ノア 別れ
アレクの別邸で、イーゼルと孤児院の子の脱出方法を再度練ることになったのだが、
イーゼルの一言で、昨日マグナスと話してた内容は白紙に戻る。
「正面から出て行きますよ」
イーゼルが当然でしょという顔でいいのける。
騒がしいだけの子かと思えば、堂々としている。
「魔王セトが教皇の子と孤児院の子を攫ったと噂になるな」
アレクが言う。
「問題はないのかそれ?」
「いや大問題だよ。敵国に教皇の娘が拉致されるわけだ」
「軍としては市民の安全を守る関係、出動せざるをえない」
アレクはわざとらしく咳をする。
「だが、当の本人達。特にイーゼル嬢が、頑なに拉致ではないと宣言する」
「つまり問題ありません」
イーゼルが自信満々である。
「フィーナはどう思う」
「教皇様側の人間は納得済みです。クライブ様にとっても、イーゼル様がいなくなれば利はありますが」
「教会のメンツが問題だ」
アレクがフィーナの言葉を遮る
「親が納得してる以上。それは、知ったことではないけども」
俺が、モナとアヤネに目を向けると、二人もともやる気満々だな。
いや、戦わないよ。
◇◇◆
イーゼルのノアでの人気は高く、
城門まで歩くだけで、ちょっとしたパレードだった。
魔王城へ子供たちを送り届ける――
その役目をイーゼルが任された。
そんな噂で、話は収まったようだ。
住民的には、魔王セトも意外とウケが良いらしく、
俺も普通に歓迎された。
現状に不満を持つ人も、多くいるのかもしれない。
あとは、すけべな野心を持つ者からの憧れだ、と
アレクが言っていた。
「魔王セト! 超ヒモ魔王!」
……うん?
何だそれ。超ヒモって。
城門の前。
教会の一団が見える。
マグナスと筋肉信者たち、そして――いかにも偉そうな集団。
イーゼルが駆け出し、その中の一人に抱きついた。
周囲には、綺麗な大人の女性が数名いる。
その中の一人が、イーゼルに声をかけていた。
「セトさん、あれが教皇ランス様です」
思ったよりも、ずっと若々しい教皇だった。
イーゼルが五女、クライブが八男と言っていたから、
もっと年配だとばかり思っていたのだが。
……教皇もハーレム持ちなら、納得か。
マグナスとランスが、こちらに歩み寄ってくる。
「魔王セト。うちの娘を、よろしくな」
小声でそう呟く。
だが、その目は、しっかりとした意志を俺にぶつけてきた。
教会内で立場が危うい――そんな気配は感じられない。
「本当は、晩餐でも用意したいところだが……色々とな」
言葉少なにそう告げると、ランスは再び集団へと戻っていく。
別れは、すでに済ませた後なのだろう。
あっさりと、だが堂々と、話は終わった。
イーゼルが手を振り、別れを告げる。
それを合図に、城門が開いた。
子供たちを連れ、先頭をフィーナが進む。
全員が通り終わると、イーゼルが街に向かって一礼した。
俺とモナも、その後を追うように城門をくぐる。
歩を進める中で、
先に出ていたアヤネが、立ち止まっているのが見えた。
その目は、俺ではない。
教皇たちの、あの偉そうな集団を見ている。
「何かあったか?」
「セト。あの中に、黒い骨がいる」
俺は振り向き、確かめようとしたが、
すでに扉は閉ざされていた。




