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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
4章 学園祭後編

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45 王子様と清算(1)

「……華ちゃん。さっきの宣言、もうほぼ告白じゃない?」


3年生たちが去った後、鳥羽さんが呆れたように息を吐いた。

俺も、あんなストレートな言葉を真正面からぶつけられて、正直まだ頭がショートしそうだった。


「ごめんなさい、つい舞い上がっちゃって。……人を好きになるって、こんなに余裕がなくなるものなのね」


華は頬を赤く染めたまま、少し恥ずかしそうに俯いた。


「いや、それを本人の前で言う神経よ……」


鳥羽さんが苦笑いする。

俺もどんな顔をすればいいのかわからず、曖昧に笑うことしかできない。


すると、南先輩がわざとらしく意地悪なトーンで口を開いた。


「でもどうするの? 大地君、実は他に好きな子がいるかもよ? 鏡花ちゃんとも息ぴったりだし、うちの青葉ちゃんだっているんだから」


「えっ? ……それは、死ぬわ」


華が真顔で、地の底から響くような恐ろしいトーンで呟いた。


「「「いや、重っ!!!」」」


俺と南先輩、鳥羽さんのツッコミが見事にハモる。

からかった南先輩も少し引きつった笑いを浮かべている。

だが、冗談抜きで華は本気の目だった。


「……わかった。俺からちゃんと告白する。だから、それまで少しだけ待ってて」


俺が意を決してそう言うと、先輩たちはハッと息を呑んだ。

当の華も、目を丸くして固まっている。

俺を含め、全員の顔が真っ赤だった。


「……本当? 期待していいのね? やっぱりナシ、なんて言ったら許さないわよ」


「……俺だって、華のこと……好きだから」


消え入りそうな声で俺が本音をこぼす。

「「「きゃああああっ!!」」」と今日一番の歓声が上がった。


南先輩と鳥羽さんが華の手を取って、三人で飛び跳ねるように大はしゃぎしている。


傍から見れば、これはもう告白成立だ。

俺も、華の隣にずっといたいと心から思っている。


……でも、だからこそ。

俺の心には、『ブレーキ』がかかっていた。彼女の眩しさに釣り合うだけの――


「あの……忙しい時期に本当に申し訳ないんですが、明日の放課後、少し早く帰らせてもらえませんか」


俺が一段階真面目なトーンで切り出すと、はしゃいでいた3人もピタリと止まり、不思議そうにこちらを向いた。


「えっと、それはいいけど……」


鳥羽さんが答える横で、華が心配そうに首を傾げる。


「何か、大事な用事なの?」


「はい。……とても大事な用事です。」


俺が真っ直ぐに見つめ返す。

華は少しだけ驚いたように目を見開き、そして優しく微笑んだ。


「……わかったわ。いってらっしゃい」


そう。俺は明日の放課後――遠藤達に会う約束をしていた。



そして迎えた翌日の放課後。

俺は遠藤に呼び出され、夏休みにバスケをした公園にきていた。


ベンチには、見知った顔が4人。

遠藤と、その彼女。

そして、その後ろに立つ2人の女子生徒。


「ごめん、待たせた」


「いや、こっちこそ生徒会抜けさせて悪いな」


遠藤の言葉に首を振り、俺はその後ろにいる2人に視線を移した。

――バスケ部の後輩である青葉と、俺の元カノである米原和香。


「……2人も来てたんだね」


努めて平坦な声でそう声をかけるが、2人は顔を俯かせたままだ。

重い沈黙を破ったのは、青葉だった。


「この前は……本当にすみませんでした! 大地先輩の事情も知らずに、あんな風に当たってしまって……!」


深く頭を下げる青葉。

この前、たくま君たちにバスケを教えた帰り道、彼女から少し強い言葉をぶつけられた。

きっとそのことを言っているのだろう。


「いや、気にしてないよ。こちらこそ、あの時はごめんな」


「私もごめんなさい! 上原君が部活辞めた理由、ずっと勘違いしてた。私達、何も知らないでひどい言葉をたくさん……っ」


青葉に続き、遠藤の彼女も涙声で謝罪してきた。


俺が夏の大会直前に、急にバスケ部を辞めた理由。

