建国祭 剣と拳
闘技場の平地。平らに踏み固められた土の上に、二人が佇む。
観客は、ただ見守っている。
闘技場の柱に灯る火の揺らめきが、レンのシルバーの髪を照らした。
ゆっくりと回されるハルバート。刃が火を反射し、淡く煌めく。
マグナスは地面に根が生えたようにどっしりと構える。
ドンケン達が作り上げた、携帯性など度外視の鉄の塊を
マグナスが肩に担ぐ。
一歩ずつ近づくレン。
観客が、唾を飲む音すら聞こえそうな静寂。
土を踏む
レンの足音だけが、闘技場に響いていた。
刹那
レンの一歩が、数歩分飛んだように見えた。水平方向への跳躍。
ハルバートの柄、その最も後ろを握り、身体を伸ばすように
閃光
一気に、マグナスへと迫る。
マグナスは動かない。
いや僅かに腕を動かし。
手甲のみでハルバートを弾く。
「挨拶代わりにしては鋭いな」
マグナスが鉄塊から片手をはなす。
その手からは鮮血が流れる。
そして手を振り、血を払う。
「防いだつもりだったがね。斧の部分まで余さず使ったか」
マグナスが拳を握ると血が止まったように見える。
手甲からは、もう流れ出ていない。
ヴェルの再生とも違う。筋肉で塞いだ?
「待たせていては冒険者、いや元冒険者の名折れだな」
マグナスの足が、土を踏む。
地面が揺れたように、いや実際揺れたのかもしれない。
爆発音と土煙が上がる。
闘技場の二人を土煙が隠し。
斬撃の音と、時折火花が飛び散る。
再び、姿が見えた時。
二人は距離をとり、開始時と同じ形に。
いや
レンのハルバートは先の刃先が折れ曲がり。
そしてマグナスの手の傷は広がっている。
今度は、筋肉では塞げないのか。血が滴る。
「せっかくの見せ場が、見せられず残念だ」
勝負あったのか
いや、どちらが勝った。
レンは武器を破壊され。
マグナスは片手を斬られている。
民衆が注目する中。
マグナスは闘技場の壁まで歩くと、鉄塊を地面に突き刺した。
「冒険者の俺では、万全でも敵わないのはわかった」
マグナスが拳を握り、高々と上げる。
「筋力を鍛えよ!精霊と神の名において!己の体を武器とし、盾とせよ!」
フィーナが、声を張り上げる。
「一撃必殺に信念を!追撃はお情けとしれ!」
そして会場の筋肉信者が叫ぶ。
「癒しの左、裁きの右!聖撃ッ!」
「改めて、聖撃大司教。ヤマ・ド・マグナス参る!」
先ほどの踏み込みとは違う。
土煙も上がらない。
静かだが、力強い加速。
筋肉の塊
ウォーハンマーのような拳が
レンに迫る。
内側に避ければマグナスの右拳が、叩き込まれる。
それを読んでか、レンは外側へと身を流し。
折れたハルバートの石突を叩き込もうとする。
背中を取った。そう見えた、その瞬間。
レンの頭上に、影が落ちる。
マグナスの右の踵が、上から叩き落とされる。
拳から、蹴り。しかも、回転。
あの体躯で、この速度。
読んだはずの一手の、その先。
上からの一撃。
だが、
ハルバートを手放し
その一撃を、レンは掴んだ。
防ぐのではない。
掴んだ足を、止めない。むしろ加速させる。
踏み込む。
身体を入れ替え、背に担ぐ。
次の瞬間。
マグナスの巨体が、叩きつけられた。
加速と自重によっての衝撃は計り知れない。
レンが、ハルバートを拾い上げマグナスを見下ろす。
立てないだろう。
誰もがそう思う。
次の瞬間。
マグナスが立ち上がる。
ダメージなど感じさせないほど力強く。
だが、マグナスは落ち着き払った顔のまま、静かにレンへと近づく。
そして、レンの片手を高々と掲げ、貴賓席のフィーナへと視線を向ける。
「勝者!レン!」
フィーナが、拍手とともに宣言する。
一拍遅れて、会場もそれに続いた。




