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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
3章 学園祭前編

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33 王子様と青葉(1)

今日は土曜日。

たくま君と千代にバスケを教えるため、隣町にある公園にまで足を運んでいた。


普通のバスケコートがある公園は近所にもあるが、子供用の低いゴールとなると話は別だ。

そうした理由もあり、少し離れたこの公園までやってきたのだ。


「じゃあ、みんな準備運動しようか」


俺が声をかけると、全員で準備体操を始めた。今日は母さんも休みなので、俺、たくま君、千代、母さん、そして華の五人で公園まで来ている。


「よし、じゃあまずボールを持ってみよう」


そう言って、2人に4号のバスケットボールを持たせた。


「お兄ちゃん、おもーい」


千代が小さな両手でボールを抱え込みながら言う。

たくま君も少しフラフラしている。


「最初は重く感じるよな。でも、手のひらをべったりつけるんじゃなくて、指の腹を使ってしっかり掴むんだ。」


俺が自分のボールを使って手本を見せると、二人は一生懸命真似をしようと小さな指を広げる。


「ふふ、二人とも可愛いわね」


ベンチに座って見守る母さんの隣で、動きやすいスポーツウェアに身を包んだ華が微笑んでいた。


『私も大地のバスケをしている姿、見たいから』と、今朝当然のように同行することになったのだ。


「華お姉ちゃんもやるー?」


千代がボールを差し出すと、華は少し照れたように笑った。


「お姉ちゃんは、まずは大地お兄ちゃんの教え方を見ておこうかしら。……ほら、先生が待っているわよ」


華に促され、子供たちの視線が再び俺に戻る。


「よし、じゃあ次はドリブルだ。ボールを見ないで、前を向く。膝を少し曲げて重心を落とし、腰の高さでボールを突くんだ。……いくぞ」


リズミカルにボールを突く。

それを見たたくま君が見よう見まねでボールを床に落とすが、上手く跳ね返らず、ポーンと明後日の方向へ転がっていってしまった。


「あーっ、待てー!」


「あはは、最初はそんなもんだ。ボールを叩くんじゃなくて、指先で床に押し込むようにするんだよ」


ボールを追いかけるたくま君を見ながら、俺は苦笑いする。


慣れない動きで疲れたのか、一時間ほどで小休止となった。

ベンチに座り、母さんが作ってくれたサンドイッチを2人は美味しそうに頬張っている。


「あっちの人たち、すごいねー」


たくま君が隣の大人用コートを指差した。

そこでは、高校生くらいの女子が二人で1on1をやっていた。

見ると、小柄な方の女子が鋭いドライブでゴール下へ切れ込み、鮮やかなレイアップシュートを決めたところだった。


「お兄ちゃん、あれやってみてー」


「オッケー、待ってて」


そう言って俺はバッシュの紐を締め直し、コートに向かう。


右手にボールを持ち、一気にトップスピードでドライブする。

ゴール下でステップを踏み切り、ふわりとリングに置いてくるようなレイアップシュートを沈めた。


「こんな感じかな」


そう振り返ると、ベンチにいた4人から拍手が上がった。

子供用の低いゴールで感覚が狂いヒヤヒヤしたが、無事に決められて安堵する。


「大地先輩ー! 大地先輩ですよね!?」


不意に、後ろから俺を呼ぶ大きな声が響いた。

振り返ると、隣のコートでプレイしていた小柄な女子がものすごいスピードで走ってくる。


「え……青葉?」


「はい! 青葉ですよセンパーイ!」


そこにいたのは、バスケ部の後輩、桐原青葉だった。

そしてその後ろから歩いてきたのは、3年生で女子バスケ部キャプテンの南先輩だ。


「上原君、こんなところで会うなんてね」


「南先輩、お疲れ様です」


どうやら、隣で1on1をしていたのはこの二人だったらしい。


「お兄ちゃん、この人お友達?」


俺の服の裾を後ろから引っ張り、千代が尋ねてくる。


「ああ、この人たちは同じ学校の先輩と後輩だよ」


「えっ!? 可愛い〜!!」


南先輩は子供が好きなのか、2人のちびっ子たちを見て目を輝かせている。


「先輩、この子たちって……」


「ああ、紹介するよ」


俺はたくま君と千代を2人の前に立たせた。


「千代です! よろしくお願いします」


「たくまです。よろしくお願いします!」


