オオタ僧正
クバネの街とでも言うのだろうか、集落と呼ぶには整い過ぎている。
生活がそこに見える。
だが、行き交う人々が、すべて白装束なことに違和感を感じざるを得ない。
「異様ですよね。でもここではこれが日常です」
イーゼルは着替はえていた。いつもの服ではない。フードを被り荷馬車から降りる。
フィーナが羽織ってる司祭服に似ているが、さらに豪華だ。
目の前を歩く白装束の男をイーゼルが手招きする。
「旅の方ですか?」
素朴な顔の青年。白装束が印象を薄める。妙に希薄に見える。
「僧正はどちらに?オオタに用があります」
その物言いに、青年は面白くなさそうだが、イーゼルの衣服を見てまた驚く。
「僧正様は、今時間は祈祷なさってるはずです。あとは寺院でお聞きください」
「だそうです」
振り返るイーゼルはにこやかだが、青年は逃げるように去っていった。
「今のはなんだ?」
「普通の受け答えですよ。あの人たちは衣服。衣で上下関係が分かれてるのです」
他宗教とは言え、イーゼルの姿は確かに、位が高いふうに見える。
「そうなると、俺たちはイーゼルのお供に見られたわけだ」
「どうでしょうね。魔物か神かと思われてるかもしれませんよ」
遠くから見えていた、大きな建物。
街とは階段で分離されているのか。
長く急な階段を上り、その入り口にたどり着く。
近くで見ると寺院に見える。だが入り口より先は、また別の建物が連なる。
寺院は赤く塗られた建物と、敷き詰められた石の廊下。
その奥の奥。
紫の衣を纏った男と白装束が何かをしている。
男はやけに太っている。そして白装束は女性か?髪を赤い布で縛ってあるのが目立つ。
「あの紫の衣を羽織ってるのがオオタです」
僧正が祈祷を続けている。
呪文のような、だが物語の語り、吟遊詩人にも近い祈祷をただ聞きながら、終わりを待つ。
終わると男は振り返り、ニヤリと笑う。
「おや、イーゼル様。ついに、こちらへご入信ですか。それとも私の嫁に…」
男は言い終わる前に、大袈裟に手をふる。
「いやいや失礼いたしました。セト・リーベア様とその奥方たち。コンノさんは街の外でお留守番ですか、残念です」
砂利を踏み締め近づいてくるオオタ。
だが、足音がしない。
モナが違和感に気がつき、少しだけ俺の前に立つ。
「ああ、失礼しましたね。つい、緊張してしまって」
ザリッと砂利を踏み締める音がなる。
「モナさんでしたね。どうぞ、お気持ちをお静めください。この寺院で争う気は当方ございませんので」
息継ぎをしてるのか?と思うほど矢継ぎ早に話す。
何より、イーゼルはともかく、俺やモナをなぜ知っているのか謎だ。
「申し遅れましたね。私、オオタと申します」
寺院とは別の離れに通される。
小さな小屋だ。
以前、ヨウがいた場所を思い出す。
「ふふふ。私があなた達を知っているのが謎でしょ。でも、簡単です。ただ、私が情報通なだけです」
俺の対面に座ったオオタは深く腰をかけ、白装束が用意したお茶を啜る。
「ああ。どうぞ。お茶菓子もありますので、それで、ヨウさんからの頼み事ですかな?」
僧正というには、オオタは慌ただしい。
「あれ、ヴェルさんまでいるじゃないですか。以前の大立ち回りは、語り草ですよ」
「うっさいわね。話を一つにしなさい」
ヴェルの声が荒い。
知られているんだな。当然か、地形変えるほど暴れたわけだし。
「ふふふ。いやすまないね。つい懐かしくて」
こんな調子で延々話が始まらない。
イーゼルはため息をつき。
モナは寝ている。
レンだけは建物を眺めている。




