耳が四つあるんですが!?
白虎は動かない。敗北を受け入れたのか、レンの姿に恐れたのか。
その場で静かに身を丸める。
レンは胴体の骨を剥き出しにしている。
その戦いぶりは、人であれば即死だが、誰も死ななかった。
ようやく、動けるようになった俺は、自分の服を脱ぎレンに渡す。
スケルトンなんだから骨むき出しでいいんだけど、なんとなくな。
いや、実際みちゃいけない気がするんだよ。
さらに俺の服を羽織るレンを見るとなんかね……
俺なんか、変になったのかな?
さて、傷ついた白虎を観察。
丸まったまま動かないな。急に動かないよな。
レンは嬉しそうに服のボタンを閉めてる。レンが警戒しないってことは大丈夫か。
大丈夫だろう。
俺は白虎のそばで膝をつき、応急処置を始める。
白虎は動かない、目だけが鋭く動く。
「……他の冒険者の攻撃か。骨が見えてる。でも、生きてるな」
レンが小さく微笑む。勝利の安堵と、殺し合いにならなかったことへの満足が、その表情からわかる。
だが、ゆっくりもしていられない。
戦闘音を聞きつけて、別のパーティがくるかもしれない。
何より、俺たちが聞いた戦闘音の主はどこに行ったんだ?
「さて、担ぐにしても……でかすぎるな」
白虎の巨体を前に、俺は悩む。レンと二人で担ぐ?
でもダンジョンで俺を引き上げてくれるレンを思い出すと、力はそこまでなかったよな?
「荷車。とってくる時間ないし、木が横たわってるから通れる気がしないよな」
戦闘したわけでもないのに、頭に血が昇ってるのか、考えがまとまらない。
そのとき。
「小さければ、担げるんだ?」
足元から、どこか幼さを残した声が聞こえた。
セトは反射的に答える。「ああ、レンくらいなら問題……」
はて?今、俺は誰と喋っていた?
ふわり、と背中に重みが乗る。
振り返ると、そこにはレンと同じか、いや少し幼い姿。
月の光に揺れる、青い瞳。髪の隙間から覗く、やわらかな耳――あれ、耳が4つ?
変なケモ耳少女が俺の背中にいた。
「ほら。急ぐんだろ?」
思考が追いつかない、だが、レンがその少女を見ている。
ゆっくりと、しかし確かにうなずいた。
もういいや、疲れたし早く帰ろう。
俺は、現状把握を諦めた。何より少女の傷が心配だ。いや白虎?
◇◇◆
なんとか家に着いたので、玄関に板で細工し外から開かないようにする。
さらに椅子を斜めに挟み込み、扉の隙間を布で目張りした。
無理に開ければ大きな音もなるし、隙間からも覗けまい。
「……セラ、絶対入ってくるからな、あいつ」
レンは黙って見ていた。
さて、状況の整理だ。
床には、マントにくるまった少女が横たわっている。
ロングヘア。湿った毛先が頬に張りついている。
白く透けるような肌。呼吸は規則正しく、眠っている様子。
よく見ると、手当てした包帯がそのままだ。
「……うん、少しゆるいな。これで良し……」
締め直したところで、ようやく脳が現実に追いつく。
いや、良くないよ!?
「なんで白虎が、少女になってんだ!?」
立ち上がった拍子に机を蹴飛ばすセト。
レンが少し心配そうにこちらを見る。
「いや違うレン、お前は悪くない!でもさ、なんかおかしくない!? 俺、幻見てる!?」
その横で少女が、まぶたを開けた。




