『月明かりと、恋の錯覚』
さて、義手や義足につける人工スキンってのがある。
ただでさえ高いのに、誰も使いたがらないから余計に高い。
貴族は冒険や戦いに出ないので義手があまり必要ない、冒険者や騎士は鉄むき出しのほうがカッコいいとか言う。
なので需要はほぼない。
ほぼ……そう、存在はする。
手の平にちょっとあるだけ、で財布が吹っ飛ぶっていう地獄価格。
でもな。
それでも俺は、試さずにはいられなかった。
俺は、またあの場所へ戻った。
裏道はスケルトンに教わったから、敵に会わずに行ける。
ただまだ、あそこに彼女がいればの話だ。
スケルトンを美少女にしよう計画。
その方法はこうだ。
粘土で土台を作り、人工スキンを薄く貼る。人工スキンは使用者の思い描く形に補正される。
それを可能にするのが、魔導具。
定着のワンド。
値段はアホほど高い。特殊なうえに、魔力充填式。
教会と王族くらいしか持ってないらしい。
軽く一軒家が建つ価格だ。
魔術回路?それがなくても使える魔導具はどれも高い。
魔剣とか聖剣とかが多い。
あとは魔法使い杖もそうだが、あれは持ち手の魔力を強くするとかなんとか。
魔法が使えない俺にはわからん。このワンドは一度は使えるらしい。充填式。
美術商が、誰でもわかるダリア式みたいな本置いて言ったが、悪いが鍋敷になってる。
話が逸れたな。
ともあれ……俺は悩んだ末に、せっかく手に入れた小屋を売った。
美女と家、どっちが大事かなんて、聞かなくてもわかるだろ?
そう。美女だ。
……違った、出会いだよ。出会いを大事にしろって話だ。
ちなみに小屋だけでは足らず借金。最悪、美術商のところでしばらく無賃労働となる。
大丈夫、ちゃんと返していけば、小屋も追い出されないし、美女も家にくる。
良い事だらけ……だよ。
無事、彼女と合流できた。……が、なんかこう、思ってたのと違う。
なんでまた来たの?みたいな空気を感じる。
あれ、俺だけ舞い上がってた?
借金してスケルトン迎えにくる男で相当アレなのに……もしかして、振られるの?
しまった、スケルトンから了承なんて一言も貰ってない。
一応、説明はしてみた。でも、うまく伝わってない気がする。要領を得ない。いやわかった上でか。
考えてみてほしい、借金してスケルトンを口説く失敗したら住所不定の男を……
どう考えてもヤバいやつだ。
スケルトン、いや、彼女は、少し呆れたようにも見えた。
けれど、俺のやろうとしてることを拒む素振りはない。
ならば、やらせていただきます。
いかん、知り合いの変態みたいな口調になってしまった。
気をつけよう。
スケルトンへの肉付けを最初にあった竪穴でする。
月明かりがいい感じに差し込み、スケルトンの手が見える。
そう、まずは手から始める。
いきなり太ももだけのスケルトンとか、顔だけのスケルトンとか、普通にホラーだろ。
俺は変態じゃない。理性ある変態だ。
落ち着け。
手袋で隠せる手なら失敗してもなんとかなる。
スケルトンは、首をかしげながらも、俺の作業に付き合ってくれた。
想像の中で見るスケルトンの顔が、少しずつ可愛く見えてきた。
錯覚か、あるいは願望か。
妄想だな。
だが、道具屋美術品を直す時も必ず完成形を思い浮かべる。
職業病だ。しょうがない。
それに定着のワンドは使用者の考えを反映すると言うから。
必要なことだ。
スケルトンが伸ばした両手に粘土を盛る。
指先から手首まで、丁寧に肉付けする
粘土で形を作れたら、人工スキンを塗る。ここまでは考えた通り。
定着のワンドをかざすと、人工スキンが薄く光り形が変わっていく。
血管のような筋が無数に見え、やがて消えた。
完成したその手のひらを月明かりが照らす。
スケルトンは、手をくるくると回し、もう片方の手で触る。
それを繰り返す。
彼女の仕草は、たしかに喜んでいるように見えた。
洞窟の入り口では太陽の光で指先が落ちたが、どうやら月明かりは問題ないらしい。
月光を浴びたその輪郭は、ほんの一瞬、彼女の腕から肩、そして顔までを浮かび上がらせた。
ロングヘア。
柔らかそうな頬。
あまりにも美しくて、泡のように、はじけて、消えた。
幻だった。
目の前には、いつものスケルトン。
肉付けされたのは、手のひらだけ。
それでも、スケルトンは嬉しそうにその指を開いたり閉じたりしている。
今のは、俺にだけ見えたのか?
願望が見せた錯覚。
……でも、もう迷わない。
俺はスケルトンの、肉付けを完成させる。
月が綺麗だった。
俺は、恋に落ちた。
顔も、声も、名前も知らない。
最強スケルトンに恋をした。
読み切り段階では完結日間4位をいただき、ありがとうございました。
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