慕い集う
孤児院の子供たちは、新しい環境にすぐ馴染んだ。
職人街や市場、教会などで単純作業をこなし、
少ないながらも稼ぐ。
その生活を、いたく気に入った様子だった。
イーゼルの従者たちも、時間をおいて到着した。
……いや、もう従者という言い方は正しくないのかもしれない。
護衛や庭師、お付きのメイドに至るまで、
彼らは雇い主ではなくなったイーゼルを慕い、
生活を変えてまで、リーベアへやって来たのだ。
「赤ん坊の頃から見てるからね。
イーゼル嬢の子供を見るまでは、死ねないさ」
老齢の庭師、ジョゼは顔を綻ばせている。
「老い先短いんだから、無理しないで」
そう言って、イーゼルは強がるが、
目尻には、うっすらと涙が浮かんでいた。
それなりに――
故郷を離れ、寂しかったのだろう。
自分を知る存在。
それも、赤ん坊の頃から知る人だ。
胸にくるものが、あったのだと思う。
大柄な青年――護衛のボルガは、
顔を見せるなり、俺に門番の仕事を志願した。
「イーゼルのそばじゃなくて、いいのか?」
「内は、安全。
危険は、外」
……リーベアの街は安全だが、
危険は外から来る、という意味だろう。
「わかった。任せるよ」
ボルガは、イーゼルの頭を撫でる。
イーゼルも、それを自然に受け入れていた。
特別な会話はない。
イーゼルは手を振り、
ボルガは無言で手を上げ、その場を去っていく。
……なんだ、かっこいい。
無口な好青年だ。
イーゼルにとっては、
兄のような存在なのだろう。
通りすがりのアヤネを見た瞬間に赤面していたあたり、
無口だが健全な男の子なのだと思う。
他にも数名が移住を希望したため、
孤児院や聖撃での仕事の割り振りも、ひとまず落ち着いた。
「私の人徳の成せる技よ」
イーゼルは自信満々だが、
おそらく照れ隠しでもあるのだろう。
ここ数日で、なんとなくだが、
イーゼルという人間が分かってきた。
ランスがフィーナの補佐に据えるだけあって、能力は高い。
見た目が幼いせいで、つい子供っぽく見てしまうが、
実際はルナに近い。
思ったことを隠さないルナ、といったところか。
モウラにも通じるものがある。
教会での仕事は、フィーナの補佐というより、
フィーナがやらずに、ルナとリザが手伝っていた
経理全般を引き受けている感じだ。
……よく、これまで回っていたな。
他の信者も、鍛えてばかりいないで、
少しはこういう仕事をやれと言いたい。
いや、肉体労働の方では助けてもらっているけども。
「私が来たからには、大丈夫ですよ」
そう言いながら、
イーゼルは移住してきたモリス――
元は屋敷で執事をしていた老人に、仕事を回していた。
「できる者にやってもらう。
上に立つ者の務めです」
もう雇い主ではないのに、
それでもモリスは嫌な顔ひとつしない。
……本当に、人徳なのかもしれない。
なお、モリスさんはとても有能で、そして厳しい。
聖撃聖堂では、フィーナを筆頭に、
揃って、こってりと怒られていた。
イーゼルは、その様子を――
裏で、楽しそうに笑っていた。
「いや、ずいぶん怒られましたが、
モリスさんが手伝ってくれるのは助かります」
フィーナは、けろりとした顔で言う。
「お前、懲りてないだろ」
フィーナは、そっぽを向いた。
「一人で回していたんですから、
雑ではありましたけど、すごいですよ」
イーゼルが、フィーナの手を取る。
少し棘はあるが、ちゃんと褒めている。
「私が来たからには、大丈夫です」
……モリスの手柄まで、
自分のものにしているようにも聞こえる。
だが、モリスはどこか誇らしげだ。
なんだろうな、この違和感。
人徳――だけではない。
英雄?
宗教家
指導者でもないな
……じゃあ、なんだ?
カリスマ?




