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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
5章 11月編

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53 王子様と受験日

華の受験前日の日曜日。

今日、華とたくま君はうちで夕食を食べることになっていた。

 

「みんなー、ご飯の準備してー」

 

母さんがキッチンから声をかけると、テレビの前にいた3人は慣れた手つきでテーブルの準備を始めた。

白鷺姉弟が家に来る機会が増えたため、母さんは最近、2人用の茶碗と箸まで新調している。

……なんかもう、本当に家族みたいだ。


「はい、お待たせ今日はトンカツよ。華ちゃんは明日のこともあるから、胃もたれしないようヒレカツね」


 受験にカツという意味で安直なゲン担ぎではあるが、今日はとんかつにした。

 みんな目を輝かせている。

相変わらずのいい食べっぷりに、俺も自然と笑顔になっていた。


「千代ちゃん、あーん」


「たくま君、ありがと! あーん」

 

ふと見ると、千代とたくま君が向かい合って食べ物をシェアしていた。

いくらお兄ちゃんでも、そんなおませな行為は見過ごせないぞ!

 

「た、たくま君、なにそれ!?ちょっと距離近すぎるんじゃないかな?」


「お兄ちゃんとお姉ちゃんの真似だよ。よくやってるじゃん!」


「うげぇっ」


 思わず変な声が出てしまった。

 そう華が今週来るのは実はこれで4回目。

 ここ最近の華は、俺の家に異常な頻度で入り浸っている。

 

なんでも「私の受験と大地の修学旅行が被ってるから、今のうちに『大地成分』をチャージしておかないといけない」らしい。

 

必然的に一緒に食事をとる回数も増えるわけで、俺が華を『餌付け』している現場を子供たちに見られるのは、もはや避けられない状況だったのだ。


「仲良いわね。お兄ちゃんたちに似て」


「母さん!流石に止めないと。よくないよ2人とも」


「いいじゃない微笑ましくて。それに、あなたたちだってずっとくっついてるじゃないの」


 母さんに指摘され、ハッとする。

そう、華は今も俺の左腕にぴったりとくっついたまま、器用に箸を動かしてご飯を食べているのだ。

テーブルはこんなに広いんだから、もう少し離れて座ればいいものを。


「……すみませんお母様。ご迷惑ですか?」


「いやいや! むしろこんな美人さんがうちにお嫁に来てくれるなんて、お母さん大歓迎よ。大地をもらってくれてありがとうねぇ」


「こちらこそ、ありがとうございます! 大地のことは私が絶対に幸せにしますので、お義母様もどうかご安心ください!」

 

「……結婚したわけじゃないって」


 俺の切実なツッコミは誰の耳にも届くことなく、和やかな食卓の空気に虚しく吸い込まれていった。



 食事も終わり明日も朝早いということで、白鷺姉弟はいつもより早めに帰ることになった。


「いつもありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」

 

「大丈夫よ。二人とも、もう家族みたいなもんなんだし」


「――ありがとうございます!」

 

嬉しそうに、姉弟は深く頭を下げた。

二人が見せる笑顔も、最初に出会った頃に比べたら、ずっと自然で柔らかいものになったように感じる。


「大地、今週は我儘いっぱい言ってごめんなさい。正直めんどくさかったと思うの……でも最後に明日頑張ってくるから、応援して欲しいの。これでもう当分我儘言わないから!」


 確かに今週は、付き合ったばかりなのもあっていっぱい『甘やかして』きた。


「応援してるよ。華なら大丈夫だって信じてる」

 

「っ――ありがとう、大好き!バイバイおやすみ」


 そう言って、二人は手を繋いで家を出ていった。

俺は、笑顔で話し合いながら歩く二人の背中を静かに眺めていた。

 

「愛されてるわねぇ、大地」

 

「……うん、そうみたいだ」

 

「貰いっぱなしじゃなくて、ちゃんと返してあげなさいよ。あなたなりにね」

 

母さんにそんな言葉をかけられながら、俺は玄関のドアを閉めた。


◇ ◇ ◇


 翌朝、俺はいつもよりかなり早く家を出て、最寄り駅に来ていた。

 入試に向かう華を見送るためだ。

 そしてこれは、華には言っていない、ほんの少しのサプライズだったりする。


 11月に入り、冬が近いこともあって早朝はかなり冷える。

すれ違う人たちも、重装備で防寒対策をしている。

待ち始めて20分ほど経ったくらいだろうか。

見覚えのある制服を着て、イヤホンをつけた女の子の姿を見つけた。


「おーい華!」


「……」


 イヤホンのせいか、まったく返事がない。

俺は小走りで近づき、彼女の肩をポンと叩いて声をかけた。


「華、俺だよ大地」


「あーもう!しつこい!朝からナンパなんてしてく――えっ大地!?」


どうやら俺をナンパ男と勘違いしていたらしい。

彼女らしいというか、なんというか……。


「えっと……サプライズ?」


「……わざわざきてくれたの。朝早く起きて、こんな寒いのに……いつ私がくるかわからないのに……?」


「うん。せっかくだから、華のこと直接見送りたかったし」

 

「なにそれ……っ」


「ごめん迷惑だったかな?」

 

 そう言って華は勢いよく俺に抱きついてきた。

 朝の駅前なのもありかなり目立っていた。 

 

「迷惑なわけない! 嬉しい! ありがとう大地!」

 

胸元に顔を擦り付けてくる華の頭を撫でてやると、彼女は安心したように体重を預けてきた。

……なんか、甘えん坊の大型犬みたいだ。


「華、電車の時間もあるだろうから、そろそろ」

 

俺が彼女の肩をトントンと叩いても、華はギュッと抱きついたまま離れようとしない。

 

「もう受験いいかな……大地とこうやっていられれば、私なにもいらないわ」

 

「嘘だよね!? ほら、はーなーれーて!」


 無理やり彼女を引き剥がすと、名残惜しそうな顔でこちらを見つめてくる。

……上目遣いでそんな風に見つめてきてもダメです!

 

「……正直、不安なの。学校推薦だからといって絶対受かるとは限らないし、確実とは言い切れないから……」

 

「そっか……。でも、俺は華のことずっと近くで見てきたからわかるよ。華は友達思いで、みんなのために一生懸命動ける人だ。だから、変に飾らず普段通りにしていれば、華のいいところは自然に試験官の人にも伝わると思う」

 

「……ありがとう。少し勇気が出たわ。ごめん、そろそろ行かないと」


 華は名残惜しそうに俺の手をにぎにぎと握ってくる。

そうして、改札に向けて歩き出していった。

 

「うん、いってらっしゃい」


振り返らずに進む彼女の背中に向けて、俺は少し大きな声で呼びかけた。

 

「頑張れ――華! 応援してるよ!」

 

それを聞いた彼女は、パッと振り返り、花が咲くような最高の笑顔でピースサインをしてくれた。


 

 昼休み。

スマホを確認すると、華から2通のメッセージが飛んできていた。

そこには――

 

『今日は大地のおかげでうまくいったと思う。わざわざ朝来てくれてありがとう』

 

『これからもいっぱい甘やかしてね、ダーリン』


 そんな可愛らしいメッセージが届いていた。

 


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