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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
3章 学園祭前編

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34 王子様と青葉(2)

「「今日はありがとうございました!」」


千代とたくま君が元気よく頭を下げると、南先輩と青葉は満足そうに微笑んだ。


「南さんに桐原さんも、ごめんなさい。せっかく練習していたのに邪魔をしちゃって」


華が申し訳なさそうに謝ると、2人は大丈夫と言わんばかりに手を振った。


「あー、いいんですよ! 初心に帰ることで言語化できることもありますし」


青葉が明るく返す。


「ありがとう。……それと、今日のことは学校では内緒にしてほしいの。要らぬ誤解を生みたくないから」


華が真剣なトーンで頼み込むと、南先輩は深く頷いた。


「もちろん。大丈夫だよ」


しかし、青葉だけは納得していない様子で、不満げに唇を尖らせている。


「……大地先輩、この後少しお時間ください」


「え、いいけど……?」


俺が戸惑いながら母さんと華の方を見ると、二人は『任せた』という顔をして頷いた。


みんなを見送り、俺と青葉は空いているベンチに腰を下ろす。


「で……『王子様』とは、どういう関係なんですか?」


青葉が単刀直入に切り込んできた。


「弟と妹が仲良しなんだよ。この前の先輩たちのプレイ動画を見て、バスケに興味を持ったらしくてね。教えてほしいって頼まれたんだ」


「本当ですかぁ?」


「本当だよ。彼女たちとこうやって会ったのも、今日が初めてだし」


俺が冷静に答えると、青葉は「ふーーん」とわざとらしく息を吐き、そっぽを向いた。


彼女はまだ文句があるようだ。


「納得いかないです。……なんで、白鷺華が先輩のお母さんのことを知っているんですか?」


「それは……母さんが、千代とたくま君の通う幼稚園の先生だからだよ」


「だとしても、おかしいですよ。わざわざこんな大人数で、ここまで来る必要なくないですか? 白鷺華がいる必要がないじゃないですか」


それは、一番痛いところだった。

確かに、ただの友達の親同士なら、両親のどちらかが来ればいい話だ。

だが、お互いの複雑な家庭の事情は、俺と華以外誰も知らない。


「先輩だってそうです! お母様が出てくる理由がありません。お父様と家にいればいいじゃないですか。わざわざ家族ぐるみの関わりなんて、する必要を感じません」


青葉の純粋な疑問が、無自覚に俺の胸を抉る。


「……そうだね。ごめん、でも……これには、少し深い事情があるんだ」


「どんな事情ですか? 私に言えない、白鷺華との隠しごとですか?」


……言うしかない。

正直に言うと青葉のあまりにも無神経な詮索に苛立ちを抑えきれず、つい強い口調でいってしまった。


「俺の父さんは、いない。亡くなった」


「え……?」


「中学三年生の春、心筋梗塞で亡くなった」


「えっ……」


「こうやって公園で遊んでいた時に、急にね」


「…………」


青葉は絶句し、何も言えなくなってしまった。

言葉が出ないのも無理はない。

俺がこの事情を話したのは、同級生である遠藤以外にはいないのだから。


「す、すみません……。じゃあ……」


青葉は青ざめた顔で、震える声を絞り出す。

彼女もようやく、自分の言葉がどれだけ俺を傷つけていたかに気がついたのだろう。


「ああ。中三の夏の大会前に、俺が急に部活を辞めたのも、それが理由だ。今バスケを続けていないのも家族のためだ」


「そ、そんなぁ……。なんで、言ってくれなかったんですか」


「言えるわけないだろ、こんなこと。……同情を買うだけだ。今の学校で知ってるのは、遠藤と、青葉だけだよ」


「じゃあ……『あの人』にも、言ってないんですか?」


そう言って泣きじゃくる彼女を突き放すように、俺は言葉を吐き捨ててベンチを後にした。


彼女の言う『あの人』が、華のことなのか、それとも元カノである和香のことなのか、今の俺には確かめる気力もなかった。


重い足取りで公園の出口へ向かうと、街灯のそばに一人の女性が立っていた。


「……いたんだね、華」


「ええ。ずっと待っていたわ」


合流した俺たちは、どちらからともなく歩き始める。しばらくの間、会話はない。

隣を歩く彼女の気配だけを近くに感じていた。


「……桐原さんに話している時の大地、少し怖かったわ」


「……見てたのか。ごめん」


「いいえ。……よかったわ」


華は前を見つめたまま、静かに言葉を紡ぐ。


「生徒会でもみんなに優しくて、私に対してもずっと穏やかでしょう? だから、あなたが誰かにあんな風に感情を剥き出しにするなんて、思ってもみなかったから」


「ごめん……まあ。……家族のことを言われるとな」


「小ホールの件で私たちのために怒ってくれた時もそう。大地は、大切な誰かのために本気で怒れる人なのね」


「いや、そんな大それたものじゃない。ただの八つ当たりみたいなもんだよ」


自嘲気味に笑う俺に、華はふっと表情を和らげた。


「私は安心したわ。あなたは他の誰よりも『大人』であろうとしていた。そんなあなたが、誰かに感情を露わにしているところを見られて」


「それなら、華だってそうじゃん」


俺がそう反論すると、彼女はようやくこちらに顔を向けた。


「そうね。……昔の私は、きっとそうだった。他者からの想いを突っぱねて、周りに疑いをかけてはトゲトゲしていたわ。弱みを見せないよう、たくまのために必死だったの」


「でも、あなたと出会って私は変われた。あなたにだったら、自分の弱い部分も、格好悪い部分も見せられる。そう思ったの」


華は立ち止まり、俺の目をまっすぐに見つめた。


「だから大地、あなたも私の前では甘えなさい。私はこれからもあなたに甘えるわ。……私たちは、一蓮托生よ」


その言葉は、暗い夜道に温かな灯をともすように、俺の強張った心を優しく包み込んだ。

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