第10新卒:AVANT
時代を振り返れば、珍しい事ではなかった。
子供の頃に読み聞かされた童話を、猥雑な悪意やエログロに汚して、暗黒童話に塗り替えるように。
小さい子供のあこがれのテレビヒーローに批判寄りの正義論を当てはめて、ただ一身に主役の思想を否定しパロディ化する物語が作られるように。
神話的なまでに潔癖なイメージを持つアイドルに、どんなこじ付けでも、暗い影を思わせるスキャンダルを当て込みたくなるように。
正義漢のように見えた名探偵が、実は稚拙な動機の犯人というどんでん返しを使ってみせたくなるように。
人は白いものや美しそうな世界に、ありきたりな闇と偏見をぶちまけて、穢してみたくなる生き物なのだ。
……だとすれば、魔法少女が流行れば、概ね二十年ほど後には、殺し合うか近代兵器を使って戦う話が生産されるのは、時代が行き着く摂理だった。
――結果的に、彼女たち三人も、絶え間ない殺戮の起こる戦場で戦う羽目になった。
百人の魔法少女が孤島に閉じ込められ、彼女たちに向けて一斉に告げられた。
殺し合いをしてもらう、と。
開戦の理由は特にない。何某かの理不尽が、彼女たちに、ある日突然にそれを強いた。
マジカル女番長と、マジカルギャルと、マジカル委員長と――その前日まで平和に暮らしていた彼女たちが、不意に拉致誘拐され、殺し合う運命を背負わされたのである。
殺し合いには、最後の一人だけが何かしらの願いを叶えられるという、有体に言えばそんな報酬が存在したが、その殺し合いを拓いた人間に対する信頼など絶無に等しく、余程追い詰められた精神状態の人間が縋る事はあれど、百名のうちの多くはその報酬に価値を見出さなかった。
それで、良識ある魔法少女たちは、初めは他者に信頼を向けていたが――結果的に、運の悪い者は、悪意ある者や切羽つまった者の攻撃を受けて、順番に死んでいった。
百人が九十人に、九十人が八十人に、八十人が七十人に……と、単純な数では表せないほどにあっさりと、少女の生命がゲームの駒として潰されていった。
何十人もの屍が築かれた――そして、ある時、マジカルギャルも。
「番長……悪いけど、ウチ……ここで終わりだわ……あと、頼むね……」
魔法少女同士の殺し合いが始まって十二時間。
別の言い方をすれば、ばらばらな場所にワープさせられていたマジカル女番長とマジカルギャルとが幸いにも合流して、およそ一時間半後の事だった。
広大な砂漠の中で、胴体の全てに深い銃創を築かれたマジカルギャルは、マジカル女番長の手を握っていた。――どこかの邪悪なる魔法少女が、彼女を撃ち殺したのである。
その魔法少女もまた、最後の瞬間に悪戯に発砲して、道連れを得たいかのように撃っただけで、とうの昔に血を吐いて倒れていた。
そこには、もう、生きている者は二人以外に誰もいなかった。
弱弱しくはにかむマジカルギャルの姿を見つめながら、マジカル女番長は彼女の傷をどうにか必死に治そうとしたが――それより先に、彼女の鼓動が止まった。
「ミウッ……!」
そう、止まった。
親友である青山未羽の亡骸をしばらく名残惜しそうに見つめていたが、すぐにそれを見ているのが嫌になった。
――土葬だったし、こんな場所でいいのかわからなかったが、簡易的に墓を作り、マジカル女番長は誓った。
マジカル委員長は、必ず助けると。
せめて、最後の仲間とは一緒に帰ろうと。
目元というよりは顔全体から流れ出すような涙と、脳裏に焼き付く無数の思い出と、深い胸中の傷とを堪えながら、ただ必死に歩き続け、戦い続けた。
やがて、この殺し合いの中でも、そこから脱する志を持った新しい仲間は出来ていった。
……しかし、不幸は立て続き、皆、友達となって僅かな時間で死んでいき、彼女だけが幸運に生き残った。
