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学校の『王子様』女子を甘やかしてみた  作者: 有明海
2章 夏休み

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25 王子様とペアカップ

俺はパフェを、白鷺さんはアイスクリームをトレイに乗せて席についた。


対面して座ると、彼女は何も言わず、じーっとこちらを見つめてくる。

視線の先は、俺のパフェに乗っているイチゴだ。


(もしかして……)


「もしよかったら、一口いりますか?」


そう尋ねると、彼女は待っていましたと言わんばかりに小さく頷いた。


俺がスプーンを差し出すと、彼女は少しだけ身を乗り出し、俺が食べていたのとは反対側をそっと口に含んだ。


「……美味しいわ」


冷静なふうを装っているが、心なしか目尻が下がっている。


ハンバーグやとんかつを作ってあげた時もそうだったが、彼女は意外と食べることが好きらしい。普段の「王子様」としての姿を知っているだけに、こういう子供っぽい反応を見せられると、なんだか調子が狂ってしまう。


「この後、寄りたいところがあるんですけど、いいですか?」


「いいわよ。たくまのプレゼント選びに付き合ってくれたし、夕方くらいになるってお母様にいってるしね」


「ありがとうございます。じゃあ、食べ終わったら向かいましょうか」


俺たちは冷たいスイーツを堪能した後、フードコートを後にして2階の雑貨屋さんに向かった。


「何か買うの?」


「そうですね。昨日のイベントの優勝賞品で、このモールの商品券をいただいたので。せっかくだから何か形に残るものを買おうかなと」


「自分へのご褒美ね。いいと思うわ」


そう言って二人で歩きながら、色とりどりの雑貨を見て回る。

キッチン用品からステーショナリーまで、見ているだけでも飽きない空間だ。


俺は棚を回りながら、母さんが欲しがっていた丈夫なエコバッグと、新しいプレート皿を手に取った。


「これにします。付き合ってもらってありがとうございました」


「気にしないで。……あら?」


レジへ向かおうとした時、白鷺さんがあるコーナーで足を止めた。

視線の先にあるのは、丸まった猫のイラストが描かれた、温かみのあるデザインのマグカップだ。


「……かわいいわね」


どうやら青色とピンク色がセットになったペアカップのようだった。


「ペアのマグカップですね。青色の方も落ち着いた色合いで、いい感じです」


「そうね……。可愛いわ」


彼女は愛おしそうにカップを眺めている。

その横顔を見ていると、ふと思い至った。


「白鷺さん、それ……もしよかったら、俺に買わせてもらえませんか?」


「え……? でも、これは……」


「商品券、まだ余ってるんです。たくま君への誕生日プレゼントの『おまけ』ということで。俺が勝手にあげたいだけですから」


俺がそう提案すると、彼女は少しの間、迷うようにカップを見つめている。

やがて小さく吐息をついて俺を見た。


「わかったわ。でも、これはあなたが頑張って手に入れた商品券なのだから、それは忘れないで。……あと、条件があるわ」


「条件、ですか?」


「青色の方は、私が買うわ。それを、あなたにプレゼントさせて」


「え、それじゃあ俺が贈る意味がないじゃないですか」


「流石にあなたに甘えてばかりなのは気が引けるのよ。私からも何かお礼をさせて」


彼女の瞳には、一切の妥協を許さない強い意志が宿っていた。


結局、ピンク色を俺が買い、青色を白鷺さんが買うという、なんとも不思議な形での「交換」になった。


会計を済ませ、店を出る。

俺の手元には青色の猫のマグカップが、白鷺さんの手元にはピンク色のマグカップが残った。 


駅へ向かう道すがら、大きな荷物を抱えた俺たちの影が、街灯に長く伸びては消えていく。


「上原君、今日は一日……その、筋肉痛なのに付き合ってくれてありがとう。楽しかったわ」


「俺もですよ。たくま君の誕生日、楽しみですね」


「ええ。とても」


夕暮れ時の下り電車はそれなりに混んでいた。

電車に揺られながら、俺はバッグの中の小さな箱に触れた。

俺がこれを使うたびに、彼女と「つい」のカップを思い出すことになる。


そう考えた瞬間、脳裏に今日の出来事が走馬灯のように駆け巡った。

駅前での待ち合わせ、二人で食べたパフェ、たくま君へのプレゼント選び、そして――このペアマグカップ。


(……待てよ。これ、はたから見たら完全に『デート』じゃないか?)


その事実に今さらながら気づく。

一度意識してしまうと、すぐ隣に立つ彼女のことが脳裏から離れない。


「……上原君? 顔が真っ赤だけれど、大丈夫かしら。どこか具合でも悪い?」


不意に、白鷺さんが覗き込むように顔を近づけてきた。


「い、い、いや! なんでもないです! 電車の中が、その、思ったより暑くて!」


「そうかしら? 私は少し肌寒いくらいだと思っていたけれど……。やはり、昨日の疲れが出ているのね。無理をさせてごめんなさい」


「本当、大丈夫ですから! ほら、もうすぐ駅に着きますし!」


俺は泳ぐ視線を必死に車窓へと向けた。

ガラスに映る自分の顔は、情けないくらいに火照っていた。


これは夏の暑さのせいだ。

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