ロングソードの握り方
日が暮れ始めた頃、見通しの良い通りから少し森へ入る。
「今日はここで野営です」
コンノの言葉に疑問がある。
「見通しがいい方が、守りやすくないか?」
「荷馬車が見えたら襲え。盗人には荷馬車は宝箱に見えますから」
多少動きづらくても、視認されないことが、重要らしい。
「大きな商隊の場合は、昼間から目を付けられてるので、大袈裟に守りを固めることで野盗から襲われないようにしますけどね」
なるほどな。大勢なら見張りも立てやすいか。
コンノに任せてる商隊も、そうしているのだろう。人を使う分、輸入品も高くなるわけだ。
「野党も、体が資本だから襲いやすいのを待つんです。待てない野党はすぐ死にます」
「なら、女性ばかりのこの荷馬車は格好の餌食だな」
「そうですね。この辺りの野党は、まだ奥方を知らなそうです」
「あとは魔物もか」
「魔物は大丈夫よ。人より敏感だから」
ヴェルが暇そうに言う。
「なるほど、ゾンビやリビングアーマーはその類に入らないのかな?」
森の奥から、甲冑を引きずるような音がする。
モナが木に上がり遠くを見ている。
そして、獣姿から、獣人へ変身した、白い革のアーマーとマント。
今日はビキニアーマーの方じゃないのか、残念。
「数は二十以上。リビングアーマーだと思う。少なくとも負傷した兵じゃない」
モナの言葉にヴェルは荷馬車の上に立ち、モナにロングソードを投げる。
「イーゼルとコンノは荷馬車から離れないでね。じゃないと私のダガーが当たるから」
「俺は?」
「守られたい?」
なんとも挑発的な嫁だ。
とはいえどうしたものか。
鉄扇で戦い切れるとも思えない。
悩んでいると、レンがロングソードを渡してくる。
「ん?」
俺の疑問が通じないレンではない。
そのレンがロングソードを俺に渡す。
つまり?
【ティナも練習してる。セトも】
あれ?
ルナよりスパルタだぞ。
木の上でモナが心配そうに見てるな。
大丈夫じゃないけど、大丈夫だ心配するな。
レンは握り方から指導してくれるみたいで、手を添えてくる。
「そんな悠長な時間…」
「あるわよ。しっかり学んでね」
ヴェルが、太ももからダガーを抜き、ヒールをコツンと鳴らす。
いつものメイド姿。到底戦う格好に見えないのに頼もしい。
奥の手も出す様子がない。
ただヴェルの目が赤く光る。
「接近!前方と左が多い」
木の上でモナが叫ぶと、モナは前方へ飛んだ。
「じゃ、そっちは任せたから私はそれ以外ね」
ヴェルはモナに背を向けて荷馬車からおりる。
イーゼルは少しだけ顔を出し俺を見る。
「セトさん。初陣ですね」
「いや戦闘経験はあるにはあるが、そうだな。初陣だ」
戦いや強さに興味がないはずなのに、なぜか高揚している自分に驚く。
多くは、モナが倒してくれているが、数体、近づいてくる。
【私の動きを真似して】
レンはレンで随分余裕だ。
ドンケンもそうだったが、できる奴らは言語化が苦手だ。
俺もだけど、自分ができることは、人もできると思ってる。
それゆえに、見て覚えろスタイル。
いや、怖いよ。
結果、わざとみんなが残したリビングアーマーと稽古する羽目になった。
ちなみに、ヴェルは武器ではなく蹴りで倒している。
武器の温存なのだろう、俺が蹴ってもびくともしないんですけどね。
レンは俺に見せるために何度も斬っていた。
関節部分に的確に刃を入れる。真似できる気がしない。
モナも手が空いたのか、俺の近くで実演してくれる。
ルナから教わった基本をモナ流にアレンジしたのだろう。
うん、得意げだけど早すぎて見えなかった。
でも、すごい満足そう。
そうね、俺も好きなことをみんながやってくれたら、そんな顔しそう。
剣を狙い通りに振る。体の動かし方の練習をする日になったな。
なんとか倒し終えると、いつの間にかコンノが飯を用意してた。
こいつも、肝が据わってるよな。




