娼館宿の仕立て屋
北区には土壁の倉庫と酒場、賭場が広がり。
その裏手には娼館宿が立ち並ぶ。
昼間は、荷下ろしと、食事で人が賑わう。
モナの服はヨウが仕立てた。マントがモウラから貰った生地だから、帝国からの仕立て屋が作ったと思っていた。
「それだとね、変身に困るんだよ」
そういえば、獣から人になると着る服ないんだっけか。以前はヴェルの魔法で隠したりしてたな。
裏手の宿は、まだ静かだ。 その一角。やけに庭が豪華な宿に俺たちは入る。
「おや、随分珍しい住人もいたんだね」
ヨウは長い棒を片手に俺たちをみる。
以前、コンノに聞いたら、あの棒はキセルというらしい。
土産にとコンノがくれたが、まだ試していない。
「初めましてマキナ07……ナツメです」
ナツメの言葉に、ヨウは目を細めて、煙を吐く。
少し、甘い匂いが漂う。
「あーあそこかい。人っこひとりいないから、素通りしたことがあるよ」
「人がいない?」
「なんだ自分で連れてきておいて知らないのかい」
ヨウが、機械公国の様子を話してくれる。
どうやら、機械公国は、機人のみで、人が存在しないらしい。
「私としては騙す。いや、からかう相手がいなくてつまらない街だったよ」
若い頃のヨウは、何をしてたんだ?
つまらないと言われたのにナツメは微笑んでいる。
「なので、見聞を広めるために私はあそこを出ました」
「そうかい……そうだね、私も似たようなものだ」
狐と機械が打ち解けている。何かが通じ合ったのだろうか。
部屋を見ると、西から東の文化の服。それも夜の女性が着る服が並ぶ。
多種多様な服。それに獣人用か、尻尾がでる服もある。
なるほど、いろんな種族の面倒を見るヨウだからこそか。
俺が見てると、ヨウに睨まれる。
無遠慮すぎたか、少し離れておくことにする。
ヨウはレンとモナを見る。
「モナの変身も落ち着いたようだね。その服もよく似合ってる」
「いや、ヨウ。その服のことなんだけど」
モナが言い辛そうだ。
「もう少しだけ隠せないかな?せめてお尻を隠したい」
「お店の服はもっと過激だけどね。まぁお前も人妻だったね」
ヨウはキセルを置くと立ち上がる。
「モナとナツメだったか、おいで。あと骨の子もおいで重ね着で暑くないのかい」
レンとは初対面のはずだが、ヨウはレンも連れて奥の部屋に行こうとする。
俺は唖然とし立ち尽くす。
「セトは、倉庫街でも見ておいで。コンノが珍しいもの蓄えてるから持ってきな」
「いやここで待とうかと」
「お店の子の準備もあるんだ、邪魔な野郎は出ていく」
強引に宿から出される。
「いや護衛がないとルナに怒られるんだけど」
「コンノが盾になるから大丈夫だよ。コンノの断末魔聞こえたら助けに行ってやる」
その場合、コンノは絶命してるな。
聞く耳持ってないな。そうは言ってもコンノは……
通りの隅で苦笑している。聞いてたな。
「聞いての通りです」
コンノは笑うが、それでいいのか。
「実際、歓楽街の中で旦那を狙うのはいませんよ」
「それが、そうでもないんだ」
「空からですか」
「知ってるか」
「あの時、北へ飛ぶ何かを見た者は多いです」
闘技場の件も伝わってるのだろう。コンノの顔がこわばる。
「警戒はしておいてくれ」
俺の言葉にコンノはうなづく。
後でヨウにも言っておこう。北区で人狼を抑えられるのはヨウくらいだ。
「以前のトロールはどうなった?」
「堀の前を歩く姿は目撃されてますが、ただ、それも昨日から姿が見えなくなったみたいです」
危機は去ったのか、いずれにしても気は抜けないか。
トロールなら、北区の強面でも対処できる。
まぁ堀に落とすんだけど。
コンノが倉庫街の端で足を止める。
他の土壁の倉庫とは違う木造の倉庫。
「骨董品というか、点々としているうちに色々集まってしまいました」
扉を開けると、どことなく懐かしい匂いがする。
東の刀や、カッツェの槍に似たものから、見たことのない武器まで。
ディグの武器庫、いやレンがいた小部屋と似ているのか。
武器以外にも知らないものが多い。
一際目立つのは金属の壺?
細長い花瓶とでもいうのか。
それにしてはバランスが悪い。
鈍器にしても使い辛そうだ。
「やはり、それに目が行きますよね」
コンノが笑うが、コンノもなんだかわかってないらしい。
ただわかるのは、ヨウの言う珍しいものが、コレということだ。




