通い妻と獣の嫁
用事を済ませて家に戻ると、レン達も帰ってきた。
今回は9階層の軽めの調査で終えたらしい。
「調査もそうだがモナの新しい装備が必要だな」
帰ってくるなりアッシュが言う。
「鎧はダメか?」
「獣の姿ときに邪魔になるな」
なるほど、こないだの帰省で獣に戻る方法を教わったんだったな。
戻った姿まだ見てないな。
「鎧だと獣の時きれないし、置いておくのも邪魔か」
「いっそレンくらい軽装にして、いざという時は纏めてマントの中とか」
「なるほど、調整してみるか」
「ヴェル。獣姿になってくれるか?」
「やだ」
「なんで?」
「だってあれ全裸だよ」
「獣はそういうものだろ」
「獣はそうだけど、今はやだ」
頬を赤らめながら、モナは視線を逸らす。
「乙女心ね」
アッシュが肩をすくめる。
「もう少ししたらね」
そう言ってモナがこちらをみる。
隣のレンがモナにマントを渡す。多分気遣いなんだろうけど。
「なるほど、獣のあと獣人に戻ると全裸か」
モナはさらに赤くなる。それは、すぐには変身できないな。
「わかった、変身せざるを得ない場合の事を考えて、服も考えよう」
「ゾンビの襲撃への救援もあるからね」
その後、みんなで情報共有しながら夕飯にした。
夜になると、ヴェルはアッシュの元に帰るようだ。
しばらくは通い妻だと言っていた。
長年二人で過ごしていたのだ、いきなりアッシュだけ独りも寂しいだろうな。
「いってらっしゃい」
「いってきます。ってなんか良いな。ここが私の家みたいだ」
「ヴェルの家でもあるだろ」
「そうだね」
そういうとヴェルがハグしてくる。
ヴェルの細い腕が、俺を強く締め付ける。
まるでこの感触を焼きつけようとでもするように。
彼女が名残惜しげに離れると、アッシュがほんの少しだけ笑っているのが見えた。
俺は、ふと隣を見る。
レンが、何かを言いたげにこっちを見ていた。
「……どうかした?」
【ヴェル嬉しそう】
柔らかく微笑むその顔は、どこか羨ましげで――けれど、ほんの少し安心しているようにも見えた。
「……ああ、そうだな。嬉しそうだった」
【今日は三人でお風呂】
「そうだな」
風呂場で、モナが試しに獣の姿になった。
俺とレンで、容赦なくモフった。
ふわふわで、あったかくて、止まらなくて――やりすぎて、怒られた。
でも、「またやるかも」と言ったら、
三人とも笑った。
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