耳が四つあるんですが!?
白虎は攻撃をやめた。敗北を受け入れたのか、その場で静かに身を丸める。
セトはどさりと座り込み、レンは胴体部分を向きだしにし、その戦いぶりは、人であれば即死――だが、誰も死ななかった。
傷ついた白虎の傍に膝をつき、セトは応急処置を始める。手を止めず、目だけが鋭く動く。
「……冒険者の攻撃か。骨が見えてる。でも、まだ生きてるな」
レンが小さく微笑む。勝利の安堵と、殺し合いにならなかったことへの満足が、その表情に宿っていた。
――だが、時間がない。戦闘音を聞きつけて、別のパーティが戻ってくるかもしれない。
「担ぐにしても……でかすぎるな」白虎の巨体を前に、セトは腕を組む。
そのとき。
「小さければ、担げるんだ?」
足元から、どこか幼さを残した声が聞こえた。
セトは反射的に答える。「ああ、レンくらいなら問題……」
――はて?今、俺は誰と喋っていた?
ふわり、と背中に重みが乗る。
振り返ると、そこにはレンと同じか、少しだけ幼い姿の少女。
銀白の髪。しっとり濡れた虎の耳。月の光に揺れる、青い瞳。
髪の隙間から覗く、やわらかな耳――あれ、耳が4つ?
「ほら。急ぐんだろ?」
セトの思考が追いつくより先に、レンの視線がその少女を捉えていた。ゆっくりと、しかし確かに――うなずいた。
それは、肯定だった。
*
家に着くなり、セトは玄関に板を渡し、椅子を斜めに挟み込み、扉の隙間を布で目張りした。
「……セラ、絶対入ってくるからな、あいつ」
レンは黙って見ていた。
さて、状況の整理だ。
ソファには、マントにくるまった少女が横たわっている。
銀髪のロングヘア。湿った毛先が頬に張りついている。
白く透けるような肌。呼吸は規則正しく、眠っている様子。
よく見ると、手当てした包帯がそのままだ。
「……うん、少しゆるいな。これで良し……」
と、締め直したところで、ようやく脳が現実に追いつく。
――いや、良くないよ!?
「なんで白虎が、少女になってんだ!?」
立ち上がった拍子に机を蹴飛ばすセト。
レンが少し心配そうにこちらを見る。
「いや違うレン、お前は悪くない! でもさ、なんかおかしくない!? 俺、幻見てる!?」
その横で――少女が、ふっとまぶたを開けた。
セトの混乱は、まだ序章でしかなかった