40 王子様とお弁当(2)
金曜日。
今日でお弁当作りも最後だ。
昨日のキャラ弁が好評だったこともあり、最終日の今日も気合を入れてお弁当を持ってきた。
「いやー、3日間見てきたけど、大地君は本当に料理上手ね」
「千代と母さんのために、結構練習しましたから」
感心したように声をかけてきたのは、南先輩だ。
ここ数日、先輩は俺たちのことを見るのを楽しみに昼休みになると生徒会室に入り浸っている。
「そういえば皆さん、まだお腹に余裕はありますか?」
俺はそう言って、持参したタッパーを机に置いた。
「これ、昨日の唐揚げです。皆さんが食べたいって言っていたので、少し多めに揚げてきました」
「えっ、本当!?」
その場にいた全員が目を輝かせ、吸い寄せられるようにタッパーの周りに集まってきた。
「食べていいの?」
「はい。皆さんのために作ってきたので、どうぞ」
許可を出すと、全員が箸を伸ばし始めた。
「どうですか、お味は」
「超うまい、最高!」
「なんだろう、これ。すごく食べやすいね」
「米油を使っているので、油っぽさが抑えられているんだと思います」
「えっ!? そんなところまで考えてるの?」
「もちろんです。うちは母さんと妹の女所帯なので、脂っこいものよりヘルシーな方が喜ばれるんですよ」
どうやら味は好評のようで、
次々と嬉しい感想が飛んでくる。
「…………」
だが、盛り上がる俺たちを余所に、不機嫌そうな顔をしていた。
「華ちゃん、どうしたの? 顔が怖いよ」
鶴見先輩に突っ込まれても、彼女の険しい表情は変わらない。
「……もしかして、嫉妬?」
鳩ヶ谷さんに指摘されると、華は図星だったのか慌てて咳払いをした。
「ち、違うわよ。ただ……私のお弁当は、その唐揚げの『ついで』だったのかな、と思っただけだわ」
「そんなわけないですよ。華の分は、ちゃんと別に作りましたから」
「……本当?」
「本当ですって」
「……ふーん」
まだ納得がいかない様子。
彼女は頬を膨らませたまま視線を逸らしている。
「えー。華ちゃんにそんな悲しい思いをさせたなら、大地君『埋め合わせ』をしないといけないんじゃない?」
面白がった鶴見さんが、意地悪な笑みを浮かべてこちらに話題を振ってきた。
埋め合わせって……俺、何か悪いことしたっけ。
「そうね。埋め合わせ、必要だわ。……明日、とかに」
華もその提案にノリノリで便乗してきた。
「それなら、私がもらったチケットをあげるよ」
南先輩がそう言って、俺と華にスマホで何かデータを送ってきた。
画面に表示されたのは、近郊にある水族館のペアチケットだった。
「いいんですか? これ、お金払いますよ」
「ん、いいって。父親からもらったんだけど、私は使わないからさ」
南先輩の好意に甘え、俺たちはチケットを有り難く受け取ることにした。
「ありがとうございます。……じゃあ華、たくま君と千代も誘って、みんなで行こうか」
その提案をした瞬間、室内の温度が急激に下がったような気がした。
「…………っ」
「大地君、普段めっちゃ気が利くのに、どうしてこういう時だけダメなのかなぁ……」
鳥羽さんが心底呆れたように溜息をつく。
俺にはその理由がさっぱり理解できない。
すると、華がガシッと俺の腕を力強く掴んできた。
「……今回は、2人きりで行くわよ。これは『デート』なんだから」
「デート!?」
周りから歓声が上がりはじめる。
「聞きました?今、華さんが自分から『デート』って言いましたね」
当の本人は顔を赤くしたまま俺の手を離さない。
「な、なによ……。悪い?せっかくのチケットをもらったんだから、有効活用すべきでしょう?それに子供達は月曜日に遠足があるんだから、土曜日に疲れさせたらダメしょ」
「それは……まぁ、そうだけど」
華の説明を聞きすこし納得した。
確かに月曜日は遠くの公園までまた遊びに行くと言っていたので土曜日まで出かけしまったら疲れてしまうかも。
「上原君、今の流れで『まぁ』じゃないでしょ」
菊池さんが呆れたように溜息をつく。
周りの人たちが俺のことをじっと見てくる。
「……はい。わかりました」
逃げ場を塞がれた俺は、観念して頷くしかなかった。
「……わかったよ、華。明日は2人で行こう」
「! ……ええ、そうね。それがいいわ」
俺の手を離し、他の先輩達の方へと歩いて行ったら。
そこでは明日の服装のことや水族館のマップなどを見ながら話し合いがはじまった。
(デートというなら俺もちゃんとしないとな)
家にある服を考えながら俺は教室に戻って行った。
そして、翌日の土曜日。
待ち合わせ場所の駅前に、俺は少し早めに到着した。
私服で出かけるのは久しぶりだ。
……正直に言えば、昨夜はあまり眠れなかった。
これは『デート』なんだから
その言葉が頭からずっと離れなかった。
「……大地。待たせたかしら」
後ろから声をかけられ、振り返る。
そこにはいつもと雰囲気の違う華がいた。
白いニットに、落ち着いた色のチェック柄のスカート。
髪は少しゆるく巻かれ、柔らかな雰囲気を醸し出している。
「……華?」
「なによ鏡花と茜にコーディネートしてもらったのだけど」
「いつもと雰囲気違うね。とても似合ってる」
「そうならいいのだけど……」
顔を真っ赤にして上目遣いでこちらを見てくる。
(やばい滅茶苦茶可愛い)
こうして俺たちの水族館デートが始まった。




