だった。その時の華の、否定もせずに悦に入っていた表情は今も忘れられない。

 おまけに帰省中の友人や生徒会メンバーからもものすごい量のチャットが飛んできて、対応に追われる日々……。


そんな波乱の冬休みも終わり、今日は3学期の始業式だ。


「3学期は短いですが、インフルエンザなどの流行り病が発生する時期でもあります。2年生は特に大学受験に向けた準備期間ですので、体調管理をしっかり……」


俺は壇上の隅で、校長の長話をぼんやりと聞いていた。

 実際の登校日は少なく、50日も残されていない。それに3年生はまもなく自由登校になる。そうなれば、学校で華と顔を合わせられる機会は、今よりもずっと少なくなってしまうだろう。


……何か思い出を作らないと。そうじゃないと、俺たちは。


胸の内の不安がじわじわと大きくなっていくのを抑えられないまま、校長の話が終わり、10分の休憩に入った。

 3学期の始業式には、次期生徒会役員選挙の演説も組み込まれている。現役員である俺も、当然これに参加しなければならない。

 

 うちはスポーツ強豪校ということもあり、生徒会に立候補する奇特な人間はそうそういない。だから自然と、俺と菊池さんによる信任・不信任を問う形式の選挙になっていた。


俺が演説原稿を最終確認していると、ものすごい形相を浮かべたクラスメイトたちがこちらに寄ってきた。

 何事かと思い、俺も急いで駆け寄る。


「どうしたの皆、そんなに焦った顔して?」


「遠藤と朝から連絡が取れないんだよ! 担任も理由を知らないらしいし……応援演説をする予定だったのに、どうすればいい!」


佐々木たちが焦燥しきった声で告げた。

 一応は形式上の選挙だが、立候補者には「応援演説」という枠がある。今回、俺は親友の遠藤にそれを頼んでいたのだが、どういうわけか彼は無断欠席しているらしい。


「鳥羽さん、応援演説をしてくれる友人がいなくなってしまって。俺1人だけでも大丈夫ですかね?」

 

 近くにいた鳥羽さんと華に相談すると、2人は難しい顔を浮かべた。


「……まあ、制度上は1人でも問題はないけど。ただ、印象はあまり良くないかな」

 

 そうだよな。応援演説がいないとなると、「こいつには頼める友達が1人もいないのか?」「人望がないのに副会長を務まるのか?」と思われかねない。それは避けたいところだが、この土壇場で代役を探すのも酷な話だ。


「そうですよね。……まあ、しゃーないんで1人で行きますわ」


いきなり全校生徒の前で話せと言われて、即座に対応できる奴なんてそういない。結局、俺は1人でステージに上がる覚悟を決めた。


◇ ◇ ◇

 

「次に、副生徒会長に立候補した上原大地くん、お願いします」


菊池さんの演説が終わり、ついに俺の番が来た。

 菊池さんはクラスメイトにしっかりと応援演説を頼んでいたようで、会場からも手応えのある拍手が送られていた。同じクラスになった当初、誰とも交流を持とうとしなかった彼女が、今やクラスメイトに背中を押される仲になっている。その成長が少しだけ眩しかった。


俺はゆっくりと、体育館中央の演壇へ向かった。

 そこから見えるのは、1000人近い全校生徒の視線が、一斉に俺へと降り注ぐ光景。


「――ただいま紹介にあずかりました、上原大地です。僕が副生徒会長として掲げる公約は、大きく分けて3つあります。まず1つ目は――」


 用意していた内容は、一字一句間違えずに伝えることができた。

 事前に華や鳥羽さんに相談し、何度も練り直した甲斐もあって、公約自体に隙はないはずだ。

 台本を丸暗記した内容を5分ほどかけて話し終えると、会場からはパラパラと、しかし確かな手応えを感じさせる拍手が湧き起こった。


 先輩たちのように、人を引き付けるような話術はないので必死だったがなんとかみんなが静かに話を聞いてくれた。

 いい意味でも悪い意味でも俺は学校で目立っているお陰かその知名度が、今回ばかりは功を奏した形だろう。


 やりきった。そう確信してお辞儀をし、演壇を離れようとしたその時だ。


 「――上原さん、ありがとうございます。応援演説として同じクラスの遠藤さんにお願いしていましたが、本日は体調不良のため欠席となります。そのため、遠藤くんに代わりまして、現生徒会副会長・白鷺華が応援演説を行います」


体育館に響き渡った放送委員のアナウンスに、俺は足が止まった。

 ……聞いていない。

 驚いて舞台袖の鳥羽さんの方を見ると、彼女はお腹を抱えながら、ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべていた。確信犯だ。

 

ざわざわと会場が色めき立つ。

 そんな喧騒を切り裂くように、華がステージに上がってきた。


 普段俺に見せる甘えた表情など微塵も感じさせない。堂々とした足取り、そして全校生徒を射すくめるような凛とした佇まい。

 それは全校生徒が憧れる王子様の姿。


 彼女は俺の横を通り過ぎる瞬間、誰にも気づかれないように、いたずらっぽくウインクをしてきた。


 「ただいま紹介に預かりました、現生徒会副会長の白鷺華です。急遽の交代となりましたが、私が上原大地の応援演説をさせていただきます」

 

 マイクを通した彼女の声は、驚くほど透き通っていて、それでいて重みがあった。

 1000人近い生徒たちが、水を打ったように静まり返る。


 「私がこの1年、誰よりも近くで彼を見てきて確信していることがあります。彼は、どんな逆境にあっても決して逃げ出さず、周囲のために自分を捧げられる人間です。夏休み、私が個人的に困難に直面していた際も、彼は誰に頼まれるでもなく私の隣に立ち続けてくれました」


 俺の内心の焦りを余所に、彼女の言葉は熱を帯びていく。


 「彼が副会長になれば、生徒会はもっと身近で、もっと温かい場所に変わるでしょう。私の後任を任せられるのは、大地しかいません。……上原大地を、私は心から推薦します」


 演説が終わった瞬間、先ほどの俺の時とは比べものにならないほどの、割れんばかりの拍手が体育館を揺らした。


華は満足そうに微笑むと、呆然と立ち尽くす俺の手を、演壇の下で一瞬だけ強く握ってからステージを降りていった。



 結局、主役の俺より目立っていた華のお陰で(?)晴れて、生徒会副会長に就任した。


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