機人と鬼人
不思議なものだ。ガイナスの一件があったというのに、住人は減らなかった。
いや、むしろ増えている。
砦下の街は、以前よりも明らかに活気づいていた。
人も、獣も、鬼も、機械も。
教会の人間が見れば、討伐対象にしか見えないだろう。
もっとも、うちにも教会はあるのだが。
資材置き場と職人街の復興では、ナツメが大いに力を発揮した。
機械公国の鉄そのものは再現できなかったが、彼女がもたらした技術は十分すぎるほどで、それをドンケンたちが形にしていく。
こうしてナツメは、瞬く間に職人街の「顔」となった。
金属光沢を帯びた体。
黒を基調とした装飾的な衣装。
顔の一部を覆うプレート。
黒髪を一本に編んだ三つ編みの少女。
人間かどうかをセラに尋ねたところ、機械人、自動人形――呼び方は色々あるが、そういう人種ということで落ち着いた。
だが、機械である以上。
作られた存在であることに違いはない。
その中のタイプ07。個体名、ナツメ。
それが、彼女だ。
そしてもう一人。
帝国より更に東の国の鬼
アヤネ・シヅマ
ガイナスに似た存在に国を追われ。姉妹で亡命した女性。
大柄な体躯とツノ
帝国風の衣服に、腰に届きそうな長い黒髪。
武器作りの技術を持つ。
鬼人族。
彼女は、ナツメとは逆にひっそりと
だが確実に街の人間となっている。
「もっと早く。回転を上げる」
中庭で、アヤネの声が響く。
アヤネは今モナの稽古をつけてくれている。
『兜割』
ガイナスの四肢を断ち切った刀
普段はモナが使っている刀だが、あの時は、レンが使った。
モナが使用してもガイナスを倒すには至らなかった。
元はアヤネの国の刀の打ち直しで作られた兜割
あの時、アヤネも戦いを見ていた。
「何、アヤネのこといやらしい目で見てるんだ」
不意に俺を蹴飛ばす少女。
アヤネの妹だという。
ティナ・シヅマ
小柄だが、力強い。
「お前な、結構痛いの、やめてそれ」
髪に隠れているが、小さなツノがある。
アヤネを小さくしたような容姿だが、
れっきとした鬼。
「ジロジロ見てるからだ」
「いや見るだろ、うちの嫁が稽古してもらってるの」
「どうだか?」
この子は、最初に会った時から当たりが強い。
姉であるアヤネが最強だと言って疑わない。
アヤネは巨大なメイスとでも言うべきか
ゴツゴツした棒を使う。
「ただの金棒です」
そう言っていたか。
ちなみに俺は両手でも持てなかった。
それを片手で扱うアヤネの力は相当なものだ。
「先日の戦いのように力任せではなく、重さを利用します」
金棒で兜割を弾きながら稽古を続ける。
「モナさんは獣姿の時爪に力を込めますか」
金棒が天をさし、アヤネが回転させるように振る。
「重さは、速度をまし、攻撃力を上げます」
回転に無理がない、それでいてアヤネは方向を自在に変える。
「爪の一撃と牙の一撃を使い分けてください」
モナのすぐ脇を金棒が打ち抜く。
地響きかと思うくらいの震度が体に伝わる。
レンも加わりたいのか、じっと見ている。
「やりたいか?」
【やりたいです】
「今日はモナが稽古してるから、また今度お願いしてみよう」
【大会でもいいですよ】
レンはこないだの大会に出れなかったのが、心残りのようだ。
「街も活気付いてきたし、やってもいいけど」
俺の歯切れの悪さに、レンが首を傾げる。
「先にレンの体をなおしたい」
レンはブラウスの襟から自分の体を確認する。
骨と、空洞。
街の復興に力を注いでいたため、レンの体には、まだ十分に手を入れられていない。
いや、修復しようとした。
だが、以前のようにはいかない。人工スキンが、うまく貼り付かないのだ。
『浄化の炎』の影響かもしれない。
先は、長くなりそうだった。




