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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
6章 卒業編

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60 王子様と初詣

 クリスマスも終わり、年明けもあっという間だった。

 例年なら母さんの実家で過ごし、始業式の前日に帰ってくるのがルーティンだったが、今年は違った。


「すみません、お待たせしました!」


「大丈夫だよ、大地くん。あけましておめでとう!」


 今年は、生徒会の人たちと初詣に来ていた。

 俺だけ1日の夜に帰ってきて、今日こうしてみんなで神社まで足を運んでいる。


「みなさん、あけましておめでとうございます」


 グループチャットでのやり取りはしていたが、こうして顔を合わせるのは久しぶりだ。鳩ヶ谷さんと鶴見さんに至っては、あの修学旅行後の『華の裁判』以来になる。


「大地、あけましておめでとう。今年もよろしくね」


「あけましておめでとう。よろしく、華」


 華とも、あのクリスマスの夜から会っていなかった。

 次の日にはすぐ俺が帰省してしまったので、1週間ぶりだ。


「帰省中だったのに予定を合わせてくれたんでしょ? ありがとう」


「いえ、先輩たちに誘っていただいたのでせっかくですし。来年はみなさん大学の友達とかと一緒に行くでしょうし」


「そんな、気を使わなくて大丈夫だよ。というか、そんな寂しいこと言わないでー」


 このメンバーで、人目も憚らず俺の手を握ってくるのは1人しかいない。


「来年も、再来年も、その先もずっとこのメンバーで来ましょ。大地の帰省の予定と相談しながらだけど」


 来年も、再来年も、その先も、か……。


「そっか……ありがとう」


 俺がそう答えると、先輩たちも嬉しそうなリアクションでこちらを見てきた。

 この人たちの優しさには……敵わないな。

 俺たち6人は、お参りのために境内を目指して歩き始めた。


 3が日の2日目ということで、ものすごい人の列だ。地元の小さい神社だというのに、お参りにはかなり時間がかかりそうだった。

 列に並んでみんなで話しているうちに、俺はあることを思い出した。


「華、そういえばこれ。母さんから、たくまくんと2人にお年玉だって」


 俺はバッグから2つのポチ袋を取り出した。母さんが、たくまくんと華のために包んでくれたものだ。


「えっ……こちらからは何も渡せないのに、これは流石に受け取れないわ」


 華は申し訳なさそうに、受け取るのを遠慮してきた。


「やっぱりそうだよね。……これ、母さんから。この手紙を先に読んでみて」


 母さんにこれを託された際、釘を刺されていたのだ。

『華ちゃんの性格的に、申し訳ないって言って受け取らないと思うから。もしそう言われたら、この手紙を読んでもらって』と。


 俺は華に、母さんからの手紙を手渡した。

 華は緊張した面持ちで封を切り、読み進めていく。すると、その表情がみるみるうちに綻んでいった。俺も中身までは知らないので、何が書かれているのかはわからないのだが。


「やっぱり、大地に似てお義母様は優しい人ね……えへへ」


 よくわからないが、ニヤニヤしながらこちらを見てくる。


「なんて書かれてたの?」


 みんなもそのリアクションが気になったのか、華に視線を向けた。


「いやぁ、大地って始業式の日まで1人でしょ? だから寂しくならないように、たくまと私でお家に泊まってくれないかって」


 俺だけ早めに帰ってきたので、6日までは1人で過ごす予定だった。

 確かに、お正月に1人というのは寂しいので、どう過ごそうか悩んではいたのだが……まさか母さんからそんな提案があるとは思わなかった。


「私と大地とたくまで1週間……ずっとお泊まり……新婚さんみたい……最高ね、毎日大地とくっつき放題」


「……華ちゃん、絶対によくない妄想してるでしょ。学校では『王子様』で通ってたんでしょ、その笑い方やめなさい」


「ヒヨリ、もう違うよ。今の華ちゃんは大地くんに甘やかされて、『むっつり甘えたがり』『わがままお姫様』『重い女』『脳内真っピンク』にジョブチェンジしちゃったから」


「大地くんと出会う前の華ちゃんは、一体なんだったんだろうね」


