21話 夏芽 ~おかえり~
私の名前は、高田夏芽!
今は高校3年生で、元気に過ごしてます! たまにお菓子を作って食べたり、ゲームしたり。そんな、普通の女の子!
歳は17、好きな食べ物は綿菓子、キライな食べ物はスイカ。
そして、好きなものは。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「でさー、おにいちゃんがさー」
「相変わらずやなっ!」
「え、どうしたの五百井」
「いや、1年経ったねん! ありえんこといっぱい乗り越えて、それでもあい変わらずおにいさんへの愛変わらず!!」
「当たり前でしょーが! おにいちゃんへの愛は冷めることなんてありえないの!」
遡ること1年前、私たちは無事に現実世界での生活を始めた。
現実世界についた時、私の体は確かにあった、今まであった体のピリ付く感覚がないというか、やっぱり現実世界の風は違うなって感じた。
目の前にはおにいちゃんがいた、嬉しくって、嬉しくって、泣きたかったけど。
「もう! バカなんだからー!!」
怒ってた。おにいちゃんも事情を理解してなかったので、私が手取り足取り教えてあげた。最初は信じられない様子だったけど、次第に順応していった。両親も友達もいなくなったけど、夏芽がいるなら不幸中の幸いだって言ってくれた、泣くほど嬉しい。
私たちは白夜さんっていう人に支援してもらって生活してる。新しいマイホームには私とおにいちゃんの2人だけ、と思っていたのに。
「なーんで五百井も一緒なの!」
「これからは、2人、1つ屋根の下やで! おお! これは興奮するなぁー!!」
「チェンジで!! 白夜さーん! チェンジでーす!!」
苦情の電話を即いれた。でも、全然聞き入れてくれなくて、結局この3人での暮らしが始まった。
「いつも朝ごはん任せて悪いな。今日は大学も早く終わるし、夜は任せろ」
「ほんとー? おにいちゃんが料理なんて出来るのー?」
「それくらい作れる、舐めるなー」
「どうだかー」
おにいちゃんは一足先に出て、私と五百井も少し遅れて家を出る。
私は編入生として近くの高校に通うことになった。おにいちゃんは推薦でちょっといい大学にいくことになった、結構喜んでた。
「おい五百井、おにいちゃんに色目使ったら殺すからね」
「あんなぁー。知ってるやろうけど、うちが好きなんは夏芽やで?」
「そんなの、おにいちゃんの魅力の前には屈するかもでしょ」
「それ言い出したらキリないやろ!」
「とにかく、おにいちゃんの前で好きになっちゃいそうなこととか絶対するな。おにいちゃんの前ではおならして、部屋は散らかして、ずっと同級生の陰口を言うような女であれ」
「むちゃくちゃやんか!! そんなんイヤやで!?」
「いいか、やれ、やれと言ったらやれ」
「うぅ・・・・・・夏芽には逆らえへん・・・・・・」
その日の夜、おにいちゃんと一緒に食卓を囲む。
そして、隣に座っている五百井を肘で小突く。
さあ、やれ!
「う、うぅ・・・・・・」
五百井は顔を真っ赤にして、可愛らしい音を出した。
ぷっ・・・・・・。
目はぐるぐる、顔は真っ赤なトマトのようになっていた。
『あぁ、ああっ。めっちゃ、恥ずいわぁぁあ・・・・・・』
よっし! これで嫌われる!
「はは! 五百井ちゃん、そんなに赤くなる必要ないのに! 俺も、最近腸の調子が超悪くって!」
は、はぁ~~!? おにいちゃん優しすぎでしょ!! いや、そこに触れる時点でデリカシーのかけらもないけど、それでもわざわざフォローしてあげるの!?
つ、次だ次っ!
今度は、五百井に部屋を散らかしておくように言っておいた。
「おにいちゃん、五百井の部屋からなにか聞こえてくるの! もしかして、苦しんでるのかもーー 見てあげないと!」
「おう、任せろ」
そう言うと、たくましい背中を見せ、ゆっくりとドアを開ける。
「あぁ、あぁっ! 今はホンマにアカンて!! 恥ずかしいもんしまっとんのに!!」
「ん、これは・・・・・・」
おにいちゃんが拾ったのは私が五百井といっしょに小さいビニールプールで遊んでる写真。白夜さんが元の世界の破損データから引っ張り出してきた画像を現像したものだ。
「うわ、天然スク水だ・・・・・・」
しまった! おにいちゃんはスク水フェチなんだった!!
最後の作戦、同級生への悪口タイム!!
