ノア 幽閉
すれ違うのがやっとの、狭く暗い石造りのトンネルを、俺たちは長く歩かされていた。
先頭にアレクとその部下。
その後ろに、俺とモナ、アヤネが続く。
時折、アヤネが歩調を落とし、背後を確かめる。
何度も分かれ道を曲がり、何度も階段を降りる。
方向感覚は、とうに失われていた。
「武器は、ここに置いていってくれよ」
案内を始める前に、アレクが言う。
敵地の、しかも見知らぬ地下だ。従っていいものか一瞬迷ったが、モナもアヤネも無言で従った。
俺もそれに倣う。
「まあ、武器がなくとも——俺の部下じゃ、モナ嬢に一捻りだがな」
その言葉に、部下たちが息を呑む。
「大丈夫だ。足元に気をつけて、案内を続けろ」
そうして、俺たちは一枚の鉄の扉の前に立った。
分厚い鉄鋼。
巨大なカンヌキと錠前。
そして、人の手がようやく入るほどの小窓が一つ。
アレクが、その小窓を指差す。
「覗いてみるといい」
モナと俺が近づく。
中には、人の姿をしたガイナスが横たわっていた。
毛布にくるまり、身体は動かない。
それでも、目だけが俺たちを捉えている。
「大勢で来るからな。いよいよ処刑かと思ったが……お前たちか」
想像していたより、ずっとまともな声だった。
「見ての通りでね。お茶の一つも出せない」
「軽口はいらない。聞きたいのは、蓮華会のことだ」
「そんなもの——お前のところのスケルトンに聞けばいいだろ」
要領を得ない。
レンに聞いたところで、答えが出る話ではない。
……いや。
「レンも、関わりがあるのか」
「なんだ。何も知らずに、連れ回していたのか」
毛布にくるまったまま、ガイナスがぼそぼそと呟く。
その声に、アレクが肩をすくめる。
「今日は随分まともじゃないか。普段もそれくらい話が通じると助かるんだが」
一瞬の沈黙。
やがて、ガイナスが低く笑った。
「……気が触れたふりをしてもな。どうせ、ここからは出してもらえない」
「なら、外が少しでも騒がしくなれば、俺が出る機会も生まれるだろ」
まだだ。
こいつは、何も諦めていない。
だが、今はいい。
使える情報が得られるなら、こいつの思惑など後回しだ。
「レンの過去を、知っているのか」
「簡単に言えば、あいつは実験作だ。それも、遠い過去のな」
「何の実験だ」
「不死の人間を作る実験とは聞いてる」
……俺は、レンの過去を何も知らない。
だが、今は普通の——いや、普通とは何だ。
言葉の意味を理解した瞬間、
足元が、音もなく崩れていくような感覚に襲われた。
モナの肘が、脇腹に入る。
我に返ると、モナが一歩前に出ていた。
「……私からもいいか」
ガイナスを、まっすぐに見据える。
「父は。お前に敗れたのか?」
「そうだと、言いたいところだが俺じゃない」
「罠、と言っていたな」
「そうだ。捕縛して、実験体にした。いや……生贄、だな」
鈍い音が響く。
モナの拳が、石の壁を殴りつけていた。
「……まあ、そう怒るな」
ガイナスは、わずかに目を細める。
「お前の父は、強かったぞ」
剣士として。
聖騎士として。
強敵への敬意、その類だろう。
その一瞬、ガイナスの目の色が、確かに変わった。
「生贄の残りで、俺は力を得た。俺は、生き残った。
そして残った連中は、お前たちが見た通りだ」
ダンジョンで見た大量発生のゾンビたち。
アッシュが焼き払い、骨だけになった存在。
……モナの、父親。
「まさか、実験体のスケルトンに負けるとは思わなかったがな」
「蓮華会は、どこだ」
「俺が話せるのはここまでだ。流石に、喋りすぎた」
そう言って、ガイナスは背を向けた。
「……頃合いだ、セト」
アレクが告げる。
そのとき、黙っていたアヤネが、静かに口を開いた。
「お前たちの中に黒い骨の剣士は、いたか」
ガイナスが振り向き、アヤネを見る。
だが、それについては何も答えなかった。
「次に来るなら、肉の差し入れを頼むよ」
そう言って、再び背を向ける。




