戦い方と奥の手
街の様子はさらに活気がますが、中庭は夕暮れの日差しが差し込み
静かだ。みんな祭りの準備で出払ってる。
中庭で、レンが何を確かめるように歩く。
ブラウスにミニスカート、膝が隠れるほどのロングブーツにレザーのコルセット。
銀と黒のロングヘアを左右に分け、金色の瞳に夕暮れの光が差し込み、淡く輝く。
そして、両手にショートソード。
レンのいつもの姿。
幻覚ではなく実態として佇むレンは、静かで、強く、美しい。
「何、見とれてるの」
ヴェルに肘で突かれる。
「いや、レンはやはりすごいな」
「すごいわよ。私も強いつもりだったけど、レンは別格」
ヴェルがため息をつく。
「背中の脚は使わないのか」
ヴェルは奥の手、いや脚?
背中から赤い蜘蛛のような脚が出る。
最近まで知らなかったが、あれがヴェルの本来の戦い方なのだろう。
「できるだけ、人の姿で戦いたいのよね」
拗ねてるのか、唇を尖らせるヴェル。
疑問に思ったが、その言葉を口にする前に。
「お待たせ」
口調は軽い。だが、目は先程と同じく真剣なモナが姿を見せる。
鉄製の胸当てと片方だけの肩当てと籠手。
その反対側の手には兜割という名の肉厚の短刀。
濃いめのグレーのロングヘアを一本に束ね。ケモ耳がピンとたつ。本来は獣であり、人の姿は変身だ。だが、モナは変身が下手だった。
獣の時は虎に近い姿なのに、人の姿だと狼を連想させる耳と尻尾になる。
さらには人の耳まである。つまり耳が四つある。
最近はアヤネにも稽古をつけてもらっていた。
ガイナスに刃が届かなかったことを気にしている。
「レンの調整というより、モナの腕試しかな」
俺の言葉をよそに、二人は対峙する。
言葉なく、始まる。
モナの連撃は、以前より早い。
てっきり、一撃の重さを鍛えているのかと思っていた。
あと一歩踏み込めばお互いの体が当たる位置で、レンが連撃を避けつつ、モナが追う。
腕の長さから言えば、モナの距離。だが、その連撃は空を切る。
「戦い方を変えるのかと思ってた」
「カッツェの時の戦い覚えてる?」
ヴェルの言葉、あの時は素手の戦いだった。
「最終的には、カッツェの一撃の重さにやられたな」
「でもね」
ヴェルは、レンとモナから目を離さないまま続ける。
「モナは、その前に倒し切るところだった。あれは、あの場に合った戦い方をしただけよ」
確かに、そうだ。
魅せる戦いにこだわったつもりは、モナにはない。ただ、あの会場の空気が、そうさせた。
「一撃の重みを捨てたわけじゃない。今は、獣の強みを選んでるだけよ」
人の身を真似しながらも、獣の本性を出す。
爪と牙の代わりに短刀を使う。
「それなら、獣の姿になった方が強そうだな」
俺の言葉にヴェルが少し、呆れる。
「会場に合わせた戦い方と一緒よ」
「あなたに魅せる戦いを、私もレンもモナも選んだ」
「いや、それで危険が増すならやめたほうが」
「もちろん、全力は出すわ。でもね、私たちは別の戦い方を模索してるの」
モナが建物の壁を利用して、飛び始める。
それはヴェルが、得意としている方法。
「大丈夫よ。もっと強くなるから。それに奥の手は隠しておくものでしょ」
ヴェルが背中を見せつける。
なるほど、手の内を隠すのも戦い方か。
手合わせも、終わりが近づく。
モナが高く飛び、レンが迎撃に備える。
だが、その剣が振るわれることはなかった。
そこで終わる。
「最後ダメだった。手合わせでは奇襲も奇襲にならない」
モナが息を整えながら、短刀を収める。
【早さが、上がりました】
レンは素直に感心している。
レンの調整は問題ないようだ
本来の目的を忘れて、楽しんでたが、まぁそれでもよい。
「動きも確認できたし、ドレスを着るわよ」
ヴェルが二人を連れて、楽しそうに戻ろうとする。
「前も、試着しなかったか?」
「まだ、褒めてもらってない!」
そういえば、そうだった。
忙しさにかまけて、しっかり見ていなかった。
モナのは、まだ未見だしな。
どうやら俺の正妻三人は、
さらに強く、さらに美しくなりたいらしい。




