表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

68/74

20話 バカップル・プライマリー

 「ふぅ、無事に戻ってこれたね」


 「ようやく、全て解決しましたわね」


 「うん、ふぅーう・・・・・・。一息つけるよ・・・・・・」


 僕の部屋に戻ってきた。この部屋は昔っから何も変わらない、ちょっとCDが増えたり、ものが増えたりはしてるけど。


 「この部屋も2人で暮らすには、少し窮屈な気もしてきたよ」


 「あら、わたくしにはこれくらいが良くってよ」


 「もしも、これからもずっと2人で暮らすんだったら、大きな家にでも引っ越したいよね」


 「そ、それって、どういう意味ですの・・・・・・?」


 「え? 言葉どおりの意味だけど」


 でも、やっぱりここが良いんだよな。僕ってば断捨離出来ないタイプだ、思い出のあるこの部屋を抜け出すことが出来ないでいる。でも、今はまだこれでいい、今の僕には、ここがお似合いだ。


 「今日は久しぶりにかりんさんの手作り料理が食べたいなぁ」


 「全く、食べる側はなんとでも言えますわよ」


 「手伝うよ。今日はそうだな、グリーンカレー食べたい」


 「材料が足りませんわね、買い出しにいかないといけませんわ」


 「そっか、僕が行ってこようか? 必要なものは分かるつもりだよ」


 「いえ、2人で行きましょう。そのほうが、楽しいですわ」


 かりんさんにばかり動いてもらってるから、少しでも負担を肩代わり出来ればと思ったんだけど、頼りがいのある男て難しいなぁ。


 僕らは2人で自転車に乗って近所のスーパーに行く。


 「でも、これで本当に終わったんだよね。律帆ちゃんに始まって、かりんさんのお兄さんで絡まったこの物語は、全員のハッピーエンドといっしょに終わったんだ」


 「そうですわね、これからはようやくゆっくり出来ますわね、VTuberのお仕事もこなしつつ、2人で」


 やたらかりんさんがこちらを気にしている様子だ。


 「そうだね、VTuberに出会えてなかったらかりんさんとも出会えてなかったもんね」


 「鈍感もここまで来ると腹立たしいですわ」


 「え? なんて?」


 「くーっ! 難聴ですわ、一度耳鼻科に行けばいいんですのっ!」


 「ど、どうしたのかりんさん!」


 「もう! わたくし、回りくどいのはイヤですわっ! ここではっきりさせますわよ!!」


 材料の入ったかごを持ったまま、僕の鼻先に指を当てる。


 「斑鳩さん、あなたはわたくしのことをどう思ってるんですのっ!」


 「えぇっ!? そ、それは」


 僕は、こうやってかりんさんとだらだら過ごしていたい。ただ、この時間が愛おしいんだ。


 でも、かりんさんの時間だって奪ってる。僕も、はっきりさせないといけないんだ。


 かりんさんのことが好きか、そして、付き合うのか。本当は考えたくないさ、この関係を壊したくない。でも、僕らはこの世界に生きている限り、選択しないといけない、進んでいかないといけないんだ。それが、僕の勝ち取った、信じた世界のルールだ。


 むっとするかりんさんの顔に、僕は指を突きつけ返す。


 「なら、逆に聞くけど、かりんさんは僕のことどう思ってるの!」


 「好きですわっ! 友達としてでも相棒としてでもなく、異性として、これから一緒に生きるパートナーとして!」


 グラっと、僕の足元が崩れていく。もう、気持ちを受け止めてしまった以上は引き下がるわけにはいかない。


 僕は、かりんさんに挑戦してしまったんだ。別にいつも通り流すことだって出来たかもしれない、でも、僕は挑んだ! なら、戦う!


 「肯定論法で、かりんさんを倒すっ!」


 「たっ、倒すってなんですのっ! さあ、次は斑鳩さんの番ですわよっ!」


 「僕のことが好きってのは本当?」


 「その通りですわよ! ずーっとアプローチしてきたのに、斑鳩さんが全く気づいてくれないのが悪いんですのっ! 本当はもっとロマンチックに言いたかったのに、こんなスーパーの中で、買い物かごを持って告白なんてっ!」


 「くっ、倒せない」


 「なーにが倒せないですのっ!! いい加減観念して、斑鳩さんの気持ちを言えばいいんですのよっ! どうせ? 答えは決まってますでしょうけど!」


 「矛盾がない・・・・・・」


 「斑鳩さん、そろそろ真面目になってくださる?」


 「や、やめろぉ・・・・・・」


 「ただ、自分の思いを言うだけでいいんですの。そこには推理も思惑も必要ない、ただ、自分の気持ちを言うだけのなにが難しいんですの?」


 「・・・・・・だからだよ」


 「え?」


 「自分の気持ちだなんて、そんなの言えないよっ! 僕が言えるのは事実だけだ、そして、目的のために言葉を使う! コミュニケーションじゃないんだ、僕の言葉は、全て・・・・・・」


