花街の武装
「なんだい手ぶらで帰ってきたのかい」
宿に戻ると、さっきより人の気配が多い。ヨウは少し不機嫌そうに俺を見る。
「珍しいものは見せてもらったが、俺には重すぎてな」
「そんなに非力だったのかい、情けないね」
「あれはなんだ?到底武器には見えないが、中身も知らないものだらけだ」
「元道具屋の見立てとしてはなんだい?」
「今でも道具屋に戻れるなら戻るけどな。俺が見るよりナツメに見てもらった方が早いだろう」
「そうだろうね。あの子の腕や脚に似た何かだろうから」
ヨウは知っていたのだろう。それこそ、以前立ち寄った時に拾ったのか?
「まさか、盗んで来たのか?」
「少しは口を慎みなよ。自分が知らないものなんて盗む間抜けがいるか」
ヨウが呆れていると、庭を歩く女性がいる。黒、いや紫か、ドレスとロングブーツでしっかりと歩く。
近づいてきたのはナツメだった。普段の顔よりも目鼻立ちがしっかりしているというか、女性らしさが上がっている?
「なかなかだろ」
ヨウが満足そうに笑う。
「花街にもあれだけの子はそうそういないよ」
酒場、宿、娼館、そういうものが寄り集まった場所を、ヨウ達は花街と呼ぶらしい。
悪くない響きだ。
「あれは花街の衣装なのか?」
「あの子ように仕立て直ししたけど元はそうさ」
俺を見つけるとナツメは満足そうに、くるりと回転し背中を見せる。
前から見た姿とは違い、背中は大胆に開いている、脇腹の機械部分と、金属と光が漏れる背骨。
何よりそれ以外の肌の部分が艶かしい。
手も長いグローブで覆っているので、前からは美しい女性で、背中は人外。
隠そうとはしていないが、角度によって印象がガラリと変わる。
それは俺のツボをこれでもかと刺激する。
「いい仕事だな」
「あんたも大概変態だね。まぁ見惚れるのはわかるよ」
眺めていると、ナツメの脇腹から排熱しているのがわかる。
脇腹のあたりだけ空気が歪む。
「セト様は機械がお好きですか。以前は胸に固執しておられましたが」
ナツメの言葉にヨウが呆れる。
「あんた、なんでありかい」
「いや待て、それは以前レンのコルセットをだな」
俺が弁解しようとしていると、見慣れた顔が視界に入る。
だが、いつもと印象がまるで違った。普段は降ろしている髪が束ねられて顔の輪郭が浮き彫りになっている。
レンが中庭に立っている、長袖ブラウスと、ロングスカート。スリットからはタイツを履いた足が見える。
ナツメよりも露出は少ないのに、目を奪われる。
「なんだ今度は言葉も出ないのかい」
ヨウは満足そうだ。
「いや、なんだ髪を結うだけでこんなに違うんだな」
「バカだね。髪も化粧も女の武器だよ。普段が蔑ろにしすぎなんだよ」
普段はルナがレンの身だしなみを見てくれている。花街の女性が化粧してくれたのだろう。
日々、美貌を武器にする女性達だ。その技術は底知れない。
ただレンは少し困った顔をしている。
【セトごめん】
なんだ、何を謝られてるんだ。
レンが手招きをして胸元を指差す。
ブラウスのボタンをレンが一つ外すと、剥き出しの骨が見える。
「あれ、人工スキンとコルセット」
レンがしゅんとしてる。
「あー重ね着で暑そうだから、一旦外したよ」
ヨウがさも当然のように言う。
「重ね着……確かさっきも言ってたな。そういうことか」
「骨のお嬢ちゃんは戦うんだろ。あれでは戦いづらいよ」
なるほどな、まぁ人間に例えると三枚重ねな上に、かなり無理した形だったからな。
「気にするなレン、それで動きやすいか」
【とても、でもまだ少し】
腰を回し、体の動きを確認している。
【髪はいつもの方がいいです】
「あれま、見立てを間違えたかい。まぁ本人の好みだね」
ヨウは不思議そうにするが、俺もそうだな、長い髪のレンの方がいい。
さっきは、新鮮さもあってびっくりしたけどな。
「髪は好きにしな。服は別の物も用意するから。そっちは後で取りにきな」
何着も用意してくれるのか、ありがたい。
「ヨウ、費用を後で請求してくれ」
「土地代を3ヶ月分だね」
意外と高値だが、他の仕立て屋にできない仕事だ。その金額も納得である。
そして、モナの分もあるのだから……あれ、モナの服はあまり変わり映えしてない。
申し訳なそうにレンの後から出てきたが、さっきとの変更点はミニスカートが追加されたか。
短いのですぐパンツは見えそうだな。
なんというかさっきより、扇情的。いや戦場向き?
「モナの動きを考えると、あまり付け足せないんだよ。あくまで戦い用だから、普段着も後で作っておくよ」
モナが少しだけ、レンを見てから、自分の服を見ている。
「ヨウ、追加かかっていいから、モナの分のドレスも頼む」
「わかってる。それも後日な」
ヨウはふと考えてから俺を見る。
「さて、店もそろそろ動き始めるから、遊ばないやつはとっとと変えんな」
忙しなく店から追い出されると俺たちは花街を後にする。
今回一番変化があったのはナツメか、服に無頓着に見えたが、心なしか嬉しそうだ。
「モラルを考慮した上で排熱効果が上がりました」
そういうことでもないんだけどな。
職人街でナツメと別れてから、俺は思い出す。
「ナツメにあのツボ見てもらうの、忘れてた」
後日、服を取りに行く時でいいか。
忘れそう。




