街と人の変化
フェルとオリベが南方へ遠征した。
以前の作り直した壺を届けるのと、フェルがビードロの技術を学ぶためだ。
ガラスを磨く技術はこちらにもあるのだが、大きさも形の自由さも違うのだ。
同行するのは護衛にビキニアーマー隊が数名とドンケンの工房見習いの子。
新しく帝国から来た仕立て屋数名を、革職人のポルコに丸投げしたら悲鳴をあげてた。
帝国からのコルセット受注量が想像を絶したようだ。
人手が増えてマシになるかと思ったが、そうもいかないらしい。
「物づくりと、人に指示するのは違います」
最もである。
閉店後の店内で、ポルコはジャイアントボアの素材を試している。
そこそこ貴重で、今回のは特に状態が良いらしい。
フィーナが殴って気絶させてたし、オリベが解体に慣れてたみたいだからな。
「冒険者はスラッシュしますが、こっちはカットしてあるんですよ」
切ると斬るの違いか?
わかるようでわからん。
てか、仕事で忙しいのに、何してんの?
「息抜きですよ」
なんとなくわかるが、無理しないようにな。
◇◇◆
「商隊を作るよ」
セラが何を言ってるのか分からない。
「今回の帝国からの荷馬車みたいな奴か?」
「もっと大規模のだね」
いまいち話がわからない。
「その都度、行く人を募るのではなく、専門の隊列を作るのだよ」
「なるほど、仕事も増えるから良いかもだけど、ほぼ旅する人だぞ」
住処を転々とする生活は大変そうだ。
「君とイーゼルは、お人よしだから、誰彼構わず入れるけどね」
セラがため息をつく。
「街に強面が集まりすぎです」
ルナが補足してくれる。
ごもっとも。
元々いたアウトローと北区のコンノ一家とも言える強面集団。
冒険者達と筋肉信者か、筋肉信者はしょうがない。
可愛い顔もいるよ。ゴリマッチョだけど。
とは言え。
「コンノ一家なら旅は得意そうだな」
「元々流れもので生きてきたらしいからね」
セラの意見も最もだ。
「あくまで希望すればってことで打診してみるよ」
「希望じゃなくて、依頼でお願いします」
ルナに少し強めに言われた。
◇◆◆
コンノとの話はすんなり決まった。
「決まった家に住むのが苦手な奴や、人付き合いが苦手な奴もいるんで」
渡りに船だったようで、すぐにでも集まるようだ。
ルナが細かい取り決めをコンノに説明してくれている。
「色々気を回していただいて、ありがとうございます」
逆に感謝された。依頼というのもよかったらしい。
街の警護組と商隊が入れ替わりで生活するようなので、旅と生活のバランスも取れると喜んでいた。
歓楽街も一部営業を始めているのか、賑やかさをます。
堀も出来上がり、一応防御策はできてきたかな。
「それはそうと、まだ被害はないんですが」
コンノが申し訳なさそうに切り出す。
北の森にトロールが出現しているようだ。
堀もあるから問題視はしていないそうだが、コンノの一家では手にあまる存在のようだ。
「情けない話ですがね」
モナの兄弟がいないことで、トロールが縄張りを広げてきたのかな。
「いや、対策を考えるよ」
それも早急に考えないといけないな。
「そういや今日もモナはきてるのか?」
「いましたが、もう帰ったはずですね」
行き違ったか、まぁいい。
ルナとその場を後にする。
「トロールって強いのか?俺は戦うどころじゃないんだけど」
「止めるならビキニアーマー十人いれば止まりますが、トドメはさせないかもしれません」
またその単位か。わかりやすいようでわからない。
「トドメがさせない?」
「再生能力が……個体によって違うんですが、ロングソードや槍では倒しきれない場合があるんです」
あの巨体で再生か、確かにコンノ達では手にあまりそうだ。
「レンとかヴェルの出番か、アッシュだと森焼きそうだし」
俺の言葉にルナは少し考える。
「アッシュさんの炎は未知数ですね。レンは今回のハルバートなら真っ二つにしそう」
流石に二つにされたら再生できないようだ。
「ヴェルの本気は見たことないのでわかりませんが、あとはモナですね」
「モナの獣姿か、モナ兄弟が追い払ってたからそれもありか」
「いえ人間姿のモナでもいけますよ」
まただ、モナの評価が高い。戦うもの達は俺とは別の目で見てるのだろうな。
モフモフ嫁とばかり思ってるのは俺だけか、いや強いのは知ってるよ。
そんな話をしてたら西の通りを抜けて職人街に出た。
ルナは買い物を済ませて戻るらしい。
ここなら、護衛もいらないだろっと俺は一人歩きだす。
◆◆◆
ドンケンの鍛冶屋は子供達が薪を割ったりしている。
フェルがいないとなんか寂しいが、一番寂しいのはドンケンだろう。
後でのぞいてやろう。
倉庫街もまもなく出来上がるか、商隊も稼働したら忙しくなるのだろうな。
既存の服屋も忙しく動いている。人が増えたのもあるし、モウラの生地を見て触発された職人も多い。
鍛冶屋たちの地区と違い、こちらは女性が多く働いている。
面白いのは、ビキニアーマー隊の多くが革職人や仕立て屋の元で働いてることだ。
最近はヨウのところからも多く働き手が来ている。
こちらは少し若い娘が多い。
普段ビキニだったり、東洋の衣装だったりする女性達が、ここでは動きやすい町娘的な服装ですごしている。
正直俺には誰が誰だかわからなくなってたりする。
そんな女性達が、賑やかに話しながら道を歩いている。
まだ限られた区画ではあるが、平和だなっと実感する。
ガイナスの件もあるから、油断はできないけどな。
考え事をしながら歩いていると、銀髪の少女とすれ違う。
違和感。
「モナ」
自然に声が出ていた。
俺は振り向き少女の背中を見る
モナの灰色髪とも違う。それに耳も尻尾もない。
それでも
「モナ」
今度ははっきりと意識して口にだす。
ゆっくりと振り向いた少女の顔は確かにモナだった。
困ったような顔、それでいて笑いを堪えたような顔。
銀髪のモナがそこにいた。夕日に輝く銀髪はレンと同じ色。
白い聖獣モーナフェルムのそれだった。
「なんで、わかるんだよ」
そうモナが口にした。
なんでだろうな、モナだからかな。
とはまだ口にしない。いやできない。
なぜならモナの姿に見惚れていたからだ。
夕暮れ、モナの変化に見惚れていたが、その変化は長くなかった。
いつもの、灰色髪、狼のような耳と尻尾のモナがそこに居た。
「変身切れちゃた」
少し残念そうに笑うモナ。
「今のは?」
俺の問いに、モナは少し考えて。
「内緒。できればみんなにもまだ内緒にしておいて」
そう笑う。
最近の自信のなさそうな笑い方とは違う。
何か変化があったのだろう。
「わかった。でもずっとじゃないんだろ」
「うん。もう少しだけ」
「そうか」
二人で歩き出す。
「それはそうと、ここで何やってたんだ」
「内緒」
今度はイタズラっぽく笑う。
「内緒だらけだな」
「そうだよ。女の子は内緒だらけだよ」
「それはセラだけにしてほしいな」
「あっちは秘密…というか謎だらけかな」
その言葉に妙に納得してしまう。
そして、それに追求しないウチの家族もなかなかだ。
「セラだからね」
「セラだからな」
さっきまで違うモナを見ていたのに、
久しぶりにいつものモナといる気がする。
外見の話ではない。
自然と俺たちは手を繋いで家路につく。




