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17話 幼なじみは大戦犯

 0時を過ぎた、私たちは無事に記憶のリセットを乗り越え、明日を迎えた。


 『い、生きてるですよー!!!』


 『いきてるですー!!』


 『これで全員助かりそうでよかったです』


 『まさか、手がかりがほぼない状態から、うちが犯人ってこと見破るなんてな』


 『さて、五百井にはどんな罰がお似合いかな』


 『あぁ、分かっとる・・・・・・。うちのことを消してもらっても構わへん、それだけのことをしたからな・・・・・・』


 『わたくし達が言いたいこともたっくさんありますが、とりあえず席を外しましょうか』


 『かりんさん、でも・・・・・・』


 『わたくしたちは五百井さんへの罰ゲームでも考えておきましょう、とんでもないのをお見舞いしてやりますわよ!』


 『それより、寝ましょ? もう深夜0時、幼女は寝る時間よっ。寝ないと大きくなれない・・・・・・。待って、大きくなったら困るかも・・・・・・っ!』


 『夜寝るか寝ないかは時と場合による(夜)よー』


 私たち2人を置いて、みんなはぞろぞろと食堂を出ていった。


 『とりあえず面貸せ五百井、温泉行くよ』


 『温泉?』


 『温泉で始まったこの冒険は、温泉で締めくくるのがベストってもんでしょ』


 私たちはまた温泉に向かった。脱衣所を抜けて、温泉に浸かる。


 『あ、あー』


 『あら、空気を呼んで席を外したつもりが、先回りする形になってしまったわね』


 リーフィが湯船に浸かっていた。


 『今から話し込むだろうけど、その前に事件の一部始終を聞かせてほしいわ。まるで探偵小説みたいでワクワクするもの』


 『まぁ、説明の必要はありそうやな』


 それから、五百井の自白が始まった。


 まず、今回の作戦を思いついたのは現実世界に行った時、私とおにいちゃんを引き離して2人でずっと暮らすことを企てた。そして、その方法を模索している時に出会ったのがCOSMO;GARAX、五百井は自分が懐かれたとき、上手く丸め込めばCOSMO;GARAXを利用してこの世界と現実世界を分けられるんじゃないかと考えた。


 そして、とにかくおにいちゃんの捜索を遅らせるためにいたるところで邪魔をしてた、私が足手まといだと思ったことは何度もあったけど、まさかそれが故意だったなんて思わなかった。そして、こっそりCOSMO;GARAXの元に行って作戦を考案した。それは、この世界と現実世界の間にプロテクトを作ること。仮想空間を保護する目的で、現実世界からは一切操作を受け付けないようにしているから、この作戦なら誰にも邪魔されることはないと思った。


 だけど、20人の救出に成功しちゃったら不利になるし、この世界に留まらなくなるからあのライブ作戦を失敗させるつもりだった。最初は妨害工作を企てようと思っていたけれど、COSMO;GARAXの計算で1億人に達成する可能性は0%だということが分かり、疑われないように放置して成り行きに任せた。でも、結果的には藍の“想いの力”っていう計算外の出来事が起こって、ライブは成功に終わった。


 そのライブが終わる直前、五百井はアリバイ工作も兼ねて渋谷でビラ配りをしていた。あらかじめCOSMO;GARAXと渋谷駅で待ち合わせ、ライブが終了したどさくさでプロテクトを発動させた、ライブ終了後なら発見が遅れるかもっていう目論見もあったみたい。そして、決定的なCOSMO;GARAXの会話ログを全て削除した。私が証拠として提出したCOSMO;GARAXの独り言は待ち合わせの直前で、履歴削除の範囲外だった。これは完全に五百井の想定外だったみたい。