「なんでこれを2年間も隠し通せてたんですか……」


 4人とも呆れ顔で華を見ているが、本人はお構いなしに妄想の世界に没頭している。


「というか、大地くん本人はいいの?」


「そうですね。流石に毎日は華も迷惑じゃないかなって思うんですけど……色々大変でしょうし」


「えっ、私から新婚生活を奪うの……?」


 どうやら、完全に話が通じないフェーズに入ってしまったようだ。

 こうなってしまった以上、俺に拒否権など存在しない。


「……わかったよ、ほどほどにお願いね」


 ◇ ◇ ◇


 約40分ほど並んで、ようやく境内でお参りすることができた。

 鳥羽さんと鶴見さんは電話をするということで一旦離れ、俺たち4人はおみくじを引くことにした。


 おみくじをめくると、そこには『中吉』の文字。

 特に気になったのは2つの項目だ。


『学問:雑念を捨て目標を立てよ

 恋愛:互いを思いやれ』


 先輩たちが自分の結果を見せ合いながら盛り上がっている。


「大地はどうだったの?」


 華に話しかけられ、俺たちはお互いのくじを交換した。華は『大吉』だったようで、かなり良い内容が並んでいる。どれも幸先の良い言葉ばかりだったが、なぜか華は不服そうな顔をしていた。


「華、なんでそんなに不満そうなの?」


「ここ見て。納得いかない」


 彼女が指さしていたのは、『失せ物』の項目。

 そこには『手近にあり』の文字があった。


「これがもし、万が一にもあり得ないけど……大地のことだったら、私、神様を恨むわよ」


 その必死な顔は、とても冗談には思えなかった。

 そんな中、俺は尿意を催したので、一旦みんなから離れてトイレを探し始めた。


 見つけた看板の指示に従って進むと、見覚えのある女子2人が男たちに囲まれていた。

 相手は4人組の男たち。俺たちより年上で、漫画に出てくるような明らかにガラの悪そうな集団だ。……まあ、おおかたナンパだろう。鶴見さんも鳥羽さんも可愛いから、声をかけられていても不思議ではない。


「鏡花さん、ヒヨリさん! 2人とも、ここにいたんだ」


 俺はわざと大きな声を出し、あえて下の名前で2人を呼んだ。

 すると、1番背の高い金髪の男が怪訝そうな顔で凄んできた。


「お前、何だ?」


「すみません、2人の連れです。ちょっと待たせちゃっていて」


 周りの男たちは、「なんだ、男連れかよ」とでも言いたげな落胆のリアクションを見せた。というか、3が日から神聖な場所でナンパなんてするなよ。


「行こう、2人とも」


「あ、うん。ありがとう、大地くん」


「おい、待てよ」


 俺が2人の手を握ってその場を離れようとすると、背後から肩を強く掴まれた。

 痛い。こいつ、力が強すぎだろ。


「……えっとなんですか?」


「2人いるんだから、1人置いていけよ。お前には身の程――」


 だが、俺の肩を掴んでいた手は、まるで抜け落ちるように力なく離れていった。

 見ると、男たちが一様に青ざめている。

 まさかと思い振り返ると――そこには2人の「般若」が立っていた。


「「……コロス」」


 生徒会で最も怒らせたら怖い華と、さらに追い打ちをかけるような冷気を感じさせる鳩ヶ谷さん。特に華の顔は、いつも俺に見せるものとは別人で、めちゃくちゃに怖かった。

 男たちは蜘蛛の子を散らすように、一目散に逃げ去っていった。


「お2人とも、大丈夫でしたか?」


「大丈夫。でも、まさかお正月にナンパなんてね」


「流石、大地くん。かっこよかったよ! ありがと――でもごめんね、なんか都合よく使っちゃって」


 こういう時のために俺がいるようなものなので、体よく使われる分には問題ない。正直に言えば、俺がいなくても華さんたちが来れば解決したのだろうけど。


「このまま解散するのは、ちょっと寝覚めが悪いですね……どうしましょう」


 菊池さんがそう提案してきた。このまま解散する予定だったが、確かに年始の始まりがこれでは少し後味が悪い。すると、華が何かを思いついたようだった。


「なら、みんなうちに来るのはどう? 大地のご飯が食べられるわよ」


 するとみんなも笑顔で「それいいね!」と賛成し始めた。

 ちゃっかり俺が料理を作ることが確定しているが……。


 まあ、いいだろう。皆さんの笑顔が見られるのならば。

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