前夜祭 進む祭り
貴賓席に戻ってきたレンは、勝ち誇った様子もなく、どこか元気がなかった。
「どうした。勝ちは、嬉しくないのか?」
【武器、破壊されました】
どうやら、レンの中では勝ちになっていないらしい。
「あの鉄塊は、さすがに壊せないだろう」
俺なりの慰めだったが、レンは視線を逸らす。……完全に拗ねている。
「あれ以上やると、お祭りになりませんからね」
フィーナが、そっとレンの隣に立つ。
「それに、あの一瞬マグナス様の意識を断ち切った時点で、勝負は決していました」
レンは、しばらく黙ったまま。
それでも、フィーナの言葉を否定しなかった。
「そうだぞ、それ以上拗ねるのは、敗者への冒涜だ」
マグナスが席に戻ってくる。
こいつ、もう平然としてるな。レンが胸を張れないのもわからんでもない。
上半身裸で着替えを探すマグナス。
「お披露目ならこれもありか」
マグナスが大真面目で、オカママグナス=通称イチゴちゃん衣装を出してきやがった。
「趣味を否定して悪いが、さっき死闘を繰り広げたお前が、それを着たら台無しだからな」
「自由を掲げるセト・リーベアとは思えない発言だな」
「ああ、自由だ、だが責任も伴うからな」
睨み合う、俺たち。
フィーナはオロオロしてるが、レンが小さく笑う。
【セトは誰にでも同じですね】
「ん? 同じじゃないぞ?」
俺は肩をすくめる。
「おっさんには、厳しい」
はよ、しまえ。
「誰に対しても、肩書き関係なしってところよ」
ヴェルもニヤニヤし。
マグナスは不服そうに、
「……余韻も大事だな」
と呟いて、イチゴちゃん衣装をしまった。
「それにしても、あの戦いの後じゃ、続く人も災難だな」
盛り上がりすぎて、下手なものは見せられない。
お気の毒に。
「大丈夫ですよ。魅せる戦いは強さだけじゃないですから」
モウラが、闘技場を見ている。
順番を決めたのは、モウラやフィーナだからな。
考えはあるのだろう。
その言葉の通り。戦いは続き。歓声は鳴り止まなかった。
途中、アヤネが木剣で、若手冒険者達を薙ぎ倒したりしている。
モナが食い入るように見つめてるな。
どこから入ったかティナが、俺の席でアヤネを応援してた。
しばらくうるさかったので、屋台で買った。
腸詰串焼きを容赦なく突っ込む。
「もむもむ。うもむ」
肉汁で口が汚れると、リザが拭いてあげてる。
「おかわり」
こいつ、なかなか豪胆だな。
いつの間にか、うちの嫁達にも可愛がらてる。
モウラとリザが面倒見てる感じか。
「そういえば、セト」
衣装の件で拗ねたのか、未だ半裸のマグナスが真面目な顔をしている。
「なんだ、半裸マン」
「全裸マンになってやろうか!」
半ギレで、法衣の下まで脱ごうとするマグナス
その瞬間。
俺とマグナス、二人そろってアッシュに叩かれた。
「小さい子もいるのです。慎みなさい」
お姉さんに、怒られる子供か。
マグナスが法衣を正し、半裸ではなくなる。
そして、少しだけ萎縮しながら会話を続ける。
「リーベアの地に、孤児院を建ててくれないか」
思った以上に真面目な話だった。