――父さんが亡くなったことを、遠藤や青葉を通じて知ったのだろう。


「本当にいいんだ。あれは俺も悪かったから。大事な大会の前にレギュラーが突然抜けたら、誰だって怒るよ」


「そうかもしれないけど……でも――」


「そうよ。……なんで、言ってくれなかったの」


遠藤の彼女の言葉を遮るように、ずっと俯いていた和香が口を開いた。


「ごめん……。みんなに、気を遣わせると思ったから」


「彼女だった私にも……相談できないくらい?」


和香が顔を上げる。

その目は赤く潤み、泣きそうな顔で俺を睨みつけていた。


父さんが突然倒れて母さんはノイローゼになった。

当時の俺は、何もかもに手が回らなくなり……結果として、和香を一方的に突き放す形で別れた。


「……うん。ごめん」


俺が絞り出すようにそう答えると、和香の感情が堰を切ったように溢れ出した。


「勝手に私の気持ちを決めつけないでよ……っ! 私、そんなに頼りなかった? あなたのことを支えてあげられるほど、私は幼かったの?」


和香の絞り出すような声が、夕暮れの公園に響いた。

彼女は俺の顔を見ようとせず、膝の上で拳を強く握りしめている。


「私、可愛げなかったし、ずっとツンツンしてばかりだったけれど……。それでも、あなたと一緒にいる時間は、私だって本当に楽しかったのよ。……それなのに、なんで一人で勝手に終わらせちゃったの!」


「……ごめん」


ボロボロと涙をこぼしながら叫ぶ和香の姿に、胸が激しく締め付けられる。


俺だって、楽しかった。

みんなで毎日、汗水垂らして部活に打ち込んだ日々。

帰り道、和香と他愛のない話をしながら一緒に歩いた、あの時間。


そんなみんなの大切な時間を、『家族のため』という大義名分のもとに手放した。

ぐちゃぐちゃにしてしまったのは俺だ。


そんな俺が、今さら新しい幸せを掴んでいいのだろうか。


華という、眩しすぎるほどの光の中に身を置いて、過去を忘れて笑っていていいのか。

ここ最近、胸の奥でずっと疼いていたブレーキの正体は、この「罪悪感」。


「……和香。俺、あの時、君を信じられなかったわけじゃないんだ」


震える声で、ようやく言葉を紡ぎ出した。


「ただ、君を俺の『不幸』に巻き込みたくなかった。……君にめんどくさいと思われたくなくて。最低だよな」


「…………」


「バスケを辞めたことも、君と別れたことも、全部自分で決めたことだ。……でも、みんなを。和香を傷つけたことだけは、ずっと後悔してた。本当に、ごめん」


俺が深々と頭を下げると、しばらくの沈黙の後、和香が小さく鼻を啜る音が聞こえた。


「ばか……ばかね。昔から誰よりも気遣い屋で不器用なんだから」


和香はゆっくりと顔を上げると、赤くなった目で俺を真っ直ぐに見つめた。


「ねぇ、大地。……今、好きな人、いるんでしょう?」


その問いに、心臓が跳ねた。

脳裏をよぎるのは、不敵に微笑む学校の『王子様』であり――俺の前でだけ、年相応の脆さを見せる一人の少女。


「……うん。いるよ。すごく、大切な人なんだ。……どうして、わかったの?」


「伊達にあなたの彼女やってなかったわよ。それくらい、顔を見ればわかるわ」


和香は少しだけ寂しそうに、俺を見つめた。


「……その人のことは、ちゃんと頼りなさいよ? 私の時みたいに、勝手に一人で背負って、勝手にいなくなったりしちゃダメ。あなたは優しすぎるから、もっと甘えることを覚えなさい。……それに……」


和香はそこで言葉を切り、言い聞かせるように続けた。


「……自分が幸せになる資格がないなんて、絶対に思わないこと」


図星だった。俺の心を見透かしたような言葉。


「私は、あなたと付き合えて幸せだった。今でも引きずっちゃうくらい、大好きだったわ。……だ、だから……っ。ぜ、絶対……幸せに、なってね」


目元に涙を浮かべ声を震わせながら告げる彼女を、俺は直視できなかった。

あんな思いをさせてしまったのに、最後は俺の背中を押そうとしてくれている。


「……うん。ありがとう、和香。俺も、君のことが大好きだったよ」


本当にありがとう。

君みたいな素敵な人と一緒にいられて俺は幸せだったよ。

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