お披露目と信仰
二人が去った後、ルナが恥ずかしそうにやってくる。
薄い黄色いドレスだ。
「みんなほど、スタイルが良くないから、恥ずかしいです」
「可愛いと思うぞ」
胸元が随分と空いている。
この手のドレスは、こういうものなのだろうか。
覗こうとした瞬間、目潰しを喰らいそうになった。
「まあ、住民にお披露目する意味はわかります」
「以前の火事の件か」
「それもありますが……わかりやすくするためですよ」
「何を?」
「信仰と、魔王の立場ですね」
少し考える。
「俺が宗教始めるのか?」
「違いますよ」
……よくわからない。
「セトさんは、今のままで大丈夫です」
ルナは小さくため息をついた。
「はい、見ましたね。終わりです」
そそくさと執務室を出ていく。
「もう少し見たかったな」
あんなに恥ずかしがっていたら、式典で倒れそうだ。
並び順、後ろにしてあげるか。
いや、そもそも横並びで見られるものなのか。
まだ何も決まってないからな。
信仰
俺に対するものなのか、嫁に対するものなのか。
よくわからない。
などと考えていると、フィーナがやってくる。
白いドレスに、金と緑の刺繍。
なんだか、聖職者の偉い人が着るローブみたいだ。
「このドレス、肩紐がないので」
大きく背中が空いたドレスだ。
しっとり汗をかいているのか、少し湯気まで立っている。
「スクワットすると、脱げちゃいそうなんですよね」
「いや、スクワットするなよ。だから汗かいてるのか」
「着飾ると、落ち着かないというか……」
またスクワットしそうなので、止めておいた。
「豪華な服なら、教会でも着るだろ」
「あれは儀式ですから。神に失礼がないように」
「こっちも式典だ。割り切れ」
「うう……私は筋肉質で、似合わないと思うのですが」
「そんなことはない。ちゃんと清楚な感じが出てる」
「そうですかねぇ……」
くるりと回る。
うん、喋らなければ美人だ。そして胸が大きい。
背を向け、振り返った瞬間。
握り拳、妙に肩を張ったポージング。
「おい、急に強そうになったぞ」
「緊張に打ち勝とうとしたら、力が入りすぎまして……」
「誰かをぶん殴りそうだから、やめておけ」
「独身と殴り合うセレモニーは、私がやっても良いんですかね」
元々とんでもない儀式なのに、さらに酷いことになりそうだ。
……あれ?
あの儀式、俺もやるのか?
「考えとく。ていうか、フィーナが始めたら、レン達も続きそうで怖いな」
「そうなんですよね。いっそ、みんなで一緒で戦いますか」
「式がバトルロワイヤルになるな」
そこまで言って、思い出す。
「あれ? お披露目だから、式を挙げるわけでもないのか」
「ああ、そうでした。式は、呼ぶ呼ばない問題で揉めるので、家族だけでやるって、セラさんが」
「なるほどな。誰を呼ぶかで揉めるから、住民にはお披露目して終わりか」
「主に他の国とノアへの配慮ですね、誰も呼ばなければ揉めないので」
どっちにしても、新郎の殴り合いセレモニーは、なさそうで安心した。
「あー、そうだ。今回のお披露目は、信仰と魔王の立場のためって、どういうことだ?」
「簡単に言うとですね」
背筋を伸ばし、落ち着いた声。
「住民が、どこを拠り所にしていいのかを、はっきりさせるためです」
「拠り所?」
「はい。神か、魔王か……あるいは政府か」
軽い気持ちで聞いたが、思った以上に真面目な答えが返ってきた。
普段はあれだが、ちゃんと司祭様だ。
「火事の件で、住民は救われました。ですが、救ったのは誰か?」
フィーナは胸元の刺繍を指で押さえながら続ける。
「信仰というのは、奇跡が起きた瞬間に生まれます。
そして、その奇跡が誰の手によって行われたかが重要なんです」
「……レン?」
「正確には、レンさんを含む嫁を従える貴方ですね」
なるほど。
だから嫁達を揃えて見せるのか。
「ん? その理屈なら、嫁のみんなを信仰するだろ」
「普通ならそうです。ですが、貴方には魔王の称号があります」
フィーナは一度、言葉を切る。
「そして、その称号のもとに、私達が集まっている。それが重要なんです」
「逆だけどな。みんなが強すぎて、俺が魔王扱いされてる」
「住民は、そうは見ません。それだけ魔王という言葉は強いんです」
少し間を置いて、フィーナが付け足した。
「あと、もう一つ」
「まだあるのか」
「お披露目は、聖撃教会があなたを敵視していないという宣言でもあります」
ああ、なるほど。
この地での宗教の最高位、聖撃司教が白いドレスで並ぶ意味。
「つまり今回は、宗教儀式でも結婚式でもなく――」
「政治と信仰の合同イベントですね」
「思ったより、話がデカかった」
「安心してください。殴り合いはありませんから」
「本当か?」
「……たぶん」
……たぶんか。
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