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16話 明日のアンタと逢うために

 『はぁー!? うち!? なんでやねん!!』


 『やっぱりアンタだったのね!』


 『見損なったですー!』


 『急に犯人扱いやないか!』


 一同、ざわつく。


 『あ! あれやな! うちを犯人ってカマかけして、顔が緩んだやつが犯人ってことやな!? そういうことやろ!? 敵を騙すにはまず味方からって言うもんな!』


 『いや、五百井。私はあんたが犯人だと思ってる』


 『で、でも、犯人である証拠って言ったって、100%犯人って指摘できる証拠があるわけちゃうんやろ!? こじつけちゃうん!?』


 『あ、めっちゃ動揺してる、やっぱり犯人か』


 『せやからちゃうてー!!』


 私は涙目の五百井を手で押さえながら、推理を語り始める。


 『先に犯人扱いしてから事実の確認をするのは、少し順番がおかしいかもだけど、1つだけ疑問点があるの』


 『疑問点?』


 『斑鳩さん、COSMO;GARAXは“どこでも管理作業が出来る”ってさっき言ってましたよね。もしかして、COSMO;GARAXがいれば管理施設に入らなくてもプロテクトを作ることは出来るんじゃないですか?』


 『あぁーっ! そうだ、そうだよ! 完全に失念してたっ!』


 『じゃあどこでもプロテクトがかけられるってことで、ふりだしに戻るのかしら?』


 『いや、ライブまでの24時間でCOSMO;GARAXは渋谷と管理施設の間以外には移動してない。アリバイは有効なまま』


 『よ、よかったのですよ・・・・・・まぁ、何も解決してないんですけど・・・・・・』


 『そう、つまり五百井は私と別行動をした数分でもプロテクトを作り、記憶保持の権限を削除することは可能だったってこと!』


 『そんなん知らんって!! コスモに会えたんはラッキーやったつもりがアンラッキーやったってことぉ!?』


 『思い返せば、五百井はCOSMO;GARAXに会ったときから懐かれてたし、これは利用できるって思ったのかもね。さて、次の証拠はこれ、見て』


 私は、パソコンの画面を皆に見せる。そこにはCOSMO;GARAXの会話ログが表示されていた。


 『ツツツー! みんなにはナイショだけど、多分失敗するんじゃないCan,tなー。こっちの世界のVTuberへの関心はμっつー。でも、出来ると思わせないとダメー! きゅるるーのためー! ぶへらばー!!!』


 『え? なにこれ・・・・・・』


 藍はこの文章を少し気味悪がっていた。


 『COSMO;GARAXの独り言みたい』


 『え!? 会話ログって独り言も記録されてるんですか!? それじゃあ、私の恥ずかしい独り言も全部記録されてるってこと!? そんな!』


 『ラン、今はそれどころじゃないと思いますぅ・・・・・・』


 『この独り言、要約すると『みんなには内緒だけど、このライブはきっと失敗するね、こっちの世界のVTuberへの関心はないっぽいし。でも出来ると思わせないとダメなんだよなー、きゅるるーのために!』ってこと』


 『きゅるるーってなにかしら』


 『さっきの文章をもう忘れたの? それに、今までだって、この言葉は何回も出てきたはずよ』


 『そういえば、咲也さんが友達って意味なんじゃないかって言ってたね・・・・・・。でも、今のところこの言葉を使っている相手は五百井ちゃんに対してだけだ』


 『そう、この“きゅるるー”を使っているのは五百井に対してだけなの。これが、“バカ女”って意味かもしれないし、本当に“友達”って意味なのかもしれないけど、重要なのは現時点でこれを使う相手は五百井しかいないってこと』


 『あかん、どんどん証拠出てくるやん・・・・・・』


 『そして、五百井が犯人だとすると、他にも辻褄があうことがたくさんあるんだよ。例えば、喜楽里の件』


 『ひっ!? すいませんすいません・・・・・・』


 『喜楽里ちゃん、何されたんだろう・・・・・・。かわいそうだよ』


 『お前を拉致ろうとしたやつだぞ? 同情するなよ・・・・・・』 


 『実は五百井のやつ、喜楽里をわざと逃がしてたことが分かったの。でも、多分それは喜楽里の恋路を応援しようとしてたからじゃなくって、時間稼ぎのため』


 『時間稼ぎ?』


 『そう、全部リセットして、この世界で暮らすためのね。今回犯人がしようとしてることってそうでしょ?』


 『そうか、犯人は記憶の保持権限を消した。この世界に閉じ込めるだけが目的なら記憶はそのままでも問題ないはず、特に犯人の記憶を消す必要もないんだ!』


 『つまり、この作戦を成功させるには、2つのことが重要だった。1つはプロテクトの起動、そして記憶のリセットにみんなを巻き込むこと。だから、時間稼ぎをずっとしてたんだよ』