 「そんなに、難しく考えなくていいのに」


 そうだよ、僕の欲望を素直に口に出すとか、そんなのクールじゃない。僕らしくない。


 「さぁ、素直に伝えてごらんなさい、わたくしのように」


 僕は、かりんさんみたいにまっすぐじゃないからっ! いつもひねくれてて、のらりくらりと面倒事は避けてきたから! 自分の気持ちを素直になんて、そんなの、そんなの・・・・・・。


 「恥ずかしいし」


 「斑鳩さんっ!」


 「恥ずかしいんだよぉ! そんな、1年くらいずっと一緒にいて、急に、そんな、気持ちを伝えるなんてさ・・・・・・」


 「わたくしが、信じられないんですの?」


 「僕はっ、どんな言葉でも受け止められるさ。でも、逆に言葉を受け止めてもらうのは、そんなに慣れてない」


 「楽になったほうがいいですわよ」


 かりんさんは弱っている僕を見て満足そうに、どこか裏があるような顔をする。


 「でないと、これをかごにいれてやりますわよ」


 かりんさんは、パック詰めされた牡蠣と亜鉛サプリをかごに入れるジェスチャーをする。


 「とんだバカップルだよ!!」


 「さあ、さあ!」


 うう、僕は、ボクはぁ・・・・・・。


 「好き、だよ、かりんさんのことが好きだ。異性として」


 「きゃーー!! ようやく聞けましたわ!! その言葉ぁーっ! 今日はグリーンカレーに牡蠣のアチャールを添えてやりますわー! ご飯はお赤飯ですわー!!」


 「やめてぇーーー!!!」


 かりんさんは、いっつも気高いお嬢様って感じだったけど。こう見ると、普通の恋する女の子だったんだ。好きな人がいる女の子って、失礼だけどバカに見える。でも、それがかりんさんだったら、なんか許せる。


 「うう、許さない・・・・・・。公衆の面前でこんなこと・・・・・・。僕が忌避するバカップルそのものじゃないか」


 「逆に、これで勘弁してあげてるんですから感謝すべきですわ」

 

 「避けてた僕が悪かったよ、全部・・・・・・」

 

 「なんですかその言い草、気に入りませんわね。かりんポイントを10没収ですわ」

 

 「うひぃー・・・・・・」

 

 こうして、僕らは付き合い始めた。


 とはいっても、なにも変わらなかった。


 強いて言うなら、少し本音が出るようになった。それから、さん付けがなくなった。


 なんだ、良いことばかりじゃないか。


 「ねぇ、今度コラボ配信なんてどう?」


 「ふふ、VTuberが恋愛なんて許されませんわねー。どうするんですの? 視聴者に見せつけてやりますの?」


 「それ、マジで炎上するやつだから・・・・・・」


 「つまんないですわー。まあ、無難に一緒に対戦ゲームでもしましょうか」


 「そだね」


 部屋でだらーっとしながら、僕らはベッドの上で横になっていた。


 「やーあ!! お久ぶりだねー! おにいちゃんだよー!!」

 

 この声は、白夜さん? 突然の声に2人で玄関ドアの方を覗き込むも、いない。


 「こっちこっち」


 反対側を見てみると、窓から入ってくる白夜さん。


 「どういうことっ!?」


 「まーまー、気にしない気にしない。そんなことより、ほら、これ」


 手渡されたのはお赤飯だった。


 「橘家のお赤飯に対する信頼がすごい・・・・・・」


 「いやー、妹が彼氏作るとはねー。兄としても複雑な気分だよっ!」


 くるくると回りながら、大笑いで話す。


 「そうだ、聞きたいことがあったんだ。白夜さん!」


 「ん? なんだい?」


 「ユートピアメーカーで、白夜さんが願ったことってなんですか? 僕は最初、てっきり自分の悲願を達成して全員が機械に入って過ごしてる世界になってるのかと思いました。でも実際は、普通の世界、それも、今ほど科学が発展してない世界で、白夜さんの願いとは真反対な気がして」


 それを聞いた白夜さんは、くるくると回るのを止め、僕の机に腰掛けた。


 「じゃあさ、何だと思う?」


 「兄弟を捨て、家族を捨てた白夜さんは愛が欲しかった。だから、かりんみたいな妹に愛情を求めたんじゃないですか? だから、夏芽は、おにいちゃんを好きになるようにプログラムされた・・・・・・」


 「そんなのあんまりですわ、あんなに好きな気持ちが作り物だったなんて」


 「そうだよ! あれを作り物だなんて言っちゃ夏芽ちゃんが報われないよ! ということで間違い!」


 僕は少しほっとした。


 「正解は、普通の世界に行きたかった、普通に生きたかっただけさ! 天才って辛いよねー、愚かな人達を救う義務があるんだからさ。義務論ってやつ、ノブレス・オブリージュってやつ。神様って、孤独なんだよ、なのに恐れから逃げようとする人間に色んな責任を持たされてさ。そういうの、別にイヤじゃないけど疲れるんだよね」


