後悔と決意と新住民
ルナに酒を用意してもらう。
普段、俺は酒を飲まない。
飲めないわけじゃないが、酔えばできることが減る。
それが嫌だった。
だが、今日は飲みたい。
クライブとアレクに、してやられたからだ。
強引に話を進めるクライブ。
理解があるふりをして、道を塞ぐアレク。
そのやり口に、まんまとガイナスを持っていかれた。
「いい判断だったと思うよ」
セラはそう言っていた。
ルナも、それに同意した。
だが――フィーナはどうだ。
あいつは、こうなることを分かっていたんじゃないか。
ただでものを受け取ることの、怖さを知っていたんじゃないか。
そして何より、
俺が判断を下すことを、怖がっていた。
グラスを、強めに置く。
苛立っている。
ドアが開き、モナが顔を出した。
浮かない顔だ。
正直、今は誰とも顔を合わせたくなかった。
それでも――
モナの顔を見た瞬間、抱きしめていた。
最低だ。
こんな時に、誰かに縋ろうとするな。
「……悔しいよね」
モナは、そっと俺に手を添えて言った。
「私もね。悔しいんだ」
バルコニーに出るモナが、月明かりに照らされる。
その肩が、かすかに震えている。
「お父さんの仇、取れなかった。
私じゃ……届かなかった」
「あれは……」
言葉が続かなかった。
確かに、あの時ガイナスは、モナを凌駕していた。
「カッツェの時も思ったけど……私は、まだ弱い」
「お前が弱いなら、俺は――」
「セトの強さは、戦う強さじゃないから」
振り向いたモナの目に、涙が溜まっている。
「……違う強さも、なかったよ」
俺は、吐き出すように言った。
「俺は、ガイナスを殺す判断をするべきだった。
だが……逃げた」
その言葉に、モナが目を見開く。
「なら……強くならないとね」
「ああ」
「でもね」
モナは、少しだけ笑った。
「殺さなくて、良かったよ」
「……なんでだ」
「私が倒す機会が、あるかもしれないでしょ」
正直、またあれをやるのは御免だ。
だが
「その時は、私が倒す」
そう言って、モナは部屋を出ていった。
モナは、強くなる。
俺は、国を強くしなければならない。
そして
俺自身も。
◇◇◆
「とは言うけど、セト君があの戦いの中に入れるわけじゃないでしょ」
次の日、セラに呆れられた。
「いや、リザも訓練してるし」
「あれは護身。
敵を倒しに行くわけじゃないわよ」
セラが、俺の鉄扇を指差す。
「それと同じようなもの」
「……心構えか」
「そう」
セラが一息つくと、ルナが紅茶を用意する。
「国を強くするのは賛成よ。
だから、今回の判断が悪いとも思ってない」
「そうですよ。
セトは、悩みすぎです」
昨日の判断についても、二人は同じ意見だった。
「お酒飲んで、凹んだ俺。
『悩んでます!』じゃないのよ」
言語化するな。恥ずかしい。
「職人街と倉庫街の復興。
それにはお金もかかるんだから」
セラは、少し間を置いて続けた。
「話は変わるけど、復興に絡ませてほしい人がいるのよ」
◇◆◆
機械公国からも移住希望があるとは、以前聞いた。
義手や義足。優れた工作技術を持つ国
大掛かりな、道具が必要らしく
その技術は、他国が真似できるものではない。
ドワーフがそれを真似て義手を作るが
鉄の厚みからして、真似ができないのだ。
同じ厚みで作ると強度がたらないらしい。
そんな国の人間。
マキナ07
人、
いや人か?
人っぽいな。
だが手足から胴体に至るまで、鉄。
正直どう動いてるかわからない。
いや、ダンジョンのゴーレムだってどう動いてるかわからないし
スケルトンもそうだけどな。
明らかに魔法とは違う。
その違和感が、頭を混乱させる。
目の前には黒髪三つ編みの少女。
顔だけは人間のマキナ07がいる。
いや、顔も金属部分が見える。
どうなってるんだこれ?
「初めましてマキナ07です。タイプコードなので、私のことはナツメとお呼びください」
理解し難い世界がまた広がる。




