22話 Hammer X -継続-
「いえーい!!」
12月23日、今年もお誕生日会開催!
「でもさ、ずるいよね。律帆ちゃんばっかり誕生日会だよー」
「なんでだろうなー。去年の誕生日会で3月は藍の、5月に俺の誕生日会をするって言ったのは律帆だよな」
「悪かったわよ」
そう、私たちの誕生日会をやりたいって話はあったんだけど、律帆ちゃんが行方不明になったから結局やらなかったんだよね・・・・・・。で、1年経って、また律帆ちゃんのお誕生日が回ってきた。
「そのかわり、今年こそやるわ」
「やる気なんだな」
「お礼もしたいのよ、ずっとお世話になってきて、貰ってばかりじゃ気も引けるってものよ」
長かった、けど、またこうして1年が過ぎて、こうやってみんなで笑っていられる。これが本当の幸せってことだよね。
「ありがとう、律帆ちゃん」
私は律帆ちゃんの隣に座って、顔を覗き込む。
「なによいきなり」
「律帆ちゃんがこうやって一緒にいてくれて、本当に嬉しいよ」
「そう・・・・・・」
「それじゃあ、パーティーはじめよっか! 今日のケーキの柄はクマムシだよー」
「私の推し生物だわっ!」
「なんで最後のサプライズを言っちゃうんだよ」
「あ! そっか!」
あはは、まったく。ぐだぐだだなぁー。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
みんなで楽しく遊んで、家族の人達と夜ご飯を食べている時のこと。
「からあげね、昨日食べたけど、何回食べても食べ飽きないわ」
「そうそう、昨日は律帆が帰ってきた記念でパーティーをしたんだよ」
「もちろん、今日が律帆の誕生日は知ってましたけど、やっぱり無事に帰ってきてくれたお祝いもしたいじゃないですか」
咲也さんと律花さんが言う。楽しくしていた時突然ドアが開かれた。
「ハロー! いや、今の時間じゃグッナイ? でも、グッナイだとおやすみみたいなニュアンスがあるからここはグッドイブニングだね」
現れたのは、律帆ちゃんのお父さん、白夜さん。
「突然、どうしたの」
ふーきさんが白夜さんに聞く。
「いやー、今日は娘の誕生日会だろー? 誕生日プレゼントだよー。おいでー」
そう言うと、後からもう1人の女の人が入ってきた。
「じゃーん、AITuber4号機、みんなからはリーフィと呼ばれていたね。受肉させてみましたー!」
「ふふ、久しぶりね」
「なんでリーフィが誕生日プレゼントになるのよ・・・・・・」
「にしても、一体どうなってんだ? 夏芽たちと同じように現実世界に肉体を作って移し替えたってことか?」
「そのとおり! デバッグも終わったし、そろそろ販路にも乗せられそうだ。とはいっても、一部の上流階級の影武者としての運用になるだろうね」
「兄さん、知ってはいたけどとんでもない人だ・・・・・・」
リーフィちゃんは律帆の隣に座った。
「一度あなたと話したかったのよ。こうやって空気を震わせて、ね」
「そう、じゃあリーフィが白夜にお願いしたってわけ」
律帆ちゃんが白夜さんの方を見ると、白夜さんは満面の笑みで親指をたてた。
「えぇ、今日限りの奇跡みたいなもの。それに、プレゼントがあるのよ」
「プレゼント・・・・・・」
リーフィちゃんは律帆ちゃんの手を取ると、外に歩き出した。
「ちょっと兄さん! せっかくの誕生日会なのに」
「まーまーま! 誕生日なんて生きてる限りは毎年来るんだし、たまにはこういうのがあってもいいじゃないか! そうそう、藍と晴人も来ていいよ」
「でも、どこに行くんだよ。それを聞かねえと」
「うん、行く」
「おい、どこに行くかもわからないのに」
晴人くんが止めようとするけど、私は律帆ちゃんについていきたかった。
私はみんなにありがとうって言って、家を出た。そしたら、大きな車が止まってた。確か、前にVectorの会社に行くときにのったやつ、だと思う。
私と晴人くんも車に乗ると、わたしたち4人を乗せて車が勝手に動き出した。
私たちは不思議と、おしゃべりをしなかった。静かに、夜の町を進む車に身を任せてた。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
車が止まると、着いたのは近くの山の山頂。空には星が輝いてて、とっても神秘的。だけど、雪が降ってて、すごく寒い。
「寒いわね」
「ふふ、そうね、こんな寒さを感じたのは初めてよ」
律帆ちゃんとリーフィちゃんは、どこか似ているような、通じ合っているような。そんな不思議な雰囲気があった。
「白夜からのプレゼントよ。意固地で、照れ屋で、気分屋な白夜のね」
リーフィさんがパチンと指を鳴らした。
・・・・・・何も変わらない、そう思っていると、地面のしたからゆっくりと青白いなにかがぽわぽわと浮かび上がってくる。
「こ、これって・・・・・・」
「クラゲだ・・・・・・」
大きい、小さい、色んなクラゲが下から上ってきて、辺りはまるで深海のようになった。
「マリンスノー」
律帆ちゃんが言った。
「私の見たかったものだわ、深海に降る雪と、クラゲたち」
律帆ちゃんがマリンスノーと呼んだのは、本物の雪のこと。そして、このクラゲたちはBMIの機能で浮かび上がるAR画像。触れようとするとほわほわと揺らめく。
「白夜はね、絶対謝らない。晴人くんをユートピアメーカーに連れて行ったこと、みんなを危険に晒したこと。でも、謝らないのは彼なりの美学なのよ。謝るくらいなら、その時間を何か別のことに使おうとする。自分勝手で、人のことなんて考えないヤツだけど、誰かのためになにかをしようとする気持ちは本物。でも、分かり合おうとしない、そんなものは無駄だって考えてるせいで、みんなにはいい印象を持たれなかった」