おにいちゃんのいるリビングで映画を見ていると、五百井がやってきた。
「あーあ、マジで茉凜のやつうざいわー。あいついらんわー」
「どうしたんだ? 友達か?」
「そ、そうなんよ。ほんまーいらんわー」
「なにかあったのか?」
「え? えーと、いやーいじめっこやねんかそいつ、友達がいじめられとんねん、ほんまー、いてこましたろかぁー」
「友達想いなんだな、いっちょ加勢してやろうかっ?」
「い、いやええて! ええですよそんなん・・・・・・」
結果、撃沈。
私はおにいちゃんが寝静まった夜中に五百井を自室へ呼び出した。
「堪忍してやぁ・・・・・・。特に、その、あれが一番堪えたわ・・・・・・。最初の・・・・・・」
「五百井、おにいちゃんの優しさに触れて、おにいちゃんが好きになったとかないだろうね。もしそうだった場合、私は今すぐ五百井に火を付けて、脅威! 人体発火現象って見出しで超常現象雑誌に掲載してもらうから」
「いや、それよりも好きな女の子に色々と恥ずかしい命令されて、それが、なんや、癖に・・・・・・」
「はぁー!? ドM属性が芽生えたってわけ!? キモい! キモいーっ!!」
「その顔は、なんなんやーっ! 照れ隠しなんかー! うちにときめいたんかぁ!」
「んなわけあるかっ!! 寄るな変態っ!」
はぁ、こんな毎日。
「おにいちゃん、そろそろ彼女作りなよー」
これは、逆の気持ち、彼女を作ろうとする気にならないように敢えて反感を買うように煽ってやる。
「はいよー」
おにいちゃんはお腹をぽりぽりかいて、BMIでARを楽しんでいる。
「おお、目の前に俺の描いたイラストの女の子がいる・・・・・・」
「もー、ほんとだらしないんだから」
そんなとこが好き。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「久しぶりー、リーフィ!」
私と五百井はベッドに潜って、小さなモニターの中のリーフィに話しかける。
『アンタ達・・・・・・。普通にBMIで話せばいいでしょ』
「でもな、こっちのほうがなんかテンション上がんねん!」
修学旅行で、先生にバレないように部屋移動してガールズトークをするような要領だ。この背徳感みたいな感じは、なんでこんなにも面白いんだろう。
「そっちの近況はどう?」
『AITuberの近況報告ほど面白くない話ないわよ』
「まだVスタジオにおるんやろ? なにしとん?」
『ただの温泉巡りよ。でもこれが楽しいのよ、最近は岐阜の温泉に行ったわ。寒空の下で浸かる露天風呂は格別だったわね・・・・・・』
「なんだか老後のおばあさんみたいな趣味・・・・・・」
『失礼なこと言わないで、水族館のクラゲコーナー巡りもしてるわよ』
だめだこりゃ、というように五百井と顔を見合わせる。
『こっちよりも、そっちの話のほうが気になるわ。退屈なのよ』
「ああ! とびっきりのがあるよ! 昨日さ、五百井がおにいちゃんの前で・・・・・・」
「それだけは言わんといてぇー・・・・・・!」
五百井の制止を無視して、私は全部話した。
『・・・・・・それ、お兄さんの好感度を上げてない?』
「でしょ?」
『いや、夏芽じゃなくて、五百井』
「・・・・・・は?」
「え?」
『お兄さん、優しいから多分欠点なんて気にしてないと思うわ。それより、五百井の意外性とか、恥ずかしがる姿とかに魅力を感じてるような気がするのよね、話を聞く限り』
「・・・・・・なるほど」
「どしたん夏芽、怖いで」
「やっぱりあんたは生きていちゃいけない生き物みたいだわ」
「考え直してくれぇー!」
「五百井―!!」
『はあ、楽しそうでなによりだわ』
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
「私たちって、いつまで生きてるんだろう」
「そーいうのは、不死身になって1000年とか生きたやつが言うセリフや、10数年しか生きてないのにそんなこと言うなや」
「なんていうか、よくも悪くも進展がない感じ。例えば喜楽里は改心してハッピー。藍たちは晴人を取り戻してハッピー。かりんたちは白夜さんとの因縁に決着をつけてハッピー、ついでに最近付き合い始めたらしい」
「おぉ、あの人らあんときはまだ付き合ってへんかったんか」
「でも、わたしたちは普通だよ。おにいちゃんがいるだけで私は幸せだけど」
「でも、晴人を取り戻したんと同じように、おにいちゃんを取り戻したやんか」
「それは当然のことなのっ!」
「なんやめちゃくちゃやな・・・・・・」
私のめちゃくちゃに慣れてる五百井も、この微妙な感情は理解してくれなかった。
「私のストーリーのハッピーエンドってどこなんだろう」
「なんでハッピー“エンド”がええん?」
「だって、キリがいいでしょ。ハッピーで終わったら、そのストーリーはハッピーで決着するんだから」
「うーん、うちは人がたくさん死んだ上で2人が生き残ったみたいなハッピーエンドより、ただ普通の日常の中でダラダラしてるだけ、ハッピーエンドもくそもないような映画のほうが好きやなぁ」
「いつから映画の話になってんの」
「ええやん、ハッピーエンドやなくても、ハッピーで」
「そうね、ハッピーね。きれいな終わりがなくても、だらーっと幸せならそれで」