 『ぶへらばー! マジすかー! マッチぇムグローリウム!!』


 『ふふふ、まさかCOSMO;GARAXが犯人に加担してたなんてね。驚きだわ』


 『なるほど、つまり五百井さんにとっては、時間稼ぎのためにライブを実施させたうえで失敗することがベストだったわけで、ライブが失敗すればまたしばらくはこちらにとどまるでしょうし。それがコスモさんが独り言で呟いていた内容、というわけですのね』


 『せやから! それは偶然やんかぁー! もう完全にうちが犯人に仕立て上げられとるってー!!』


 『本気で黙って、五百井』


 『夏芽ぇ・・・・・・』


 私の感情を察したのか、しおらしくなる五百井。


 『確かに、五百井が犯人だってことになったら全部説明できるよな、じゃあ、犯人は五百井だ!』


 『待って晴人くん、確かに筋は通ってるよ、だけど、五百井ちゃんを犯人だって決めつけるにはまだ早い。次は動機を考えてみないかい?』


 『なるほど、動機か』


 『そもそも、わたくしたち現実世界の住人にとって、こちらの世界で暮らすことにメリットはあるんですの?』


 『現実世界が嫌な人ならありえるけどね、こっちだってほぼ同じような世界で、こっちじゃないと出来ないこともないし、ここにとどまる理由はないよ』


 『おー! ディスられてるよー! 私たちの住む世界がディスられてるよー!?』


 『まだこの世界が仮想現実っていうのは飲み込めていないけど、仮にそうだとしたら幼女を誘拐しちゃってもリセットされるってこと!? だったら・・・・・・いやだめ! YESロリータ、NOタッチの精神を忘れちゃだめー!!』


 『一応、リセットの関係で老いることはありませんわね』


 それに、仮に私が犯人だったとしたらおにいちゃんと永遠に兄弟の関係でいられるってメリットもある。


 『と、考えると、元からこっちの世界にいる2人が怪しくなるわけだね。動機を考えても』


 『・・・・・・もしかして、復讐?』


 斑鳩さんが神妙な面持ちでおもむろに口に出した。


 『だって、僕達は五百井ちゃんの世界を破壊してしまった。それも一瞬で家族を消してしまったんだ』


 『そ、そうなの? 初耳なんだけど、動機としては十分すぎるじゃない・・・・・・』


 『そうですわ、それに、藍さんのライブが成功して、20人をユートピアメーカーから取り出した時点で、仮想世界がたくさん消えましたわ』


 『つまり、五百井ちゃんは僕らに復讐しようと・・・・・・!』


 『あーそこまでや! もう堪忍してくれな』


 突然、五百井が開き直ったというように手をプラプラさせて言った。


 『そうや、今回の騒動も全部うちが犯人や』


 五百井が、自白した。


 こいつだった。


 こいつ、自分が犯人のくせに私の隣でワトソンごっこしてた。


 今まで、ずっと私の味方だと思っていたのに。


 バカだけど、それなりに真面目にやってると思ってたのに。


 『なんで、なんでこんなことしたのーっ!?』


 藍が悲痛な声をあげる。


 『推理の通りや。うち、許せんかったんや、うちらを仮想の世界の住人として扱って、五百井のおにいちゃん連れ去ったときには記憶を消せば問題ないとか言っとったんやで。そりゃあ、確かに現実世界の人たちからしたら、うちらはゲームの登場人物に過ぎへん、けどな、うちやって生きとんねん。考えて、苦しんで、喜んで、現実世界の人らとなんも変わらへん! せやのに、急にお前の世界はニセモンやとか言われても・・・・・・。納得できるか!?』


