壁を越える
「すみません。逃してしまいました」
フィーナが、申し訳なさそうに言う。
俺はフィーナの強さに驚きもするが、そもそもトロールの壁が凄すぎて実際はそれどころじゃない。
さっきまでは隙間もあったが、それが見えないくらいに塞がれている。
レンが足を切り裂いてるので、動きは鈍いが、腕だけでも迫ってくる。
ようやく沼地を抜けた。モナもレンと挟み撃ちのようにトロールを払う。
二人は大丈夫だろうが、問題は俺とナツメだな。
「十分だ。それより、こっちの終わりが見えない」
「では、ナツメさん。さっきの跳躍またできますか?」
フィーナの言葉に何か気が付いたのか、ナツメが俺を抱える。
背中に、何か当たるが今は考え……柔らかい…俺って奴は。
突如衝撃があり、視界が変わる。
空?森を下に見ている。
森を抜けた先には山が連なってるのが見える。綺麗だな。
あれ?
このまま落ちると、さっきの着地の衝撃、俺に来ない?
「うはあああ」
「大丈夫です」
ナツメは平然と言う
「何が」
「ホバリングします」
理屈はわからないが、空中で、停止する。
少しづつ、森の木を避けるように下へ。
「あっ」
何?あっ
落下速度が急に増す。
「エネルギー切れです」
また分からない言葉を
そのまま落下した。
「痛あああ」
猛烈に尾骶骨を打った。
ナツメが抱えてくれていたのだが、しこたま尻を地面に打ちつけた。
しばらく動けそうにない。
「ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃない。すごいな」
ナツメも力無く座っている。エネルギー切れって言ってたな。
動けないってことなのかな。
俺とナツメは肩を貸し合う形で森に座り込む。
これくらいの衝撃で済んだのは、一度ホバリングとやらをしてくれたからだろう。
そのせいで、ナツメも動けないようだが、ともあれ、トロールの壁は抜けられたのだ。
「お帰りなさい」
フィーナが近寄り、手を差し伸べるが、動けそうにないのでまだ座っている。
「レンさんの方は大丈夫そうですね。モナさんもいるし大事はなさそうです」
「ただ、流石に多いな、切っても動くし」
「ですね」
フィーナはモウラを見る。
モウラは、巨大ゾンビトロールと向かい合っている。
大きすぎて、レンのように足を飛ばしきれないでいるようだ。
「モウラの方が大変そうだな、俺たちは大丈夫だから」
「何を言ってるんですか、二人とも動けないでしょ」
フィーナが俺たちを見る。
「私は人じゃないですよ」
ナツメが力無く言うが、フィーナは笑う。
「人ですよ。セトさんを助けてくれた恩人とも言います」
その言葉に、ナツメの肩が少しだけ動く。
触れていなければ分からなかったくらいの、ほんの少しの動き。
「さすが、セトさんの奥さんですね」
ナツメはフィーナを見上げる。
「お褒めに預かり光栄です」
フィーナも満足げだ。
「それで、モウラの方はいいのか?」
「セトさん、レンとモナは心配してませんよね」
「それはあの二人だから」
「では、モウラも大丈夫です」
フィーナがニコリと俺に笑いかける。
「セトさんは、過保護ですよ。そのくせ私には厳しいです」
自覚あったのか。
「そう言うことで、よろしいですね!」
フィーナがその場でモウラへ問いかける。動く気はないようだ。
モウラは振り向かない。
「おう!」
その言葉と共に、モウラは地面を蹴り。
十字槍が弧を描く。
その一閃は巨大なトロールの肩を切り裂き、腕を落とす。
モウラはトロールと向き直る。
視線を俺に向ける。いつになくまっすぐな目。
「可愛いだけじゃないところ、見せますよ」
こっちは自意識過剰だった。真面目に見えてもモウラだな。
モウラは十字槍を構え直す。
いや過小評価か。
モウラが強く美しいのは、国中が知っている。
魅せる戦い、美の勇者。
モウラ・リーベアだ。