以来、マジカル女番長は、ほとんどの時間、一人で元の友人を探し続けた。
果てに、二日目の夜、マジカル女番長は、街の一角で再会した。
「――委員長」
「――」
邪悪な魔法少女によって洗脳され、己の人格のすべてを忘れて兵器となったマジカル委員長――緑川綾香に。
機械的な殺意を以て向けられる日本刀の刃をかわしながら、何度も説得を試みた。
……が、やがて、無駄だとわかり、マジカル女番長は彼女に介錯するようにして、自分の手で親友の命に止めを刺した。
必ず助けると誓った筈のもう一人の親友は、最後まで彼女は理性を取り戻す事も、緑川綾香として微笑む事も、辞世の句を詠む事さえもなく、ただの操り人形として散った。
共に脱出を夢見ながら共に生きる事は――それどころか、出会いながらにして、会話を交わす事さえできなかった。
誰かが洗脳した時点で彼女は死んだものだと思いながら、しかし、何も諦めきれなかった。
自分の手で友達を切り捨てる判断をしてしまった事に、マジカル女番長は戸惑いを隠しきれず、そのやり場のない怒りを洗脳の犯人に向け、鮮血を浴びた。
敵も曲りなりにも、それは肉体を持った人間だった。いちごの殺意が初めて、意思ある人間を殺した。
やがて、緑川綾香の遺体を、どことも知れない戦場に土葬し終えると、彼女は大の字になり寝転がった。
すべてがどうでもよくなっていた。
これから何をしたって良い事などない。
もしかすると、このまま死ぬのも悪くないと――死ぬ理由は浮かんでも、これから先を生きる理由に執着がなかった。
しかし、ずっと空を見ていて、ふと思った。
……いや。ダメだ。
いや、違う。これで終わりじゃない。
このまま死ぬのは、道義に反する事ではないか。
それは、自分自身も望んでいない事だ――たとえどんな不幸の最中にあるとしても。
「アタシは――」
空に翳した力なき手を、無理矢理にぐっと握った。
魔法少女同士が殺し合う道に分岐した、この世界の夢咲いちごは――誓った。
この後で、どんな手を使ってでも、自分の仲間を蘇らせると。
そうだ。まだチャンスはあると。
「アタシは、仲間を――友達を絶対に見捨てない。もう二度と」
勝ち残ろう。最後に勝ち残った一人だけが報酬を得られる。
そう固く誓い、やがて、情けを殺して、その手に握る木刀を血に染めるようになった。
どんなに嫌であっても、それが彼女の最適解だった。
友を背負った時、彼女は誰より強くなった。どういうわけなのか、魔法値が不思議なほどに上がった。
それからの躊躇の数は知れないが、それを超えて殺した敵の数も少なくない。
僅かな間で、彼女の姿はかつてとは全く別の魔法少女のモノへと変わり、阻む魔法少女たちを次々と撃破した。
人を、殺せた。
最後まで気分は良くはなかったが――彼女は己の譲れない理屈の為に、犠牲を作る事を由とするほどに強かったのである。
……そして、気づけば、魔法少女同士が争う戦場の頂点に、彼女は立っていた。
いくつもの偶然もあったが、背水の陣の如き覚悟を伴い、彼女は――殺し合いにただ一人、勝ち残った。
百分の一の戦士になったのである。
優勝者としての彼女は、願いを叶える権利を得た。
彼女は、殺し合いを終えて、その殺し合いを拓いた主催者の前に立っていた。
「――願いを叶えるには、条件がある」
と、主催者からは詐欺のような言葉が聞こえた。
戦いに意味があったのかはわからないが――結果的に、どう転んでも意味はなかった。ただ、ここにいる事がベストであった。
詐欺だとしても、詐欺でない可能性に縋り続ける事しかできなかったのだ。
怒る心も湧かずに諦めかけたが、しかし、その言葉には続きがあった。
