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その骨、最強につき

古着屋で、間に合わせだがブラウスとロングスカート、そしてマントを買う。

お嬢の服に比べれば差は歴然だが、少しでも綺麗なものを吟味する。そして本命だ。


さぁいくら使う。迷うのが値段なら買え。いいものは高い。

そして――高いものだが迷ってる理由が値段なら買うんだ。持ってけ全部だ。


お嬢に安くしてもらったが、やはり人工スキンは高い。頭部をちゃんと作れる量か不安だ。

だが今回は別のものも多く揃えた。早く戻ってやろう。


夜のダンジョン、スケルトンに教わった抜け道を使い。教えられていた岩で囲まれた小部屋へ辿り着く。

最強スケルトンがいる小部屋。その先に下の階層があるとも、財宝があるとも言われる小部屋。


松明の灯りが小部屋から漏れている。戦う音が聞こえる。先客がいた。


岩陰から、俺はその様子を見ていた。

スケルトンの相手はビーストティマー。

従える魔獣をけしかける、鋭い牙と黒鉄の爪をもつ魔獣。咆哮と共にスケルトンへと突っ込んだ。


牙がスケルトンの腕をかすめたように見えた。

肉があれば、裂けていただろう。

だが骨には、届かない。それほどわずかな見切り。


スケルトンは軽く踏み込む。

ショートソードの一閃が、魔獣の爪の先をほんのわずかに削った。

浅い。けれど、速い。

そして――何度も。


爪の先端が削れ、次第にその長さが失われていく。

一撃の威力ではなく、精度と数で圧倒していた。


魔獣は、とうとう一歩、下がった。

その間、スケルトンの体に触れたものは――ひとつもない。


攻撃が届かないのではない。届かせないのだ。

骨の剣士は、格の違いを、静かに、確実に見せつけていた。


魔獣は後退した。

荒い息を吐き、足を引きずりながら、距離を取る。

それでもビーストティマーは吠えた。


「下がるな! 何やってんだよ!」


スケルトンは、静かに剣をおろす。戦う気がないようだ。

いや、そもそも戦いに応じた様子すらない。

道具をしまうような手つきでショートソードを壁にかけた。


岩壁には、他にも様々な武器が整然と並べられていた。

両手剣、バトルアックス、槍、ハチェット――

まるで鍛錬場のような光景。


そして――ふと、左手を見つめる。


人工スキンを施した、手袋の中にある厚み。

その指先に、そっと骨の右手が触れる。

まるで、それがそこに“ある”ことを確かめるように。

まるで、大事なものを撫でるように。


スケルトンにとって、あの手はただの装飾ではなかった。

肉付けされたばかりのその手を――手袋の下の厚みをただ撫でていた。



ティマーの罵声がさらに大きくなる。

その瞬間だった。


――ヒュッ。


小さな風切り音。

ハチェットがティマーの鼻先をかすめ、奥の壁に深く突き刺さった。


「……ッ!」


声にならない悲鳴を残し、ティマーは恐怖に駆られて逃げ出した。

余程パニックだったのか、すれ違った俺にも気が付かない。

魔獣も主人に続いて、音もなく姿を消す。


あの距離から正確に狙いを外す。

脅しのためにギリギリを通過させる。

殺す気なら、間違いなく即死していた。

だからこそ――震え上がるのだ。


見ていてわかる。

あれは、ただの骨ではない。


最強スケルトン。


殺しの機械キリングマシンではない。

殺す力を持ちながらも、無益な殺しを選ばない。

だから人々は、恐れと敬意を込め、その名を口にする。


――最強、スケルトンと


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