芸術戦闘開幕
「拉致します。はいどうぞというわけにはいかないな」
俺はヴェルに話しかけるが、まだヴェルは笑ってる。
「そうね。展示想像すると面白いけどね」
とはいえ、武器はおろか水着姿で防衛など頭にない俺たち。
そこにフィーナが割ってはいる。
「聖撃宗セト派フィーナと申します」
名乗りをあげて橋の真ん中で仁王立ちだ。
鍛えられた体と白いビキニが眩しい。
というか宗派名そんな感じなのね。
普段と違う凛としたフィーナはかっこいい。裸足とビキニだが、様になっている。
あと筋肉信者がすごい盛りがってるな。
「鍛えら上げられた体なのに、そのような提案をされることを残念に思います。レンはもとより魔王セトを軽く見てますね」
ビキニで仁王立ちするフィーナの姿に、橋の向こうのビキニアーマーたちがざわつく。
「なにあれ……美の体現してる」「神々しさすら感じる……」「あの腹筋……」
なんだ、あっちの兵士たちにも筋肉信仰者が混ざってるらしい。いや、拝むな。おまえら敵だろ。
フィーナは続ける。
「我ら聖撃宗セト派は、肉体の鍛錬と心の律を求める宗派。お相手しますよ」
筋肉信者も端の前に陣取る。
橋の上のは栗毛のビキニアーマー少女とフィーナ。
少女はにこりと笑った。
「私は“帝国認定勇者”、モウラ・レヴィン。かつて第六天魔王ノブ様より、《芸術戦闘の象徴》と讃えられました」
ビキニとは思えぬ姿勢の良さ。背筋が一直線で、まるで聖像のようだった。
「……芸術戦闘? そんなの聞いたことないな」
俺は首を傾げる。
「戦いを美とする流派です。聖撃のような鍛錬の徒とは……考えが違います」
フィーナの目が鋭くなる。
「神を信じ、己を鍛え、魔王を崇める。私たちには……譲れない信念がある」
「ではその“信念”、拝見します。勝者が語る美こそが、真なる芸術ですから」
モウラは剣を橋に突き刺し仁王立ち。
橋の両橋から筋肉信者とビキニアーマー集団の歓声が上がる。
「最初の一撃は、祈りとともに!!」
「腹筋は信仰、上腕は律、拳は神罰!! いざ清めよ!」
あーこっちは聞き覚えあるの混じってるな。
「行くぞォォ! 美の幕開けだッ!!」
「戦いの 美は刹那に宿るッ!お披露目タイムだ、全員注目ッ!!」
筋肉信者に負けない声量と盛り上がり。さては敵も筋肉阿呆だな。
フィーナが手を合わせ、静かに祈る。
「──鍛えしこの身に、迷いなし」
一方、モウラはバスターソードを片手で持ち上げ、くるりと回して背中に回す。
「美の重み、受け止められますか?」
一歩。もう一歩。ふたりは正面から歩み寄り──
バチィン!!橋の中心で、拳と剣の根元が激突する。
観客席代わりの橋の両端が沸き返る!
「筋肉こそ信仰ゥゥ!!」
「黄金比でぶっ叩けェ!!」
「構えが美しいッ!」
「脚線美が極まったああああ!!」
モナがひとこと。
「……あれ、戦いとして成立してるの?」
「わかんねぇけど、盛り上がってるな……」
ビキニとビキニの戦いは幕を開けたのだった。