「――あと一人だけ殺す事だ、マジカル女番長。
そう、この殺し合いに巻き込まれなかったお前自身を殺した時、全魔法少女の死に様が完成する。
異世界に行き、夢咲いちごを殺せ。
その時になって、初めて、勝者の願いは叶うだろう――」
殺し合いの報酬を得るには、異世界の自分を殺す事。
それが条件だった。
露悪趣味によって始まったこの殺し合いは、魔法少女の死にざまを見る事を目的としていたのだと、この時に知った。反吐が出る。
――しかし、それが最後の条件であるならば、といちごは思っていた。
解答は一つ。
夢咲いちごは、友人の為ならば自分を殺す事が出来る女だった。
ゆえに、彼女は、自分が「殺し合いに巻き込まれずに生き続ける分岐世界」へと向かい、夢咲いちごをその手で殺す事を決意した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【前回のあらすじ】
黄島クリスティーヌの正体が、同じクラスの相羽くんにバレた。
【簡易人物紹介】
夢咲いちご/マジカル女番長
極悪帝国と戦う三人の魔法少女のひとり。変身すると、暴走族の特攻服を着て木刀などで戦う『マジカル女番長』になる。
女番長に憧れているだけの高校一年生。昭和趣味。メンタル弱い。
彼女の戦う目的は――「あこがれの(ドラマの)女番長に近づく為」。
誕生日は、4月1日。
一人称:アタシ(変身後だけアタイ)/身長165cm/長い黒髪/鋭い目つき/同級生全員ブレザーなのに一人だけ漆黒セーラー服/わりと巨乳
緑川綾香/マジカル委員長
極悪帝国と戦う三人の魔法少女のひとり。変身すると、弓矢とか和の武装で戦う袴っ娘の『マジカル委員長』になる。
いちごのクラスの委員長。成績優秀。容姿端麗。自意識過剰。父親が警官。
彼女の戦う目的は――「地球の秩序を守る為」。
誕生日は、4月2日。
一人称:私/身長157cm前後/三つ編み/めがね/かなりきっちりと制服を着ている
青山未羽/マジカルギャル
極悪帝国と戦う三人の魔法少女のひとり。フリフリの衣装を着てリコーダー型のバトンなど可愛いアイテムで戦う『マジカルギャル』。
いちごのクラスのギャル。成績が地の底。将来の夢は「幼稚園の先生」。ポジティブかつテキトーだが優しい。
彼女の戦う目的は――「心が動くままに、やりたいようにやる!」。あと子供たちの未来の為。
誕生日は、9月13日。
一人称:ウチ(たまにミウ)/身長チビ(クラスで四番目に背が低い)/ぱっつんショートヘア/ギャル特有の着くずし
ワニワニン
異世界連邦警察からやって来たワニの妖精で、三人に『魔法』を与え、極悪帝国と戦う使命を与えた。
極悪帝国と戦う為とはいえ、「普通の生活をしている少女を戦いに巻き込む」という仕事柄、メンタルヘルスに罹っていて、定期的にその事で病む。
黄島クリスティーヌ/ファントムお嬢様
極悪帝国から、マジカル三姉妹の秘密を探るべく、(勝手に)スパイをしに来た悪役令嬢(?)。
マジカル三姉妹や卑しい地球人は見下しているが、「良い地球人」は選別して侵略後に貴族にしてあげようと考えている。
めちゃくちゃ冷酷な反面で、その目が向けられる対象は、あくまで「彼女が悪と認定した者や自分に歯向かって来る者」で、良いヤツだと判断した人間には手厚い。ただ、場合によっては少数を切り捨てる。
頭のネジが外れており、スパイの為に転校するクラスを間違えた挙句、アパートの家賃を払い損ねてホームレスになり、最終的に夢咲家に引き取られ、現在は「マッドサイエンス研究所」という怪しいところでバイトしている。
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