花街の裏と夢
ヨウの店の厨房では、女達がはしゃいでいた。
「あれが噂のセト魔王なんでしょ?」
「普通の人だったね」
「ねー」
「お連れの方がそれっぽかった」
「わかるー」
「チップくれたし」
「何それずるい」
「もしかして、今夜呼ばれちゃうかも」
はしゃぐ女達に、コンノが釘をさす。
「くれぐれも変な誘惑するなよ」
この店で、そんな注意を受けることなどない。ここは娼婦宿だ。
その違和感が面白く女達は笑う。
「わかりました。でも誘われたら、良いですよね?」
「それは、構わない。でもどうかな」
コンノは意味深に笑う。
女達は、理解もしている。
コンノもそうだが誘惑にかからない男性もいることを。
「でも、絶対!女好きでしょ。だって何人奥さんいるんだっけ」
「最近ヨウさんのところに来てたあの子もそうでしょ」
「あの子すごいよね」
「ねー」
「あとさ、あれ聞いた?」
「なになに」
「たまに職人街で買い食いしてる鬼の子もお嫁さんなんだって」
「えー鬼畜」
「いや鬼を嫁にするから、鬼畜でよくない?」
「そういう意味じゃないよ」
「ほら、料理運んで」
「はーい」
もしかしたら、自分が呼ばれるかもと期待した女達の当ては外れる。
「あのおじさん誘ってくれると思ったのに」
「あんなのが迎えにきたら無理でしょ」
「虎耳の子、可愛かったね」
「あと、魔王のお嫁さん」
「あれでスケルトンなんでしょ。信じられない」
「そもそもスケルトンってお嫁さんになれるの?」
「ねー」
「ねー」
「でも綺麗だったね」
「他のお嫁さんも見てみたいね」
「あれ、教会のフィーナさん。私、あの人好き」
「私は、たまにしか見れないけど、セラさんがいいな。すごい知的な美人なの」
「そうそう、誰推し?」
女達の噂話は、コンノに怒られるまで続いた。
◇◇◆
街の喧騒が遠く聞こえた。
奥座敷には月の光も通らない。
枕元の蝋燭だけが、俺とレンを照らす。
蝋燭のから甘い匂いがする。
酔いがいいくらいに回っている。
【あまり、飲みすぎないで】
「なんだか、いい時間だった気がするよ」
【セトも、こういうところに興味あるの?】
「無いわけじゃ無いけど、昔ほどじゃない」
レンがムッとしたり、微笑んだりしている。
布団に二人で横になる。
レンの手が俺に触れる。
人工スキンが残った部分。
俺が初めてレンに肉付けした手。
少し眠い。
まぶたが重くなる。
…………
どれくらい経っただろう。
「ちょっとだけですよ」
レンの声がする。
声?
横を見ると蝋燭明かりに照らされたレンがいる。
胸元からは、白い肌が見える。
俺が望んだ、レンが望んだ。
「ねぇセト。何かおかしい」
俺に近づくレンは、
温かい。
呼吸をしている。
胸が上下する。
「いつもと違う」
俺以上にレンは感覚が違うのだろう。
百年以上前に失ったはずのものが、レンにある。
肉体がある。声が聞こえる。
人工スキンではない。
さては夢だな。
なら、良い。夢なら楽しむまでだ。
そっと抱きしめると、いつもと違う感覚にレンは驚くが、拒みはしない。
夢が覚めればいつもの二人だ。
それは残酷なことかもしれない。
それでも
重なり合い求め合う。
目が覚めると、レンが俺を覗き込んでいる。
朝日に照らされるレンは、いつもの顔、そしていつもの体。
【良い夢を見ました】
嬉しそうに、恥ずかしそうに笑う。
「ああ、俺もだ」
寂しくはない。
俺たちが望むものを見せてもらっただけだ。
店を出る時、ヨウと目があった。
何をいうでもなく。俺たちは店を出た。
店先では女達が掃除をしながら、俺とレンを見る。
昨日、料理を運んでくれた子達だな。
レンは軽く微笑むと、女達が歓声を上げる。
人気あるなレン。