 「お兄様・・・・・・」


 「僕にはお金がある、不自由しないほど。そして知識と、どんな望みを実現できるできの良い頭もある。でもね、なぜか満たされないんだ。こうやって明るく振る舞っているのも、そうしないと幸せの自覚を持てないからさ。なーんて、暗いとダメだよ! 暗くなるからね! ということで、僕はこれからも“空元気”“から元気”を貰って、頑張るってもんよ! 咲也に任せてたら色々VTuber業界が落ち込んでたし、僕が建て直さないとね!」


 「捨てて、いいんじゃありませんの?」


 「なーにを言うんだい? 我が妹よっ」


 「律帆さんも喜楽里さんも、捨てましたわ。たくさんの人が失望することを分かって、それでもVTuberを卒業しましたわ。お兄様も、逃げられないんですの? 何より大切なのは、自分自身ですわよ」


 「ほーほっほ! 言うようになったねー! でも心配ご無用だよ! 僕は天才だから、飽きたら捨てるさ! あいつらがやってるのは妥協、僕のは選択。ものが違うよー!」


 「それは、違うと思います」


 「へー?」


 「2人の選択は、妥協なんかじゃない」


 「ちぇー、お前らはすぐ人を否定したがるなー。ぺこぺこ頭下げてくるやつらよりも面白いけどさー」


 そう吐き捨てると、机から立ち上がり、再び窓から足をだす。


 「ちょっと! 危ないですよ!?」


 「だいじょぶだいじょぶ! 僕は天才だからさ!」


 僕らが制止するまでもなく、白夜さんはベランダから飛び降りた。


 かに思われた。


 「う、浮いてる・・・・・・?」


 「この靴、ドローン技術を応用したホバーブーツなんだ。天才は自分の道を切り開くものだよ、文字通り、モーセみたいにね、そして民を引き連れるものさ」


 僕らは呆気に取られていた、けど、すぐに白夜さんらしいやと思って、2人顔を見合わせて笑った。


 「そうそう! 妹を貰ってくれたお礼! 今度は祝の言葉をあげるよ! 呪いじゃなくって、祝ね!」


 再び僕らの目線までホバーブーツで上昇してくると、笑顔で言った。


 「前に言ったこの世界は作り物だよって話、ただの負け惜しみだよ! 大嘘―!」


 「大丈夫です、その呪いの言葉はとっくに解除してますから」


 「ええ、わたくしが斑鳩の呪いを取り除いて差し上げましたわ」


 「あっそ、じゃねー!」


 全く、掴みどころのわからない人だ。


 白夜さんはそのまま飛び去った、僕らはカーテンを締め、また温い部屋の中で転がる。


 「そうそう、斑鳩に渡しておきたいものがあるんでしたわ」


 そう言うと、奥の部屋から小さなプレゼントボックスを持ってくる。


 「1週間記念ですわ」


 「付き合ってからの話? 記念と言うには早すぎるよ」


 「いいんですのっ! ずっと前に作ったのに、渡しそびれてたんですの! それも斑鳩がチキってるから・・・・・・」


 「わ、悪かったよー」


 僕はかりんに貰った小箱を開ける。中に入っていたのは上品なブローチだった。


 「わ、なにこれ。すごい綺麗・・・・・・」


 赤い彫刻のようなものが掘られているブローチだ。


 「この彫刻の女性は、わたくしですわよ」


 「美化し過ぎでは・・・・・・」


 ごつっ。


 肘で小突かれた。


 「でも、本当に綺麗だよ。この赤の感じも、美麗な彫刻も」


 「ふふ・・・・・・シェルカメオってご存知?」


 「ううん? なにそれ」


 「何を隠そう、これはあの思い出のヒオウギ貝を私が削って作ったのですわ!」


 「えぇっ!? これを!? 手作り!?」


 どう見ても、手作りのクオリティじゃなかった。


 「ふふ、淑女の嗜みですわ」


 「す、すごいな・・・・・・。ボタンにとどまらず、ついに貝殻で彫刻とは」


 これをかりんが作ったのか。なおさら愛おしく、綺麗に思えた。


 「ありがとう、なんか、貰ってばっかりだね、僕も」


 「あら? でも斑鳩だってわたくしに形に残るものたくさんくれているじゃないですの」


 「そう?」


 「そうですわ、胸に手をおいて、よく考えて見てくださいな」


 僕が、かりんさんに与えていて、形に残っているもの?


 前のヒオウギ貝じゃない、もっと灯台下暗し的な、そんななにか・・・・・・。


 「そうかっ、かりんポイント!」


 「ようやく気づきましたわね」


 「僕は、このポイントを“貰っている”ものだとばかり思っていた。でも、違うんだ。このポイントは、僕がかりんさんに“あげた”ものの積み重ね・・・・・・」


 「120071、随分と溜まりましたわね」


 「うん、本当にね」


 そうだ、初めてかりんさんにかりんポイント、いや、すみれポイントを貰った時から、ずっと、ずっと。僕らはお互いに分け合ってたんだ。


 僕の幸せを、かりんに。


 かりんの幸せを、僕に。


 これまでも、これからも。


 「これからも、ずっと一緒ですわよ。斑鳩」


 「うん、ずっと一緒だ。かりん」


 僕らは強く、お互いの手を握った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