過去の敵
施設をさらに奥へ歩く。
ダンジョンに比べれば所々窓がある分まだましだが、薄暗い。何度か階段を登り長い道を進む。
「元は何かの実験をする場所だったらしいのですが、古すぎてわかりませんね。建物だけが残って、我々のような宗教家が住み着き。蓮華の思想を持つ方も多くいらっしゃる場所でした」
巨大な鉄扉の前で、オオタは立ち止まる。
「ときに、モナさん。あなた獣人になる前の自分を、今の自分なら倒せると思いますか?」
なんだその質問は、モナの実力を図るにしても、以前の自分?
「以前の自分なら、経験を積んだ今の方が強いに決まってるでしょ」
モナの代わりにヴェルが答える。
「いや、ヴェル。そうでもないんだ」
モナの答えにヴェルが振り向き、気が付く。
「そうか、獣の時と違って、剣士のモナは……」
「まだ経験が少ない。とはいえ人狼とはいい勝負をなさったようで、東の国の勇者カッツェともいい勝負だったと聞いてます」
「……勝てるよ。今の私なら、以前の獣の私を倒せる」
以前のモナ。レンと初めて会った時のモナは怪我をしていたのに、レンを追い詰めた。
スケルトンであること知らずに戦い。さらに躊躇ってもいた。
それがなければ、あの時、どうなっていたか分からない。
その獣姿に勝つと言うことは……
「回りくどいですね、何が言いたいのですか」
イーゼルが、オオタの目をみる。
「ふふふっ私はあなたとセトさんの安全を保証しましたが、モナさんが今からどのような行動に出るかは予測できません。いえいえ。私が危害を加えるわけではありませんよ。ヴェルさん、ダガーが近いですよ。ただ、モナさんが選ぶことができると言うだけです」
言葉が終わらぬうちに、オオタは扉を開けた。
床がない空間、いや扉から離れた場所に床がある。
俺では降りることも登ることもできない高さだな。
「モナさんなら降りれますよ」
オオタが祈祷?呪文を唱え始める。
「聞いたこともない言葉です。東の言葉とも南とも違う」
イーゼルが眉を顰めている。
「クバネより北の古い言葉ですよ。もう少し待ってくださいね。準備は終わったんですが、なんせ古い施設でうまく行くかどうか。いやね少し前も誤作動で勝手に動いたりして、あの時も大変だったんですよ。あっ。そろそろ来ますよ」
「来ます?何が」
底で何かが動く。人?いやレンに似た。
「黒い骨、と貴方は認識していると思いますよ」
「確かに、黒い。だがあれは骨というよりはゴーレム?」
「一応、人ですよ。あなた方の言うところの人外です。蓮華の置き土産というか。まだ使う気だったのですかね」
俺の隣でモナが震えている。
「今のモナさんなら倒せるはずです」
「何言ってるんだ」
震えながら声を出すモナ。
「憶えてませんか?いえ、憶えているようですね」
オオタは黒い骨を見て大袈裟に腕を上げる。
「レンさんに出会う前」
モナの耳が動く。
「貴方はこれと戦ってるはずです」
モナとレンが出会った時、確かにモナはその直前に何かと戦っていた。
そして、そいつは音もなく消え、姿を現さなかった。
それ以降一度も……
眼下の黒い骨の腕が赤くなっている。そして空洞のような目が俺たちを見る。
動き始めた、黒い骨に満足したのかオオタは座り込む。
「少し語弊がありましたね。同じものですが、同じではありません。貴方と戦った黒い骨は、少し前にここから出ていったものです。そして、同じ実験体……っと言っておきましょうか、それが今ここにいます。あの時は、途中で終わりましたが、さぁどうしますか?」
「話が、わかりづらいんだが、それにしたってモナ一人でやる必要もない。レンとヴェルだっている」
「モナさんを襲った黒い骨が、モナさんの父親を殺していたとしても?」
その言葉に、モナの震えが止まる。
「私を襲ったのと、お父さんを殺したのが同じ?ガイナスは父は罠にハマったって」
「ガイナスさんは、現場を見ていませんからね。後に聞いた話にすぎません」
モナが黒い骨を見ている。
「モナ一人で行く必要はない。なんなら戦う必要すらない」
「はい、扉を閉めれば終わります」
オオタが楽しむように言う。
「セト、お父さんの時の事、憶えてる?」
「ああ」
「あの時、私は自分で決着をつけられなかった」
モナはロングソードを握る。
「だから、私は、今知りたい。それに、ガイナスの時も、力が足りなかった」
「私は力づくでも止めたいんだけどね」
ヴェルは不貞腐れてる。
「それは俺もだ」
「私もですが」
イーゼルも同意するが、レンはモナの前に立つと、ヴェルを手招きする。
「何よ。レンも力づくで止める側になるの?」
ヴェルの言葉にレンは首をふる。
三人で円になると何か話してるな。
戦いの前に三人が話してる姿に既視感を覚える。
「しょうがないわね。わかった。でも、危なくなったら手出ししない保証はできないわよ」
【ちゃんと帰ってくる】
心配するヴェルと、勝つと信じているレン。
その二人に肩を押され、モナは、戦いの場に降り立った。