そうだよね、だって、いい人じゃなきゃ願いを叶える機械なんて作らないもん。
「藍、例えば、律帆がこけて怪我をしたらどうする?」
「え?」
私なら、一緒にいてあげたい。
「大丈夫だよって言ってあげて、一緒にいてあげると思う。そして、そのあと一緒に歩いて、お家に帰ると思う」
「そうね、とても大切だわ。でも、白夜は違うの。そんなことしてる暇があったら一刻も早く傷口を洗い流せる水と、消毒液と、絆創膏を探しに向かうでしょうね。律帆を1人にして・・・・・・。白夜は救急セットとペットボトルの水を持って帰ると、既に律帆を連れて帰る藍の背中を見ることになるわ。でも、あんなことをしても意味なんてないのに、所詮偽善だ。そう考えるでしょうね」
「・・・・・・だから、白夜はふーきさんに律帆を預けた」
晴人くんは言った。
「そうね、律帆にとって、かりんにとって。白夜にやってほしかったことは家族として一緒にいること。でも白夜は、自分がやるべきことは2人を自分の家族として立派に育てること。そのために2人を“断捨離”した。結果的に2人は今こうして幸せに暮らしてる」
「いくつもの試練も、今の私達を育てるためってこと」
「獅子の子落とし、か」
「でもっ! こうならなかったかも知れないんだよ!? それに、律帆ちゃんは小指を・・・・・・」
「藍、多分、この指は簡単に戻せるのよ」
「えっ!?」
私は律帆ちゃんの言葉に驚いた。でも、ずっとその指はないままで・・・・・・。
「人を1人作る技術がある白夜が、この指一本戻せないはずがない。きっとお願いすれば簡単に戻せるわ、でも、私はこのなくした指を自分への戒めとして、成長の証として残してるの。時々ここをさすってね、思い返すのよ、昔のことを」
「じゃあ、もしかして」
「白夜は天才、なんでも出来る。だからずっと私たちを監視していたでしょうね、本当に危険になった時は助けてくれたに違いないわ」
「でも、そんなこと出来るの?」
「ああ、出来ただろうな」
・・・・・・。
「少し、昔話をするわ」
リーフィちゃんは、ゆっくりと話し始めた。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
物心なんてあるはずもない、私が、律帆が生まれてすぐのこと。
胎教、胎児に聞かせた音楽は記憶の奥底に残る。
そのように、“彼”の言葉は聞こえていた。
「僕の子か、せっかくなら強い子に育ってくれよなー」
「兄さん、この子は・・・・・・」
「僕と律花の子だよ。名前は律帆、律花が自分の名前から一文字とって、たくさんの風を受けて進めるようにって帆の字をつけたんだ」
「そ、それはいいんだけど。なんでこんな液体につけてるの・・・・・・。これ、大丈夫なの?」
“私”は、透明な液体に入って、へその緒が繋がったまま色んな器具が取り付けられていた。
「人間の脳がどのように覚醒するのか、そして肉体との関係。それらの実験に使っているんだよ。計画中のVスタジオの建設と同調技術を確立するためのね。それに、これまで作ったAITuberたちは報酬を与える古い学習方式だったけど、この研究が上手くいけばさらに人間に近いAIが作れるかもしれない」
「でも、危険だよ! 大切な子供なんだろっ!?」
「大丈夫、僕は失敗なんてしないから。今までも、これからもね」
「・・・・・・やっぱり、兄さんはもっと人間の心を持つべきだよ」
「僕は人間だけど?」
「でも、ランやワールより人間らしくないよ」
「あ、そう」
「・・・・・・。僕、旅に出るよ」
「どうしたの、藪から棒に」
「僕だって兄さんと同じ血が流れてる。きっと、僕にも兄さんのように世界を変えることが出来るはずだ・・・・・・。僕は現実で戦う、仮想空間じゃなくって」
「止めといたほうがいいよ、血なんて関係ない。僕は天才で、君は凡才」
「それでも、やってみせるよ」
「ふぅん」
やがて、咲也の声は聞こえなくなった。
「にしても、律帆、ねぇ。いい名前だ。お前はこれから1人で人生という大海に飛び込むことになる、巨大な波、強風、頼れるのは自分だけ。それを乗り越えれば、僕までとはいかなくても、偉大になれるよ、きっと・・・・・・。期待を裏切らないでくれよ、律帆」
「お兄様? これはなんですの?」
「あぁ、お前と同じ、僕の大事な家族さ」
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
私たちは、浮かんでは空の彼方に消えていくクラゲを眺めて、4人で背中を合わせて座っていた。
「随分歪んでるのね」
「ねぇねぇ、それをなんでリーフィちゃんが知ってるの?」
「ふふ、なんでかしらね」
微笑むだけで、それ以上は何も教えてくれなかった。
「しかし、律帆がVTuberになったのは必然だったのか? 藍に感化されたからじゃなくて・・・・・・」
「いや、偶然よ。私は藍のおかげでVTuberになったし、2人のおかげで今の私があるの」
「でも、それだと・・・・・・」
リーフィちゃんが、晴人くんの口に手を当てると、律帆ちゃんがちょっとはにかんだ。
「私の真実はそれが全てよ。そこに白夜は全く関係ない」
「うん」
「・・・・・・あぁ、そうだな」
その日は、ずぅっとみんなでクラゲを見てた。
律帆ちゃんが「風邪をひくから早く帰りましょう」って言うまで、ずぅっと。




