それぞれの思惑
「まさか、砦をくれるとはね」
セラが口元に笑みを浮かべる。向かい合うのは、国の御三家──ジウロノア家の当主、アレク。
「君としても都合はいいだろう。あの男は、遊び場が増えて上機嫌だ」
「そんな簡単な話じゃないでしょ。……国としては、よほど蓮華会と関わってほしくないのね」
「関係ないよ。……いや、“ない”ことはないが、まあ“ついで”だ」
「どっちにしても、遠ざけたいわけね?」
「確実に脅威になるからな。国内で戦闘は避けたい」
「こっちからは動かないわよ」
「それは助かる」
アレクの声には真剣さが滲んでいる。その目は、セラの後ろにいる“彼”を警戒していた。
「いずれにしても、セラそっちは器をふたつも手に入れてしまっている」
「レンはただのスケルトンだと思うけど?」
「ただのスケルトンは百年以上無敗でしかも自我を持たない」
「セト君が手を加えたからか、感情はあるわね。元からかもしれないけど」
「それはこっちにもわからない。ダンジョンにいる限りは問題なかったのだがね」
「それとリザね」
「その名前は知らなかったが、まぁ例のゾンビ娘だ」
「こっちの器は蓮華会が利用したんだろうね。向こうは処理したつもりだったし。
ほっとけば朽ちる存在だったのに、またセトくんが延命というか別物にしたね」
セラは少し得意げに笑う。
だが、アレクはそれに乗らない。静かに言葉を重ねる。
「そのリザの父親は──殺されたよ」
セラの笑みが、ぴたりと止まる。
「……死人に口無し、ってこと?」
「さあね。だが、こっちの知らないところで動いている奴らもいる。君の“魔王”が火種になるなら、火消しもまた現れるさ」
沈黙が流れたあと、アレクはふっと肩をすくめて話題を変える。
「全く……ただの道具屋なんだろ? 君のお気に入りは」
セラは笑みを取り戻し、肩をすくめる。
「そうだよ。修復が得意な、ただの道具屋」
「こうなることを見越してたのか?」
「いいえ。ただ、丁寧で誠実だから重宝してただけ。……まさか“こんな魔王”になるとは思わなかったけど」
アレクは小さく息を吐き、セラに目を向けた。
「どちらにしても、国も教会も、もう彼を無視できない」
「そんな相手に、砦まで渡して……何をさせるつもり?」
「言ったろ。国内では暴れられない」
「外で派手に戦ってほしい、ってわけね」
「魔王は討伐されるものだからな」
「魔王夫人としては、抵抗させてもらいますよ」
「何が魔王夫人だよ。セラフィム=タウロノア」
「勘当されて、いや下賜されてか、私はただの豪商の養女よ。そして今は魔王夫人」
「君がタウロノア家をついだ方が安泰だと思うがね」
「私は手も足も出ない小娘だったからね。だからタウロを追い出されたの」
セラは手をひらひらさせおどける。
「それもセトが絡むのか?」
「こっちはまだ知られてないかな。いずれ話すよ。もう夫人だからね」
「順番が違う気もするがね」
「思ったより乙女でね。言い出せない自分にびっくりしてるよ」
「まぁ君がいない方が俺もやりやすいけどね」
「王位継承まだ諦めてないのね」
「魔王も利用させてもらうよ。それも材料だ。……彼が戻ったら正式な書面を出す」
セラは一瞬だけ表情を崩しかけるが、すぐに笑みを浮かべる。
「はい、お待ちしてます」
満面の笑みで、セラは部屋を出ていく。
「火消しね……ふふ、間に合うといいけど」




