ノア 面会と謁見
「まぁなんとなくやるとは思ってたよ」
アレクの屋敷に到着すると、アレクが呆れていた。
「ミリアの判断に任せたわけだから、意義はないが」
姿勢を正すアレク。
入り口には、逞しい軍人が二人。
モナの尻尾を珍しそうに見ている。
フィーナは聖撃本部へ向かい不在。
アヤネも街の宿屋に身を寄せている。
「それで、君の要件は聞いてはいるが……」
アレクは深いため息をつく
「あれの精神はもう会話ができる状態ではないぞ」
「それでも、私は見たいんだ」
モナが軍帽を脱ぐ。
「準備ができるまで、別邸で過ごすといい」
話は終わりだと言わんばかりに、アレクは席を立つ。
別邸。
建物の周囲には、距離を取ってアレクの兵が配置されていた。
監視いや、警護というべきか。
「二人きりなのは、久しぶりだな」
俺の言葉にも、モナは答えない。
考え事をしているようだった。
静かな夜が、過ぎていく。
◇◇◆
アレクとセトが面会している、まさにその時刻。
フィーナは、教皇に謁見した。
広い聖堂。光は柔らかく、空気は静かだ。
聖撃のような、汗の匂いはしない。
そして目の前の教皇 ランス・サウロノア
人権派などと呼ばれる教皇だが、違う。
権威に溺れず。力や恐怖で支配しない。
セトさんに似ているが、毒を持たないこの人は。
敵もつくることなく。
教会の象徴として存在した。
フィーナが、聖撃に移る時も、魔王へ嫁ぐ時も、反対をしなかった人物。
ただ、人が良い。
それゆえに。その正しさの足元に静かに、だが確実に、影が迫っている。
教皇は、フィーナをまっすぐに見つめた。
「フィーナ・リーベア」
その名を、重く、だが優しく呼ぶ。
「汝を、聖撃大司教として認める」
本来なら、大勢の前でやる儀式。
遠巻きの監視はいるものの。
たった二人で儀式は進められた。
フィーナは、膝をつく。
「……光栄に存じます」
「自由にやりなさい。フィーナとして」
その一言
自由を与える。
責任も与える。
逃げ道も、言い訳も、与えない。
だからこそ
顔を上げる。
その目に、迷いはなかった。
聖女でもない。偶像でもない。
フィーナ・リーベアは、その役目を、受け取った。
教皇は、少しだけ間を置いてから、続けた。
「と、まぁ……こんなものでいいかな」
儀式が終わると、ランスは肩の力を抜いた。
「フィーナ、結婚生活はどうだ?」
先ほどまでの威厳をどこかへ置き去りにし、知り合いのおじさんのような笑みを浮かべる。
「建築と街づくりで忙しくて。思っていたのとは、少し違いますね」
「セトはどうだ」
「好きなことをして、好きなことをさせてもらっています」
「そうか。幸せか?」
「はい」
「なら良い」
ランスは、満足そうに頷いた。
「魔王セトにも会いたかったが、お互いの立場上、まだ無理だな」
苦笑するランス。
「さて、フィーナ大司教。人材が足りないのではないか?」
「不足はしてますね。セトさんたちが手伝ってはくれてますが……」
「補佐をつけるから、存分に使ってくれ」
扉から、一人の少女が歩いてくる。モウラより若い。
金髪ツインテールに肩が見えるブラウス姿と金の腕輪。
「教皇。彼女は補佐というには、あまりにも」
「頼りないかね」
フィーナは首を振る。
「教皇様の五女様に、そのようなことは」
「イーゼル。ご挨拶」
「イーゼル・サウロノアです。フィーナ大司教様、お眼鏡に叶うならば、よろしくお願いします」
教会のことを知り尽くす少女。補佐と言わず教皇に据えられてもおかしくない。
それをリーベアに?
「よろしく頼めるかな」
教皇とイーゼル、二人から向けられる視線。
断れるわけがない。セトさんも、反対はしないだろう。
無言でうなづくフィーナ。
「すまないな」
「やはり、クライブ様の件ですか……」
フィーナは、言葉を選ぶように口を開いた。
「あー……ちょっと、教会もまとまりきらなくてな」
下手なことは、口にできないのだろう。ランスは、それ以上その件に触れなかった。いや、触れられなかったのか。
大司教任命と、娘を預けることを急いだ理由がわかる。
イーゼルは補佐ではない。
リーベアで保護する対象なのだろう。
それほどまでに、大教会は、いや教皇の座は危ういのだろう。
「セトにもよろしくな」
そう言って、フィーナの元により。
フィーナにだけ聞こえるように耳打ちをした。
「娘がセトを気に入れば、婚姻も認める」




