深夜の温室で
バルコニーで酒を飲んでいる。普段は飲まないが、アレクと飲んだのは楽しかった。
何より、良い夢を見れた。そんなことを考えていた。
油断していたのかもしれない。
知らない庭園にいる。月夜に照らされ、白い髪の女性が、庭園に座り込んでいる。
レンの人工スキンの試作を遅くまでやっていたら、みんな寝てしまった。
休憩がてらグラスを持ちながら、バルコニーで夜風に当たる。
月が雲に隠れ、あたりが暗くなると、肩を掴まれた。
突如、宙に舞う。ナツメに跳躍された時と同じ感覚。
叫ぶ暇もなかった。
赤い髪の少女か?
しくじった。俺など眼中に無い。そう考えていた。
ヴェルも言っていた。戦闘能力は高くないと。
だが。
落とされれば俺は死ぬ。
「暴れないで。落ちちゃう」
少女は静かに言う。
「落ちたら、あなた死んじゃうでしょ」
少なくとも今は殺す気はないらしい。
「じっとしてて、貴方なら、運べる」
そして俺は、この庭園へ連れてこられた。
そして今、別の女性。白く長い髪の女性が目の前にいる。
「やは、ごめんね夜分に」
友人宅に来たかのように気安い。
俺は拉致、しかも空に飛ばされてここにいるわけだ。
まずどこだここは?
「気になるかい?」
「ああ」
「この白い髪はね生まれつきなんだ」
「そこじゃない」
「ふふふ。聞いてた通りだね。セトくん」
女性が楽しげに笑う。
雲が流れ、月明かりが強くなると。
その姿が、先ほどよりはっきり見える。
白く長い髪。透き通るような肌。
白いブラウスの上から黒いコルセットを締め、
黒いズボンは彼女のシルエットを強調する
白く儚げなのに、黒は存在を主張する。
瞳が月を反射する。
金色の瞳。
死と生
黒と白
「誰だ」
「察しはついてるんじゃない?」
夢で聞いたレンの声に似ている……
目の形、鼻、仕草はまるで似ていない。
だがレンが浮かんでは消える。
何も答えていないのに。女性は満足げに笑う。
「セトくん」
風が女性の髪をなびかせる。
「少し冷えるから、中に入ろうか」
庭園の中心にある小部屋を指差す。
ガラス張り。それも大きく整ったガラス。
軍の施設でも、ランスの教会でもお目にかかれない代物だ。
この女性が誰かはわからない。
ここがどこかもわからない。
こんな場所で殺されることもないだろう。
腹を決め俺は、足を踏み入れる。
小部屋には多くの花が咲いていた。
俺の知る花よりどれも大きい。
それが、ステンドグラスのように様々な色で咲いている。
甘く湿った匂いがする。
「ごめんね。セトくん。名乗ってなかったね」
女性は椅子へ腰掛けると、向かいの席を指さす。
俺は素直に腰を下ろす。
「私はダリア」
一際大きいピンクの花を指で突いて笑う。
ダリアの金色の瞳が、俺を覗き込む。
「ダリア・ノア」




