狐と狼
傾国だとか九尾の狐だとか呼ばれるが、私はそんな大層なものじゃない。
ただ生きすぎただけの年増だ。
戯れに、人と結婚したことがある。完全に人に化けて、人の様に生きてみた。
案外、楽しく過ごせて油断してたのだろうね。
化けの皮が剥がれた。
村の者たちが恐れる。
九尾が出たと。
潮時だと、私は姿を消す。
旦那は漢気ある奴だ、あの村以外でも生きていける。すまないね。
楽しかったよ。
ごめんなさい。
しばらく、身を隠すつもりだった。
山里でひっそり生きていこうと籠っていたが、人の気配がする。
山を鎮めるための人身御供。
何かの儀式なのだろう。馬鹿馬鹿しい。山はそんなことで怒りも何もしない。
ただ自然にそこにあるだけだ。
最初は気にしなかった。
だが耳障りな悲鳴。
生贄をつまみ食いする。
そんな下卑た人間どもをちょっと撫でてやった。
生贄の娘たちには生き場所がなかった。
口減しで捨てられ、乱暴をされ、神の供物。
退屈しのぎに滅ぼしてやろうか。
そんな矢先。
赤い目の女が二人、私の行手を遮った。
どう見ても小娘二人。
後に聞く
ブラッドレイン。
久々の全力は楽しかった。
接近戦で傷をつけても下がらない髪が短い小さい方と、私の行手を炎で遮る髪の長い大きい方。
人との生活で忘れていたが、やはり戦い己を確認する作業は楽しい。
なかなか、倒れない。手応えはあるのに、動きを止めない。
ふふふ
そんな可愛い姿をして、私と同じか、化け物め。
私の尻尾が切り飛ばされる。
こんな小娘に、やられるとは情けない。
緩んだ生活が不味かったかね。
二本目が切り飛ばされると。
叫び声が聞こえる。
私のじゃない、野太い男の声。
懐かしい
完全に化け物姿の私に覆い被さるように
男が、ブラッドレインに命乞いをしている。
情けない。どけ。
だが、男はどかない。
別れた頃より、無骨な顔をしている。
おまえさん、そんな顔だったか?
なんで涙流してるんだ?
気がつくとブラッドレインも戦う気を無くしている。
まぁ、変な男が戦いの真ん中で大泣きしてるんだ。気も滅入る。
「探したぞ」
バカが、化け物さがしてどうする。
「離婚なんか認めないからな」
その言葉に私もブラッドレインも目を丸くする。
髪の短い方が笑い転げてる。失礼な奴だ。
戦う気も失せた。生贄やらのことも忘れていた。
「こっちでやっておきますよ」
長身の方が言う。
こいつが本気を出せば、私の尻尾など全て焼かれていただろう。
全くもって遊ばれていた。
首根っこにしがみつく男。
私の旦那、コンノ。
どうやら別れてくれないらしい。
なら、少しわがままを言おう。
生贄の娘達の面倒を見ろ、出来るならまた夫婦に戻ろう。
「まかせろ」
全くこいつは、悩みもしない。
バカらしくてやってられない。
何よりその後、そいつの子供を何人も産んだ私が一番馬鹿だ。
でも悪くない時間だ。
もう少しこのまま生きていこう。
コンノが面白い場所を知ったようだ。
人外と人が作った街。
嫁が骨と獣たちで、旦那が人間。
おまえ以外にも馬鹿がいたのだな。
いいよ、どこでも行くよ。
来た先では昔馴染みもいてびっくりしたものだ。
あの小娘達も結婚していてさらにびっくりだ。
昔を懐かしんでいると、虎と狼と人の混じった匂いが近づく。
「おや、また会ったね。お嬢ちゃん」
流れ着いた先で、昔の自分に似た子に出会う。
ついついお節介しそうになるが、年増の暇つぶしさ。
諦めな。
虎の匂いがする狼娘。
嘘は得意には見えないよ。
素直になれない狐がいうことでもなかったね。
「変身のこと、教えてくれ」
あら、こっちの方が素直だったか、私もこんなに可愛ければ、尻尾を少しは残せたかもね。
「どう生きていくか決まったなら、教えてあげるよ」
ちょっとだけ意地悪を言う。
大丈夫、お嬢ちゃんの旦那は、どの姿のお嬢ちゃんも愛してくれるよ。




