崩壊と隔離と宣言
聖撃教会の聖堂、その奥。
過去に一度踏み入れたことのある部屋。
俺とモナ、そしてフィーナ。目の前にはマグナスが立っている。
「それで、収穫はあったのか?」
マグナスが、呆れたような顔で俺を見る。
まぁ、敵地に乗り込んでおいて、収穫が無いなどとは言えないのだが。
「正直、あまりないな」
「だろうな。あれは切り捨てられたんだろう」
同じ教会側の人間とは思えないほど、マグナスの声は冷たい。
「聖騎士は、そんなに軽いのか? 教会の認めた勇者なんだろ」
「それが邪魔になったんだろ」
その言葉に、フィーナが反応する。
「まとまりが、なくなってきたと……教皇様も」
「軍と教会のバランスを、クライブが崩し始めている」
教皇の八男。優男にしか見えなかったが。
「奴は、孤児院すら利用しようとしている」
「利用?」
「独自の……いや、蓮華会がついているのは明白だな。実験を、繰り返すつもりだ。すでに一つ、孤児院を取られた」
マグナスは、拳を固く握る。
「クライブは独自の戦力を作るつもりだ」
なぜ孤児院を狙うのか。
ガイナスの改造。
戦力。
蓮華会。
それは、分かりやすくつながる。
「それで、リーベアに孤児院を作る話になるのか」
「ああ。できれば、残る二つの院から、救い出してほしい」
空気が、重い。
現実的な話ではないことは、マグナスも分かった上で、俺に頼んでいるのだ。
なら答えは、決まっている。
「まかせろ」
マグナスは目を見開き、俺を見る。
「お前なら、そう言うのだろうな」
マグナスは余計無いことを言わない。
ただ深く俺に頭を下げる。
「頭を下げるな。ここで世話になったお礼だ」
かつてリザを救った部屋。
その借りを返す。
ただ、それだけだ。
「場所は用意するが、人数も多いだろ、どうやってリーベアに向かわせる」
マグナスと俺は計画を詰める。
話が、まとまりそうな時、フィーナが神妙な顔をしている。
「マグナス様、あとセトさんも、お会いしてほしい人がいますが、よろしいですか」
「ああ、聞いている。イーゼルのことだろ」
マグナスが、少し疲れた顔をしている。まだ心配事があるのか。
「イーゼル?」
俺の疑問に答える前に、フィーナが席を外す。
モナは疲れたのか寝ている。ガイナスに会うまで気を張ってたからな。
寝かせておこう。
「先に言っておく。大教会はもう、崩壊寸前だ。いや、大教会は残るが中身が変わる」
「教皇ランスはまだ、元気なんだろ」
「様をつけろよ。いや、お前に言っても仕方ないな」
「大教会は武器に目が眩んだ連中が多くなってしまった。守る力じゃなく攻める力を欲してる」
「聖撃も武闘派だろ」
「だが、必要以上に武器を持たない。守る拳も痛みはある」
少なくとも俺が見てきた聖撃は、必要以上の戦いをして
いや確かに、外に向けて暴れていたわけじゃない。
聖撃信者同士で戦ってたか。
暇があれば、聖堂で拳撃ち合ってるぞ。
必要以上に鍛えてる気はするけどな。まぁ、茶化すのは後にしよう。
「お前の疑問ももっともだ。例外的に聖騎士や、アッシュやヴェルといった存在もいたからな」
違うよ。鍛えすぎな筋肉に疑問があるだけだ。
「俺が、ヴェル達を抜けさせた事で、動いたのか?」
「いや、それ以前からクライブは手を回している。いずれ排斥されるか、ガイナスのように利用されるかだった」
マグナスが深くため息をつく。
「イーゼルは大教会の信念を理解している。場所が変わっても残せるものがあると考えたんだろ」
「誰が?」
「ランスがだ」
「人に様付けしろって言ってたのに」
俺の疑問に答えたのはマグナスではなかった。
「それは、マグナスが、父の友人だからですよ」
いつの間にか、横に立つ金髪ツインテール。
「なんだ、今、難しい話を……」
「お初目にかかります、セト様ですね。思ったより若い!そして弱そう!」
おじさん扱いされないのはいいが。同時に貶されてるな。
可愛い顔してひどい。
「イーゼル。謹み」
マグナスが嗜めると。イーゼルはスカートの裾をつまみ軽く頭を下げる。
「イーゼル・サウロノアです。セト様」
「ヴェルのと似てるな」
その言葉にイーゼルが目を輝かせる。
「そう!ヴェルさんにも早く会いたい」
後ろに立つフィーナが、頭を抱えてる。
まぁ、フィーナに任せればいい。
「セト様!結婚しますよ」
「そうすればヴェルさんとも……いや、アッシュ様まで」
大教会の信念であるはずのイーゼルは騒がしかった……
それ以上に
「今、何って言った?」
声が裏返りそうな俺を見て。
マグナスが、今日初めて声を出して笑った。