 みんな、なにも言い返せなかった。


 『そ、そのとおりだよ・・・・・・』


 『おっと、斑鳩さんの肯定論法とやらには付き合わへんで』


 『いや、別に君を論破しようとか、言いくるめようだなんて思ってないよ。本当に申し訳なかったと、心からの謝罪だ』


 『その通りですわ、今更謝って住む問題ではありませんが・・・・・・』


 食堂の時計で時間を見る。あっという間に時間は過ぎて、あと1時間21分で記憶のリセットが始まる。


 『はいはーい! もういいよ五百井』


 『な、なにがや?』


 『嘘をつくのはそこまでにしな』


 『嘘って・・・・・・うちはホンマに犯人やで?』


 『うん、犯人はホント。問題はその動機』


 そう、五百井がそんな人思いなわけない。他人のために復讐なんかできるようなやつじゃないのは、腐れ縁の私だから知ってる。


 『五百井、私のこと好きでしょ』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・。


 『え? と、突然のカミングアウトですか?』


 『なにいってるですー?』


 『あんたさ、ずーっと私と一緒にいるよね。それに、私から目を離さない』


 『ちょ待ってや! 今うち真剣に話してるんやで!?』


 『よく私をクレープ屋に連れて行くし、私はおにいちゃんの惚気しか離さないのを知ってても一緒に帰ろうとしてくる。五百井はバカだから、悟られてないつもりなんだろうけど、私のことがだーい好きで、今すぐ押し倒したいって思ってるの、知ってるんだよ』


 徐々に顔を五百井に近づける。


 『ほら、顔が赤くなった』


 『で、で! なにが言いたいねん!』


 『それが動機ってこと』


 『はぁ!?』


 『五百井、私がおにいちゃんのことを好きってのが分かってるから、おにいちゃんを疎ましく思ってるんだ。だから、おにいちゃんと私を永遠に引き裂いて、そして永遠にループする世界で2人幸せに生きる。それが目的、違う?』


 外を見ると、すっかり暗くなっていた。食堂の時計で時間を見る。時刻は10時53分。あと1時間7分で記憶のリセットが始まる。


 ・・・・・・。あれ、まだ11時?


 私はパソコンに目をやる。


 なっ! まさか、そういうこと!?


 『か、仮にうちが夏芽のことを好きやったとして、それになんの関係がっ!』


 私はナイフを自分の喉に突き立てた。


 『なっ! 夏芽!? なにしとんねん!!』


 『あと2分以内にパスワードを言って初期化しないと、私ここで自殺するから』


 『すとーっぷ!! 命は大事にですよー!! そんな短気なのはだめぇーっ!!』


 黒部ランは必死に叫ぶも、近づこうとはしてこない、返り討ちにあうのが怖いからだ。


 『いい!? 重要なことだからみんな聞いて! 五百井にはもう1つ縛りがあったの! それは、五百井と私が生きていること! そうじゃないと、2人で暮らす世界を作るって目的は達成出来ないからね! 五百井が犯人だと分かった以上、この縛りを崩すことでしかパスワードは聞き出せない!!』


 『だからって! あと1時間あるんだ! そんなに急がなくたって!!』


 『ほんっとうにバカだよね私たち! スマホを見てみてよ!!』


 スマホを持っているのはこの世界の住人であるきゅー子と雷舞ライムだけ、2人のスマホをみんなが覗き込む。


 『え!? 11時57分!?』


 そして、同時に食堂の時計を見る、食堂の時計は10時57分を指している。


 『五百井の最後の罠だっ!! こいつ、旅館中の時計を全てあらかじめ1時間遅く巻いていたんだっ! 私も、パソコンの時間を確認しなかったら気づけなかった!!』


 説明はこれまでだ、あと2分しかない!!


 『さぁ五百井! 私は本気だよ! おにいちゃんがいない世界なんて、生きる意味はない!! NO BROTHER NO LIFEなんだからね!!! ほら! あと18秒!』


 私の手の中にある包丁は、ゆっくりと首の皮を割き、赤い糸を垂らす。


 『さぁ!!』


 10秒


 『さあ!!』


 『コスモ!! 設定初期化パスワード!! NATUME@20111208-LOVE-や!!』


 『OK―! パスワード入力成功しましたー! ぶへらばー』


 ・・・・・・。


 ・・・・・・・・・・・・。


 『私の誕生日・・・・・・五百井、アンタ本当に気持ち悪い』


 私たちは放心して、時計を眺めた。


 秒針と長針が交わり。


 “今日”が終わり、“今日”の始まりを告げた。


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