理解及ばぬもへの名前
荷馬車は再び北へ向かう。
御者台には俺とモナ。
手綱は緩めているのに、馬は勝手に…いやモナが指示してる。
「しばらくまっすぐだって」
モナは普通に話してるのに、なぜか伝わる。
「ちょっと止まって」
俺が言っても通じないのにな。
「モナは馬の言葉がわかるのか?」
「わからないよ?」
なんでそんなことを聞くのか分かってない顔だな。
「いやモナの言葉は通じるからさ」
「そうだね。なんとなくなら、わかる程度。セトもレンの事わかるでしょ」
なるほど、なんとなくわかる。
全てがわからないところはレンよりセラに近いかもな。
リビングアーマー以降は、特に危険もなく道中は進む。
稀にサンドワーム見つけては、モナとレンが狩り。
オーロックス見つけては、モナとレンが狩り。
その日のご飯として出てきた。
オーロックスは美味かったが。
サンドワームはなんかよくわからない味。
食感は未体験。なんか皮しか食べるところなかった。
一部素材として持ち帰ろうと干し始めたら、イーゼルに嫌な顔された。
荷馬車の裏にでも貼っておこう。
土の湿気を吸うのか、少し快適になった。
北の霊峰クバネの姿が見え始める。
峰というだけあって山が何個も連なる。
巨大な竜の背骨にも見える。
「実際、そんな言い伝えがあるんですよ」
イーゼルが話してくれる。
「人間の世界と魔物の世界を分けるために竜が境界線を引いたってお話」
「いや、魔物そこそこいるけどな」
「そこそこで済んでるのは実際、あの峰のおかげですから。言い伝えもあながち間違ってませんよ」
初めは上機嫌だったイーゼルも、近づくにつれて顔が険しくなる。
正しくは、峰に張り付いたような建物が見え始めてからだな。
建物というには巨大だが、峰がさらに巨大なのでなんと言えばいいのだろう。
「寄生虫ですね」
うん。来る前もそうだったけど、あからさまに嫌ってるよねイーゼル。
今からそこへ行くんだが、大丈夫かね。
「駆除します」
「あれ?そんな話だったけ?」
「半分冗談ですよ」
半分は本気のようだ。
「懐かしわね、コンノ」
寝てると思ってたヴェルが言う。
「あまり思い出したくないんですがね」
コンノはこの道中でヴェルに慣れたか、だいぶ普通に接している。
だが、今はまた緊張しているようだ。
「セト、あの建物の上のほう、木が生えてない山あるでしょ」
確かにそこだけぽっかりと木が生えていない。なんと言うか人工的に整えた?
「あそこは、私とアッシュがヨウと戦った場所」
「お前達、地形が変わるほど何してたの?」
ガイナスの時の、アッシュの炎でもびっくりしたが、これは、その数倍、数十倍の規模だ。
「半分はヨウが暴れた」
「半分はお前だろ」
「ヨウが五でアッシュも五。私は何もしてないわよ」
「ヨウの尻尾を三本切られました」
コンノが力無く言う。
やってんじゃないか。
「しょうがないじゃない。そうでもしないと九尾なんて止まらないの」
改めて、ヴェルの凄さ、アッシュの凄さを知る。そしてヨウもだが、何より。
「コンノ?あの状態になるところ入ってたの?」
「無我夢中でしたので」
コンノは照れてるが、俺に出来るだろうか。
ほぼ最終戦争みたいなの一人で止めたのか。
「コンノって実は勇者だったりする?」
「旦那どうしました?」
「いや、なんでもない。勝手に人に称号つけられる意味が少し分かっただけ」
コンノはまだ首を傾げている。
イーゼルはくすくす笑っている。
「理解出来ないものに名前をつけたがるものです」
良かった。少しは機嫌が治ったようだ。
だが、麓で白装束の集団を見かけると、イーゼルはまた怪訝そうな顔を隠そうとしなかった。
クバネの地へ、俺たちは足を踏み入れた。