 それがこの事件の真相。


 『そう、中々面白いわ、100点満点の犯罪じゃないところがリアリティーがあっていいわね』


 『そりゃあ、リアルの話やからな。証拠の隠蔽とかは無理やったわ、うちに出来たんはアリバイ工作と履歴の削除くらい』


 『ありがとう、退屈が紛れて楽しかったわよ。それじゃあ私は一足先にあがらせてもらうから、出たら私を呼んで、もう一回入り直すわ』


 『くそー、AITuberだからって今回の事件をエンタメ感覚で見てたってこと? やなやつ』


 リーフィを見送って、しばしの沈黙が訪れた。


 お湯が流れる音と、イージーリスニングが聞こえる空間で、先に沈黙を破ったのは私だった。


 『あんた、やっぱ私のことがだぁーいすきだったんだ。パスワードにLOVEっていれちゃうあたり、ガチ恋だ』


 『そうや、いっつもハチャメチャで奇想天外で天真爛漫。うちはいつだって常識人、キラキラしとう夏芽が好きやったで』


 『じゃあ、今こうして裸の付き合いしてるわけだけど、興奮とかするの? 同性愛者ってどーいう感じ?』


 『そろそろ本題はいろうや』


 『うるさい五百井、犯罪者風情がっ』


 『く、うう・・・・・・』


 『で、どーなの?』


 『そりゃあ、可愛いなあとは思うけど、別に興奮とかとは違うわ。なんやろな、花壇の花を見るような感じやろか』


 『ふーん、なんか気持ち悪い』


 『夏芽は、うちのことどう思っとん? 別に、好きとかそういうのを期待してるんやなくて、いつも当たり強いから・・・・・・。うちのこと嫌いなんちゃうかって、いつも不安になるんや』


 『気持ち悪いけど、別に嫌いになるほどでもない。授業中にかまきりが出た時に、うわきもっ! ってなるけど、だからってかまきりが大っきらいってことにはならない、みたいな』


 『良かったわ・・・・・・。それが聞けただけでも』


 『そこは突っ込むところじゃないの?』


 いつもなら大阪人みたいなツッコミの1つでもしてくれる五百井が、やけに暗い。この葬式ムードをなんとかするためにこんな雑談から入ってやってるってのに、空気が読めないやつ。


 『でも、もう、あかんねんな・・・・・・っ。もう、夏芽を好きでいる資格なんて、ないんやっ・・・・・・』


 五百井は急に首を絞められたような、聞いたことのないようなしゃがれ声をあげる。とうか、音に近い、きゅーっと高い音を出して泣いている。


 『好きでいる資格ってなに。好きの気持ちに資格とか許可っているの?』


 『え・・・・・・?』


 『私のおにいちゃんへの片思い、喜楽里の藍への片思い、晴人と渚の両想い? ここにいる人たち全員歪んでるよ、めちゃくちゃ歪んでる。だけどさ、好きになるのは無料だし、好き勝手やっていいし。脳内の好きって思いまで検閲されるようになったら、いよいよ人類も終わりだよね』


 『夏芽は、うちのこと嫌いちゃうん!? おにいちゃんと夏芽を引き離そうとして、こんなことをしでかして!』


 『自惚れないでよね、五百井を嫌いになったところでおにいちゃんが私に近づいてくれるわけでもなし、なんの得もないじゃん』


 『じゃあ、うちは夏芽のことを、これからも好きでいてええん?』


 『好きにしたら? でも、私は絶対に振り向かないからね。私ばっかり追って、婚期逃して、60歳のおばあちゃんになってから後悔してもしらないから』


 『って、それはあんたも同じやろ。おにいちゃんばっか追って、婚期逃しても知らへんで?』


 五百井はさっきより少し明るい笑顔で、私につっこんだ。


 『くよくよしてる五百井もキモいけど、立ち直ったらなおったでキモい』


 『もー、ほんまひどいなぁ・・・・・・』


 『恋する女の子はしんどいものですなー! 全く!』


 『ほんまやで・・・・・・』


 『さて! おにいちゃんに再開したらまずは何を言おう! 腰をくびらせ、上目つかいで! おにいちゃん、おかえりっ! もしくはぁっ! もう、ほんっとおにいちゃんでば頼りないんだから・・・・・・。もしくはぁっ! ほら、もうこの手、離さないでよねっ』