2人が元気よくお辞儀をすると、南先輩も青葉も完全にメロメロになっていた。


「あれ? でも先輩って、妹しかいないって言ってませんでしたっけ?」


青葉が鋭いところを突いてくる。


「僕は千代ちゃんのお友達です! お姉ちゃんはあっちにいます」


たくま君が無邪気にそう言って、ベンチの方を指差した。

その指の先を見た2人の表情が、ピタリと固まる。


「え、華ちゃん!?」


「は……なんで『王子様』が一緒に……?」


南先輩は目を丸くして驚き、青葉は怪訝そうな顔で俺とベンチの華を交互に見比べていた。


「……どうしたの?」


騒ぎに気づいたのか、ベンチから華と母さんがゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。


「……南さんと桐原さん?こんにちは」


2人は困惑しながらも挨拶を返した。


「華ちゃん、上原君と遊びに来てたの!?」


「ええ。たくまがバスケをやりたいっていうことで教えてもらいに来たのよ」


華は淀みなく、優雅に一礼する。その堂々とした態度に、南先輩は「あ、うん……」と少し気圧されたように頷いた。


「せ、先輩……!」


青葉が俺の袖をぐいぐいと引っ張り、小声で詰め寄ってくる。


「なんで先輩が、あの『王子様』と休日を一緒に過ごしてるんですか!? しかも家族ぐるみっぽいですし! どういう関係なんですか!?」


まさに、一番最悪な状況だ。

休日に家族ぐるみで会っている現場を見られるなんて。

こんなの、言い訳をしようにも上手くできるはずがない。


「あれ、あなた……大地と中学が一緒だった桐原さんよね?」


後ろから母さんが助け船を出すように青葉に問いかけた。


「は、はい! 先輩のお母様ですよね!! 桐原青葉です。ぜひ青葉と呼んでください!」 


「青葉ちゃん、よろしくね。今日はね、どうしてもうちの子と白鷺さんの弟くんが、大地にバスケを教えてほしいって頼み込んできたのよ」


「そ、そうなんですねー」


青葉はそう相槌を打ちながらも、ジロリと俺の方を睨んできた。さも『後で絶対に説明してくださいよ』と言いたげな顔だ。


「……お姉さん!」


南先輩たちと話していたはずのたくま君が、とてとてと二人の前に歩み寄った。


「お姉さんたちがやってる動画、見た! かっこよかった……です!」


SNSに上がっていた、この前のストバスの動画のことだろう。

それを聞いて、南先輩も青葉も照れながらたくま君の頭を撫で始めた。


「ふふ、ありがとう。さすが『王子様』の弟くん。しっかりしてるわね」


「『王子様』?」


南先輩の言葉に、たくま君がきょとんと首を傾げる。


「華お姉ちゃんのことだよ」


青葉が教えると、たくま君は目を輝かせてベンチの華を振り返った。


「お姉ちゃん、『王子様』なの!? すごーい!!」


大興奮の弟に対し、当の『王子様』本人はひどく反応に困った顔をしていた。


「もしよかったら……バスケットボール、僕たちにも教えてください!!」


「教えてください!」


たくま君と千代は手を繋ぎながら、現役バスケ部の二人に元気よくお願いをした。


「えっ、私たちでいいの!? もちろん教えるよ! いいですよね、南先輩?」


「ええ、もちろん! お姉さんたちが教えてあげるからね」


そうして、ちびっ子二人のお世話は、現役バリバリのバスケ部員2人が引き受けてくれることになった。

コートで歓声を上げながらボールを追いかける4人を、俺と華は少し離れたベンチから見守る。


「……華、どうするよこれ?」


「どうするも何も、見られちゃったんだからしょうがないじゃない」


華はため息をつきながら、隣に座り直した。


「だよなー。弟と妹が友達同士で、今日はその付き添いで初めて一緒に遊んだってことにするしかないか」


俺が妥協案を出すと、華は少しだけ不満そうに唇を尖らせた。


「……初めて、か。まあ、学校での面倒ごとを避けるためにはそれが無難ね。でも……」


華はちらりとコートの方へ視線を送る。

そこでは、千代にボールの持ち方を教えながらも、青葉がチラチラとこちらを窺っていた。

明らかに俺たちの関係を怪しんでいる目だ。


「あの後輩の子。大地のことが気になって仕方ないみたいね」


「そうかな?」

 

「そうよ、あの顔は――」


その後の言葉は周りの歓声にかき消された。

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