いつの間にかの追放
砦から戻ると、に馬車が何台も道具屋の前に止まっていた。
「……何これ」
セトがぽつりと呟くと、荷馬車の影からセラがひょいと顔を出した。
「おかえり、魔王さま」
セラは腰に手を当て、どや顔で言った。
「軍を動かさずに“魔王を国外追放”できるなら──って理屈で、アレクから予算ふんだくったわよ。ちゃんと書面も出るって。で揃えました。家財道具」
セトは小さくため息をついた。
「……何その、脅迫まがいの交渉術」
「交渉は武器よ。愛と生活のためのね」
「その顔で言われると、ちょっと怖いんだけど」
セラは笑って、肩をすくめた。
「これで、しばらくの生活は安心よ」
「しばらくじゃないだろ……定住する気じゃねえか」
「もちろん。だって、私は“魔王夫人”だもの」
「……あと、“追放”って何? 追放扱いなの俺?」
「まぁ、“追放”って言葉のほうが、後々都合いいのよ」
「都合いいって、何が?」
「大人の事情ってやつ。アレクの政治的な都合もあるしね」
「それに、蓮華会の件もまだ片付いてないんだが」
「そっちも、今は一旦手を引いた方がいい。……でも、そのうち向こうから来るわよ」
「なんだか……妙な話になってきたな」
「ま、難しい話は――新居で荷解きしながらにしましょ」
せっかく町へ戻ってきたというのに、セトたちはすぐにとんぼ返りで再び砦へ向かうことになった。
フィーナは“聖撃”に顔を出してくるという。仕事が溜まっているのと、リザの様子を見に行くためだという話だっ
た。
代わりに今回は──アッシュとセラが同行する。
さらには、ディグまでもが「砦の鍛錬場を確認したい」と言い出し、数名の弟子を連れてついてくることになった。
行きがけの数人旅とは打って変わって、帰り道はちょっとしたキャラバンの様相だ。
荷馬車には生活用品、食料。中にはセラがこっそり調達した絨毯や装飾品まで詰め込まれている。
「魔王城なんだからそれなりにしないとね」
何がそれなりなのかわからないが、セラに丸投げしておこう。
そして、モナはというと──。
「ちょっと兄弟呼んでくる。先に行ってて」
そう言って、軽やかに旅路へと姿を消した。どうせその“兄弟”とやらも一筋縄ではいかないのだろう。
こうして、砦という名の“新たな拠点”へと、セトたちはにぎやかに帰っていくのだった。