 『なんや、そのテンプレートなセリフは・・・・・・』


 『おにいちゃんのベッドの下の、やたらビビッドな週刊誌で学んでるから!』


 もう事件の話は完全に忘れて、そんなくだらない話をしていた。


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 翌朝、斑鳩さんが私に話しかけてきた。


 『どう? 話は出来た?』


 『あ、そういえばおにいちゃんになんて言おうか考えてばっかで、五百井とあんまり話してないような』


 『えぇ・・・・・・』


 『やっぱり、女の子は未来を見据えていかないとね』


 私はその場を後にする。


 『かりんさん、僕、正直溜飲が下がらないんだけど』


 『若さゆえの過ちですわね。こうして全員助かってよかったではありませんの』


 『でも、律帆ちゃんの時とは違って大勢の人間を巻き込んでるんだよ? 案外、僕らの推理も的外れじゃなかったんじゃないかな。自分とは違う世界の住人相手に、自分と同じ生命の価値があるとは思えないのかも・・・・・・』


 『もう、男の癖にみみっちいですわね! みなさんを返す作業もあるんですから! とにかく、一度まとめるために全員で東京に行きますわよっ!』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『ふぅ、全く、俺の周りで何度事件が起これば気が済むんだか』


 『私たちの3人の中にトラブル巻き込まれ体質の人がいるわね』


 『だれだろーねー』


 『あんたじゃない?』


 『え? わたし?』


 『確かにな』


 『えーなんでよー』


 『それより、あの五百井ってやつ、とんでもないことをしてくれたよな・・・・・・。夏芽がああして事件を解決しなかったらどうなってたか』


 『私たちも必死で証拠探したけど、なんにも見つからなかったもんね』


 『斑鳩さんたちも血眼になって情報を漁ってたみたいだけど、なんにも手がかりがなかったんだって』


 『なまこ?』


 『お前、それでも高校生かよ・・・・・・』


 ぽかんとしている藍に晴人が頭をちょこんと小突く。


 『今回の事件、私にもいい勉強になったわ』


 『今まで散々やってきたもんな、律帆は』


 『うん、暴走した私をみんなが止めてくれたように、五百井も自分を想う人に助けられた。つくづく人は1人では生きていけない生き物ね』


 『おいおい、今回の事件は話が違うだろ・・・・・・。自分のために事件を解決しただけで、五百井のことを思って夏芽が行動したわけじゃないぞ』


 『晴人は気づかなかったの? 夏芽の想いに』


 『夏芽の想い?』


 『考えて見なさいよ、残り数分のあの状況、自分が死ななくても五百井を殺そうとしたって良かったと思わない?』


 『・・・・・・そういえば、そうだな』


 『でも、夏芽はそうしなかった。それは、仮に脅しだとしても自分の友だちを殺そうとなんて出来なかったから。それに、昨日の朝、犯人が見つからなかったら皆殺しって言ってたでしょ? 本当におにいさんに会うことだけが目的なら方法は何でも良かったはずだし、それでも必死に犯人を見つけようとしていたのは、誰一人傷つけたくなかったからって捉えられない?』


 『お前・・・・・・すごいな』


 『お兄さんへの愛に埋もれて隠れてるけど、本当は優しくて純粋な女の子なんじゃないかしら。あくまで推測だけどね』


 『すごいよ! カウンセラーみたい! 前まで人の心は分からないって言ってたのに!』


 『・・・・・・まぁ、これが本心なのかは分からないけどね。でも、自分でも気づけてない本心に気づいてあげるのも、カウンセラーに大事なことかもね』


 3人が部屋で話しているのを、夏芽は廊下で聞いていた。


 五百井を殺そうとしなかったのは、自分が殺されるより自分の好きな人が殺される方が五百井にとって堪えるんじゃないかなって思っただけ。必死に犯人を見つけようとしたのは、皆殺しにするより確実だと思ったから。

 

 そんな合理的判断なんだけど。

 

 フロイトさんが言ってる通り、人間には無意識の領域がある。

 

 彼女が言ってる通り、私も根っこは善人なのかもね。人間って、本当に無駄に複雑に出来てる面倒な生き物だよ。

 

 ま、そんなことより、年上の私をさっきから呼び捨てにしてきてるのが気になるところだけど、まぁそれは今度叱ってやるとするか。


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