戦う聖職者と街の外
魔王城は森と高台に囲まれている。
元はノアの練兵用の施設だったらしい。
遠目には、天然の要塞。近づけば、巨大な堀と威圧感のある城壁。
難攻不落。
見た目だけなら。
わざわざ見た目と言うのには理由がある。
実際は、わりと誰でも入れる。
俺達が、アレクからノアを厄介払いされてから。
砦を改造した挙句。
結婚式場兼務にしたからだ。
防火水槽と言い張るプールもある。
魔王城なのに?
さらに、教会の聖堂まである。
魔王城と教会が同じ建物。
そして、魔王と教会のトップが結婚している。
我ながら、頭がおかしいと思う。
だが、日常なんだ。慣れるよ。
なんせ、その教会のトップが、今まさにジャイアントボアと格闘しているから。
ジャイアントボア。野生の豚。豚なの?
豚というには毛むくじゃらすぎるし、何よりデカい。
荷馬車に突っ込んできてるのかと思ったくらいだ。
立派な魔王城とは違い。
今の城下町を囲っているのは、壁というより木柵だ。
それも急ごしらえ。
ゴブリンや大鼠相手なら多少は意味がある。
だが、ジャイアントボアみたいなのが来たら、たぶん普通に壊れる。
その脅威が迫っている。
現在。
司祭服のまま、取っ組み合いしている。
「良いですね。良い足腰です。私の筋肉が喜びます」
自分の五倍はありそうなジャイアントボアの牙を掴みフィーナは微動だにしない。
司祭服の乱れもないあたり化け物である。
どっちが?フィーナがである。
「セトさん?どうします」
余裕すぎる筋肉聖職者だった。
「モナが美味しいっていうから、倒して持ち帰るか」
問題なくフィーナが倒せると思ってるあたり、俺も大概か。
俺の言葉に、フィーナが頷く。
フィーナの足元が、ずずっと土へ沈む。危機感を感じたかジャイアントボアが唸る。
「良いですね。まだ本気を隠してましたか」
フィーナが笑い。そのまま、牙を掴んだまま倒れ込んだ。
力負けした。
そう見えた次の瞬間。
ジャイアントボアの巨体が浮いた。
地面へ倒されたのではない。フィーナがボアの下へ潜り込み、蹴り上げたのだ。
少し離れた場所へ投げ飛ばされたジャイアントボアは起き上がる。
さっきよりも鼻息が荒い。
標的をフィーナに定めていた。
「良いでしょう。受けて立ちますよ」
司祭服のフィーナ。明らかに戦う絵面ではないのだが、腰を落とし。
司祭服の前を開くと、金の差し色が入った黒いショートパンツ
胸元を覆う服と分かれた、スターダストで戦う時の衣装だ。
露わになった脚と腹部には、鍛え抜かれた筋肉が浮かぶ。
司祭服と、フィーナの長い髪が風に揺れる。
ジャイアントボアが何度か、地面を蹴る。
土が、爆ぜる。
加速が始まる。
ジャイアントボアの様子とは裏腹に、フィーナの所作は静かで綺麗だった。
両拳を腰へ添え、足を肩幅に開き、真正面からジャイアントボアを迎える。
激突する瞬間。
フィーナが左足を踏み込む。
同時に肩と腰が回転し、右拳が
俺の目で追えるのはそこまでだった。
次の瞬間にはジャイアントボアが横倒しに倒れていた。
「あたたぁ。一番硬いところ殴ってしまいました」
手をひらひらさせながら、フィーナが笑う。
うちの聖職者様は、たくまし過ぎる。
さて。
どうやって運んだものか。
騒ぎの様子を見にきたアヤネと強面集団も武器なしで制圧したフィーナにため息をついていた。
「さすがは魔王の妻、凄まじいですね」
「いや、妻だからとかの問題じゃないから」
「信心の賜物です」
それも違う気がする。
ともあれ、外を見回ってくれる強面や、いつの間にか柵の中で見ていた野次馬などにも手伝ってもらい、
ジャイアントボアは無事運び込まれた。子供達が怖いなどと叫びながらも喜んでいる。
「気絶してるだけなんで気をつけてください」
フィーナは満足げに衣服を直し、
何事もなかったように歩き始める。
うちの嫁は強くて可愛い。




